医学界新聞

2017.10.09



Medical Library 書評・新刊案内


《ジェネラリストBOOKS》
身体診察 免許皆伝
目的別フィジカルの取り方 伝授します

平島 修,志水 太郎,和足 孝之 編

《評者》青木 眞(感染症コンサルタント)

明確な目的を持つこと,そして温かな人間関係を築くこと

 臨床の極意は「自分が何をしようとしているか(≒鑑別診断)」を明確に意識・言語化することにあるといえる。その意味では本書の副題に「目的別」という言葉が含まれることが既に,この本の企画が優れていることを示しているといってよい。

 3人の編集者は,評者が医学部を卒業した頃に生まれた若い方々であるが,いずれも評者が病気をしたら主治医になって欲しい臨床医たちである。言い換えれば,臨床現場で何が問題となっており,それ故に何を考え,何を探せば良いのかが明確な医師たちである。自然,彼らは教え上手であり,既に臨床教育の世界でかなりの知名度を持っている。この3人の若手医師たちが中心となり編集したのが本書であり,基本的に「何をしようとしているか」を軸に構成されている。具体的には「リンパ節腫脹」「しびれ」といった臨床的な切り口に対して鑑別診断を挙げてから,「探しに行くべき身体所見」を教えている。)

一部を紹介すると……
・ 「しびれの診察には,筋力と感覚の評価が必要である」(p.35)。しびれの章には冗談抜きで本当に“しびれ”た。同時に専門医と総合診療医の協力関係の重要性を考えさせられた。
・ 錐体路障害の所見例。Babinskiの自動回内徴候,第5指徴候,指折数え試験,下肢の外旋位(pp.41~43)。
・ 「左右差のない意識障害患者をみたら,まずはくも膜下出血を考えると意識しておくべき」(p.56)。
・ 下血と血便。「黒い固形便であれば,結腸から直腸内に停滞していた時間が比較的長期であると思われるため,上下部両方を考慮しなければならない。便の中に赤い血液が練り込まれていれば,固形便が形作られる前の部位で出血しており,肛門側から距離があることが想定される」(p.139)。
・ 「回盲部は病気の宝庫!」回盲部周囲の炎症を起こす疾患は,虫垂炎のほか,回盲部憩室炎,Meckel憩室炎,回盲部炎(細菌性腸炎),腹膜垂炎,骨盤内炎症性疾患,異所性妊娠,卵巣出血(p.156~157)。
・ 関節の診察法における関節の熱感。「基本的には関節は血流が乏しい組織で,周囲の筋組織に比べて冷たいのが原則である」(p.200)。
・ 「必ず見える眼底診察」(p.220)。いろいろな流儀があると思うが,評者も最初はこの方法が良いと思う。

 評者自身は臨床教育の場で必ずしも多くの時間を身体診察に割くタイプではない。感染症コンサルタントというsubspecialtyとも関係するが,艦隊の示威行動よろしく多数の初学者を引き連れ,漫然とベッドサイドで過ごす時間に大きな教育効果や診療上の意義を感じないためである(何より病棟スタッフや患者に負担を強いる)。代わりに評者は2~3名の研修医・学生と「この所見の有無だけ調べに行こう」と「目的」を明確にしてからベッドサイドに向かう。

 ちなみに「目的」が明確なだけでは人間模様渦巻くベッドサイドで血の通った身体診察の教育はできない。温かい人間関係を患者や研修医らと築き上げながら,ここまで歩んできた著者らの臨床医マインドが本書の根底に流れていることもぜひ感じ取っていただきたい。多くの読者を得ることを望みます。

A5・頁248 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03029-8


精神科レジデントマニュアル

三村 將 編
前田 貴記,内田 裕之,藤澤 大介,中川 敦夫 編集協力

《評者》伊井 俊貴(名市大大学院・精神・認知・行動医学/日本若手精神科医の会理事長)

「心のよりどころ」として心強い実践書

 21世紀は心の時代。随分前から言われてきた言葉ではあるが,心の問題に対する解決策は見えてこない。精神科の診療は心の問題に悩む患者で溢れ返る。統合失調症の患者が妄想を悪化させて興奮しているかと思えば,彼氏にふられた女性がリストカットして来院する。不登校になった子どもを母親が心配して来院し,別の男性は眠れないからもっと睡眠薬を出してくれと攻撃的に訴えてくる。

