医学界新聞

連載

2018.02.26



今日から始めるリハ栄養

入院したときよりも機能やADLが低下して退院する患者さんはいませんか? その原因は,活動量や栄養のバランスが崩れたことによる「サルコペニア」かもしれません。基本的な看護の一部である「リハビリテーション栄養」をリレー形式で解説します。

[第1回]リハビリテーション栄養とは

今回の執筆者
若林秀隆(横浜市立大学附属市民総合医療センター リハビリテーション科講師)


「リハ栄養」は全ての看護師が持つべき視点

 超高齢社会の日本では,患者さんも超高齢化しています。高齢入院患者さんの場合,原因疾患以外にさまざまな併存疾患があるだけでなく,サルコペニア,低栄養,フレイル,障害を認めることも多いです。

 入院中,特に急性期病院は疾患の治療に専念しがちであり,「とりあえず安静・禁食・水電解質輸液」といった指示が出ることは少なくありません。その結果,入院の原因疾患が改善したときにはサルコペニアや低栄養が悪化し,時に退院困難となってしまうこともあります。

 サルコペニアとは進行性,全身性に認める筋肉量減少と筋力低下であり,身体機能障害,QOL低下,死のリスクを伴います。しかし,入院当日から疾患の治療と並行して,リハビリテーション(以下,リハ)栄養の視点を持って看護を行えば,サルコペニアや低栄養の悪化を軽減できます。本連載では基本的な考え方(第3回まで)と,症例に対するリハ栄養の実践(第4~9回)の全9回でリハ栄養を解説します。今回は,国際生活機能分類(ICF)とリハ栄養の考え方を紹介します。

生活機能の向上にはリハと栄養の両者が不可欠

 ICFは人間と環境との相互作用を含めて,人間の健康状態を系統的,全人的に評価するツールです1)図1)。ICFでは,心身機能・身体構造,活動,参加といった生活機能と,健康状態,環境因子,個人因子を評価します。ICFは生活機能を全般的にみる評価ツールですので,広義では「看護診断のリハ版」といえるかもしれません。

図1 国際生活機能分類(ICF)
個人の生活機能は各概念の複合関係にあり,各概念間には双方向の関係が存在する。

 それぞれの要素については,例えば「心身機能・身体構造」には,疾患の結果として生じる筋力低下,関節可動域制限,摂食嚥下障害,呼吸機能障害,高次脳機能障害,膀胱直腸障害などだけでなく,栄養障害も含まれます。

 「活動」は,基本的日常生活活動(BADL),手段的日常生活活動(IADL),高度日常生活活動(AADL)に分類でき,BADLは食事,整容,更衣,排泄,移動,入浴です。IADLには,調理,洗濯,掃除,買い物,公共交通機関の利用,服薬管理,金銭管理,電話・インターネットの利用などが含まれます。AADLは単に自立して生活する以上の活動であり,普段楽しんでいる趣味,余暇,スポーツ,ボランティア,仕事などの活動です。

 「参加」は社会参加,家庭内役割,入院患者であれば家庭復帰などを意味します。「環境因子」には同居家族,家屋環境,自宅周囲の環境など,「個人因子」には年齢,性別,性格,価値観などがあります。

 ICFでは心身機能に栄養障害が含まれています。そのため,低栄養に陥ると,それに伴って他の心身機能・身体構造や活動,参加といった生活機能が悪化します。一方,栄養が改善すれば他の生活機能は改善します。つまり,生活機能を最大限高めるためには,リハだけでなく栄養も大切です。

5ステップからなるリハ栄養ケアプロセスとは

 リハを要する高齢入院患者の約50%に低栄養やサルコペニアを認めるため,リハ栄養の考え方は重要です。リハ栄養とは,ICFによる全人的評価と,栄養障害,サルコペニア,栄養素摂取の過不足の有無と原因の評価,診断,ゴール設定を行った上で,障害者やフレイル高齢者の栄養状態やサルコペニア,栄養素摂取,フレイルを改善し,機能・活動・参加,QOLを最大限高める「リハからみた栄養管理」や「栄養からみたリハ」です2)

