みんなで育てる! 新卒訪問看護師(山田雅子,小瀬文彰)
対談・座談会
2017.11.27
【対談】
みんなで育てる! 新卒訪問看護師病院・教育機関は何ができるか
山田 雅子氏(聖路加国際大学大学院看護学研究科 在宅看護学分野教授)
小瀬 文彰氏(ケアプロ訪問看護ステーション東京/全国新卒訪問看護師の会代表)
地域包括ケア時代を迎え,地域の看護人材の育成は急務となっている。その一つが,新卒の訪問看護師を育てるシステムの構築だ。地域で支える医療を提供するために,新卒訪問看護師の育成に病院や教育機関はどんな役割を果たせるか。
本紙では,新卒訪問看護師の採用・教育の実態調査やプログラム作成にかかわってきた山田雅子氏と,新卒で訪問看護師になって5年目の小瀬文彰氏を迎え,新卒訪問看護師の教育の実態を聞いた。両氏の語りからは,新卒訪問看護師から始まるキャリアの魅力と,主体的な学びに不可欠な地域の協力の重要性が見えてきた。
山田 小瀬さんは新卒で訪問看護師になって5年目でしたね。30年ほど前,実は私も今で言う「新卒訪問看護師」でした。当時は制度として「訪問看護」が整う以前なので厳密には異なるものの,新卒で配属された聖路加国際病院公衆衛生看護部で,私は今の保健師と訪問看護師を兼ねたような役割を担っていました。そうした経験から,新卒からでも訪問看護はできるという思いをかねてより持っていました。
地域の訪問看護師育成には,病院の意識改革が鍵
山田 しかし最近に至るまで,新卒訪問看護師は珍しい存在でした。学生が興味を持っていないというわけではありません。日本看護系大学協議会が2001年に行った「看護系大学学生の卒業後の進路希望に関する調査」によれば,看護系大学卒業生で「訪問看護事業所等への就職を希望する」と回答した人は19.6%と,5人に1人が関心を持っています。小瀬さんが新卒で訪問看護師になった5年前にも,関心を持つ人は周囲にいたでしょう?
小瀬 そうですね。知り合いに新卒訪問看護師になった人は1人もいませんでしたが,在宅看護実習で,病気や障害を持ちながらも自宅で楽しそうに暮らす人々の姿を目にして,「訪問看護師,いいよね」と話す友人たちは多かったです。でも結果的には一様に病院就職を選んでいて,「まずは病院で経験を積んでから」という感じでした。
5年前,ある病院看護部長の方と話して,「訪問看護では急変対応などを学べないから,新卒は病院に就職しなさい」と言われたことが印象に残っています。訪問看護ステーションの管理者の多くも新卒採用について考えてはいたと聞きましたが,「本当に教育できるのか」という問いに答えを出せていない状況だったように感じます。
山田 将来的には訪問看護にかかわりたくても,病院就職のイメージや,当時は訪問看護ステーションでの新卒教育体制に不安を覚えたことなどもあって,病院へ就職してしまったのでしょう。でも,訪問看護関連団体が「新卒はNo!」という姿勢だったのは過去の話です。地域で,「支える医療」を実践するため,訪問看護ステーションは新卒を育てる方向へと徐々に動き始めました。
小瀬 学会や研修会などでも,「どう教育していけばよいか」にテーマが変わってきた感触があります。というのも,日看協,日本訪問看護財団,全国訪問看護事業協会の発行した「訪問看護アクションプラン2025」では訪問看護師の数を現在の約3倍の15万人にすることを目標に掲げています。この中には,新卒者の就業の必要性と教育モデルの確立が明記されているのです。
実際に新卒訪問看護師は増えてきています。新卒訪問看護師同士での交流などを目的とした「全国新卒訪問看護師の会」(MEMO)を組織し,代表をしているのですが,私が知る限りで2017年度は50人の新卒訪問看護師が誕生しています。
山田 「訪問看護アクションプラン2025」では,医療機関と訪問看護ステーションによる相互の人材育成システム構築にも言及しています。地域の訪問看護師を育てることは,その地域で連携して医療を提供している病院にとってもひとごとではありませんし,地域に貢献すべき教育機関の務めでもあります。
病院には訪問看護師の主体的な学びを支援してほしい
小瀬 山田先生のおっしゃる通り,新卒として就職し,一人で訪問できるようになり,さらにスキルアップする過程で,病院や教育機関の支援があったからこそ学べたこともありました。訪問看護師の声を受けて,学びの場を作っていただけるのはうれしい限りです。
山田 小瀬さんはケアプロ訪問看護ステーション東京初の新卒訪問看護師でしたよね。試行錯誤しながら育ってきたことでしょう。どのような教育を受けてきたのですか?
小瀬 基本的には訪問看護の同行と振り返りを繰り返し,演習可能な手技は事業所で練習しました。その後,訪問しながら自分に足りないと気付いたことを提案し,ステーションに掛け合ってもらって,病院や大学のシミュレーションセンターに協力してもらったのです。在宅では慢性疾患で安定期の患者さんがほとんどで,特に新卒者は急変対応など,在宅であまり経験しない事例には対応力が不足してしまいがちです。病院ではICUや病棟を見学し,夜間救急の様子も見せていただきました。大学ではシミュレーション機器を用いて心肺蘇生トレーニングを受講しました。
山田 在宅だけでは学ぶことが難しいものに対しては,病院や教育機関に後押ししてほしいですね。聖路加国際大では「オーダーメイドで学ぶ訪問看護」という生涯教育プログラムを開講しています。ステーションの求めに応じる形で,例えばインスリン注射やおむつ交換といった技術について,豊富な教育資源をフル活用し,実物を使って,納得するまでとことん練習できる人的・物的環境を提供しています。
新卒者を採用する側にとっては採算性も気掛かりなところです。看護師の技術力でなく,「頭数」で診療報酬を得られる病院とは違い,訪問看護師は「1人で稼ぐ力」が求められます。この点が新卒者の採用を困難にする大きな課題でした。小瀬さんはこれについて分析していましたよね。
小瀬 結論として,マイナスがずっと続くわけではありません。育成のペースにもよりますが,新卒でも9か月で損益がプラスに転じ,18か月前後で採用・育成のコストを回収することができます1)。しかし,大多数のステーションは小規模で,これらのコストや教育の時間を割くことのハードルは高く,公的な支援の必要性を感じます。
また,1~3年目までの育成支援から発展し,今後は長期的なキャリアの視点を持った支援が必要だと感じています。例えば,病院では当たり前に行われている,後輩の育成やリーダーシップ,マネジメント力向上のための研修です。新卒訪問看護師がこれらの機会を得られるシステムを,他のステーションや病院・教育機関などと協力し,共に作っていきたいと思います。
「支える医療」を実現する,訪問看護から始まるキャリア
小瀬 話は変わりますが,新卒で訪問看護師になって印象的な思い出があります。1年目の頃,病院に就職した同期と看護について話し合って,価値観が全然違っていたことに驚きました。私は個々の訪問先の利用者さんにどうケアをしたらよいかについて悩んでいたのですが,病院では業務を時間内でどう終わらせるかが一番の悩みだと言うのです。患者さんともっと話し,寄り添いたいという気持ちを持っているとは思うのですが……。
山田 寄り添いたい気持ちは病院看護師にもあるでしょう。私が病院看護部長だったとき,「寄り添う看護をしたいのに,業務が忙しくてできません」と看護師に訴えられたことは何度もあります。でも,いざ...
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