 心の問題を抱えた多くの患者に,精神科医はどう対応したらよいだろうか? しなくてはならないことは多種多様である。医学的に診断をして薬を出すだけでは問題は解決しない。統合失調症の患者を入院させるのであれば,家族に納得してもらわなければならない。彼氏にふられた女性の話を聞いて,再発を予防しなくてはならない。不登校の子どもの母親の不安を傾聴し,共感してあげなければならない。睡眠薬の要望に対しては,依存の可能性を説明し,減量に向けた取り組みを行わなければならない。そして,これらの問題に必死に対応することでたまるストレスから,自分自身が燃え尽きてしまうことも防がなくてはならない。

 これらの問題にどう対処したらよいかについて,医学部で学ぶ機会はほとんどない。また,こうすればよいという明らかな方針もない。先輩の医師に相談することは役立つが,いつも相談できるわけではない。しかしながら,自分だけで考えていると「本当に自分のやっていることが正しいのか?」という不安にさいなまれる。もちろん,失敗を繰り返しながら学ぶことは重要であるが,事前に知識を得ることで失敗を防げるのであれば防ぎたい。さまざまな問題にどう対処したらよいかについてのアドバイスがあり,かついつでも参考にできるものがあると,大変助かる。そしてそのような役割を果たせる本の一つが本書である。

 本書は第1章で精神科診療における7つの心得を,第2章でシチュエーションに応じた対応のコツを知ることができる。第3章で検査や評価,第4章で診断,第5章で治療に対する一般的な方針を学ぶことができる。そして第6章で主要症候,主訴に応じた対応方法を,第7章で疾患ごとの対応方法を知ることができる。さらに,第8章では,困難な患者への対応といった諸問題への対応方法を,第9章では覚えておきたい法律・制度を,第10章では多職種連携の方法を,第11章では医療分野以外との連携について学ぶことができる。

 本書の特徴は「実践的」なところである。統合失調症の家族にどう説明すべきか,自殺念慮にどう対応すればよいか,母親の不安をどうノーマライズすればよいか,攻撃性に対してはどのようなスタンスで臨めばよいか,さらには,精神科医が燃え尽きないためにはどうしたらよいかなどについて,具体的に知ることができる。もちろん,これらの問題に対して決定的な解決方法があるわけではない,これらの問題に対して,経験のある先生方の一言が記された本書は私にとってはいつでも参照できる「心のよりどころ」として心強い本である。

B6変型・頁352 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03019-9


OCTアンギオグラフィコアアトラス
ケースで学ぶ読影のポイント

吉村 長久 編
加登本 伸 編集協力

《評者》大野 京子(東医歯大教授・眼科学)

卓越した画像診断技術の書

 今,眼底画像診断における最もホットなトピックは,まぎれもなく,OCTアンギオグラフィである。つい先日までは,OCTアンギオグラフィは研究レベルの技術であり,臨床でのルチーンな応用には程遠いように思われていたが,昨今の撮影スピードや撮影範囲の改良,画質解像度の著しい向上などにより,蛍光眼底造影に代わる,もしくはかなりの分野では,蛍光眼底造影と異なる情報を得ることができ,造影検査を凌駕する診断機器となっている。しかも非侵襲である。これからも,OCTアンギオグラフィが画像診断の最もホットなトピックであり続けることは間違いない。

 このようなニーズを背景に,今回,満を持して出版されたのが,吉村長久先生(北野病院病院長)編集の本書『OCTアンギオグラフィコアアトラス』である。手に取っただけで,表紙を飾る選び抜かれた画像が美しく,画像診断に卓越したセンスを有する吉村先生ならではのこだわりを感じさせる。序で吉村先生自身が,OCTアンギオグラフィはまだ新しい診断機器であり,この時点でアトラスを出版することが良いか考えたが,名著『加齢黄斑変性 第2版』(医学書院,2016年)を出されたときにOCTアンギオグラフィの所見を盛り込めなかったことが,本書を執筆された動機であると述べられている。なるほど,本書は単独で素晴らしい名著であるが,さらに『加齢黄斑変性 第2版』と共に読むと,吉村先生の画像に対する一貫した美学を痛感していただけるのではないかと思われる。

 本書では,最初にOCTアンギオグラフィの基本として,原理やアーチファクトについてわかりやすく解説されている。基本を理解し,正常眼底のアンギオグラフィ所見が解説された後,第3章からはいよいよさまざまな疾患のアンギオグラフィ所見へと進む。