 質の高いリハ栄養の実践には,以下の5つのステップで構成されるリハ栄養ケアプロセスが有用です(図2)。

図2 リハ栄養ケアプロセス(『サルコペニアを防ぐ! 看護師によるリハビリテーション栄養2)より一部改変)

リハ栄養アセスメント・診断推論:ICFによる全人的評価,栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の評価・推論
リハ栄養診断:栄養障害・栄養素摂取の過不足・サルコペニアを診断
リハ栄養ゴール設定:仮説思考でリハや栄養管理のSMARTなゴール設定(
リハ栄養介入:「リハからみた栄養管理」や「栄養からみたリハ」の計画・実施
リハ栄養モニタリング:リハ栄養の視点で栄養状態やICF,QOLの評価

 このプロセスは看護過程と同じですので,看護師の方にはなじみやすいと思います。

看護診断からサルコペニアとリハ栄養を考えてみると……

 当院の場合,リハを要する入院患者の看護診断は「転倒転落リスク状態」が最も多く,次が「皮膚統合性障害リスク状態」です。誤嚥リスク状態,嚥下障害,身体可動性障害,非効果的呼吸パターンの診断も少なくありません。低栄養やサルコペニアは,これら全ての看護診断の原因となります。裏を返せば,これら全ての関連因子に低栄養やサルコペニアが含まれます。

 サルコペニアの目安となる筋肉量の減少は,日本人の高齢入院患者では下腿周囲長(ふくらはぎの最も太い部分の周径)が男性30 cm以下,女性29 cm以下です3)。サルコペニアの原因は,加齢,活動(廃用性筋萎縮),栄養(エネルギー摂取不足),疾患の4つに分類され,これらのうち入院患者で特に問題となるのは,活動と栄養です。

 例えば,医療者が適切な評価を行わずに「とりあえず安静・禁食」を行ってしまうことが挙げられます。一日中ベッド上で安静に過ごすと,筋肉量は1日当たり0.5~1%減少します。その結果,入院前はサルコペニアのなかった高齢者でも退院時には15%がサルコペニアとなり4),入院前は摂食嚥下障害のなかった高齢者が,入院後2日間以上禁食とされると26%が摂食嚥下障害となります5)

 また,「とりあえず禁食・水電解質輸液」という入院時指示もよく出ます。1本500 mLの輸液製剤を1日3本,末梢静脈から投与することが多いです。よく使用される3号液(ソルデム®3Aなど)の場合,500 mLでエネルギーは86 kcalですので,1日当たり258 kcalとなります。当然,エネルギー摂取不足ですので,低栄養によるサルコペニアが進行します。「とりあえず安静・禁食・水電解質輸液」という医師の指示に看護師が盲目的に従うことで,医原性にサルコペニアが作られてしまうことも現実にあります。

 看護師がリハ栄養の考え方を持つことで,医原性サルコペニアを減らすことができます。入院時の「とりあえず安静・禁食・水電解質輸液」に疑問を持ち,入院当日から適切な評価のもとで早期離床,早期経口摂取,適切な栄養管理といったリハ栄養を行えば,転倒転落や皮膚統合性障害のリスクも軽減します。多くの看護師がリハ栄養の視点を持った上で,医師,管理栄養士,リハスタッフと連携することを期待します。

今日からこれを始める!

●ICFは看護診断のリハ版といえる存在です。ICFを使い,看護の幅を広げましょう!
●医原性サルコペニアを減らすため,「とりあえず安静・禁食・水電解質輸液」の指示に注意しましょう。
●転倒転落や皮膚統合性障害のリスクなどを軽減するリハ栄養の視点を,看護診断に入れましょう。

つづく

:SMARTなゴール設定
SMARTとは,ゴール設定の立案の際に考慮すべき以下の事項の頭文字を取ったもの。具体的(Specific),測定可能(Measurable),達成可能(Achievable),重要・切実(Relevant),期間が明確(Time-bound)

参考文献
1)障害者福祉研究会.ICF国際生活機能分類――国際障害分類改定版.中央法規;2002.
2)若林秀隆,荒木暁子,森みさ子編.サルコペニアを防ぐ! 看護師によるリハビリテーション栄養.医学書院;2017.
3)Ann Nutr Metab. 2017[PMID:28647743]
4)J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2017[PMID:28913934]
5)J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017[PMID:27707804]

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