 そこでは,京大に蓄積された豊富な症例を背景に,実際の症例のアンギオ画像が,眼底写真や蛍光眼底造影,眼底自発蛍光,OCT画像などのmultimodal imagingの画像と共に提示されている。実際の症例で,OCTアンギオグラフィの所見がどのように見られるのか,症例を経験することが理解を深める最善の方法であると,吉村先生がおっしゃっているように思われる。疾患もAMDから,pachychoroid neovasculopathyやMacTelに至るまで,新しい疾患概念が全て網羅されている。また,黄斑疾患だけでなく,第4章では緑内障におけるOCTアンギオ所見が示されている。特に,放射状乳頭周囲毛細血管や篩状板レベルでの血管の脱落と視野障害がいかに関連しているかが示されている。第6章の網膜血管閉塞性疾患では,まるで血管鋳型標本を見ているかのごとく,虚血型RVOに見られた乳頭部新生血管の美しい網目状構造に目を引きつけられる。さらに,陳旧期CRVOで見られる乳頭上の側副路のうねうねととぐろを巻いている様子を一本一本観察できることに感動を覚える。

 眼底画像診断に卓越したセンスを持たれ,網膜疾患だけでなく緑内障をはじめとする視神経疾患に長い伝統を有する京大ならではの素晴らしい書である。普段の臨床でこれだけのさまざまな疾患や貴重な画像を見られるチャンスはなかなかない。ぜひ本書を通じて,さまざまな症例をバーチャル体験することにより,この最先端の画像診断技術を自分のものにしていただきたい。症例を積み重ねることこそが良き臨床医になる最も確実な道である,しかしそのために緻密かつ正確な観察眼を持っていなくてはならない。そのメッセージを吉村先生が教えてくれる書である。

B5・頁168 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03005-2


てんかんとその境界領域
鑑別診断のためのガイドブック

Markus Reuber/Steven Schachter 編
吉野 相英 監訳

《評者》浜野 晋一郎(埼玉県立小児医療センター神経科部長)

てんかんに携わる医師必携の一冊

 最近,書店で医学書を眺めていると,“するべきこと”と“してはいけないこと”,それだけが手っ取り早くわかるガイドライン・マニュアルの類いと,疾患単位ごとに病態と治療が詳細にまとめられた重厚な成書に二極化している感がある。長文を読まず最低限のことだけ,スマホ感覚で知っておきたい人種と,深く深く掘り下げたいオタク的な人種に帰因した二極化に思われる。その他に,買っただけで安心し,ほとんど読まず,読んでも拾い読みの私のような中途半端な人種も少なからずいるのだろう。

 本書は,私のような中途半端な人種でも,一度眺めてみたら,第1章から読み進んでしまう不思議な本である。具体的な症例提示が多いからかもしれない。ただし,第1章のWilliam Gowersはてんかん症例として記載されているわけではない。本書の表題が,1907年に出版された『The Border-land of Epilepsy』というGowersの著作に由来しているためである。『The Border-land of Epilepsy』は誤診されていた症例の臨床経験を基に,てんかんと見誤りやすい周辺疾患を解説した成書である。本書もその系譜を受け継ぎ,50以上の症例が提示されている。症例の具体的な記載により,目の前にいる患者として疾患の理解を深められる。Gowersの著作から100年間のてんかん学の進歩にも対応し,自己免疫介在性てんかん,片頭痛とmigralepsy,小児のてんかん性脳症,自閉症,チック,ならびにてんかん発作の前駆現象においてはてんかん発作の予知に関する取り組みも解説している。併存症としてうつ病,精神病,パーソナリティ障害を取り上げ,アルコールとの関連にも一章を割き,てんかん併発疾患がほとんど網羅されている。

 本書を読んで痛感することは,100年前と変わらないてんかん診療における問診の重要性である。患者と観察者に注意深く耳を傾け,症状の本質を引き出す能動的な問診の大切さが,本書の柱になっている。まさにGowersから受け継いだ理念である。さらに,具体的な症例提示もGowersから受け継がれており,患者から学ぶ,そのことをあらためて実感させられる本である。てんかんという境界不明瞭で不確かな疾患は,除外診断が重要で,ガイドラインとマニュアルが示す中核の病態とそれに基づく治療だけでは落とし穴だらけになる。だからこそ,本書はガイドライン・マニュアル派の医師にとっても必携の書と思われる。

 最後に訳本である本書に関して一点付記したい。本書の監訳者の吉野相英先生(防衛医大精神科),訳者の一人の立澤賢孝先生(防衛医大精神科)は,7年前にPeter W. KaplanとRobert S. Fisherによる『Imitators of Epilepsy』を翻訳し,『てんかん鑑別診断学』(医学書院,2010年)として出版している。本書の翻訳に最適なお二人が参加していることも,本書をお薦めする要素の一つである。

B5・頁344 定価:本体10,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03023-6

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook