医学界新聞

2017.09.04



第15回日本臨床腫瘍学会開催


 第15回日本臨床腫瘍学会学術集会(会長=岡山大大学院・谷本光音氏)が7月27~29日,神戸コンベンションセンター(兵庫県神戸市),他にて,「最適のがん医療――いつでも,何処でも,誰にでも」をテーマに開催された。本紙では,シンポジウム「ビッグデータ・AI・ゲノム創薬――AIや各種統計解析手法を用いたビッグデータ解析によるゲノム創薬の最前線」(司会=京大大学院・奥野恭史氏,岡山大大学院・冨田秀太氏)の模様を紹介する。

多種多様かつ膨大なゲノムデータをどう活用するか

 医薬品開発の成功率は低く,長い歳月と高額な費用が掛かる。産学AIコンソーシアム「ライフ・インテリジェンス・コンソーシアム(LINC)」代表の奥野氏は,そうした状況を打破するためのAI創薬の現状を紹介した。氏はAI活用の成果を述べた上で,予測範囲や精度は学習データに依存するため未知領域の予測はできずデータ量が少ないと予測精度が低く,特徴量の具体化や因果推論が困難といった限界に言及した。計算機シミュレーションで学習データの質と量を担保し,機械学習で精度を向上,必要最小限の実データで誤差を補正するハイブリッド型のAI活用を提案した。

 Watson for Genomics(WfG)を用いた臨床シークエンスを紹介したのは,古川洋一氏(東大医科研)。NGSが急速に発展した現在,ボトルネックは発見された遺伝子変異・多型の解釈と言える。WfGは,人では目を通しきれない膨大な量の論文,ガイドライン,承認医薬品,臨床試験情報,薬剤・化合物データなどを学習し,アップデートし続けている。患者ゲノム情報からドライバー変異や候補薬剤,関連エビデンスを出力する。東大医科研病院の血液内科では昨年10月までに113例を解析し,27例に治療薬が見つかったという。実際に投与できたのは8例。氏は,WfGが行うのは予測のみであり,予測結果をもとに治療を検討するには医師の役割が重要だと強調した。

 遺伝統計学を専門とする岡田随象氏(阪大大学院)は,ゲノム解析を病態解明や創薬につなげる手法のうち横断的オミックス解析を解説した。ゲノムデータ行列は主成分分析などの機械学習手法と相性が良く,ゲノム情報に基づく集団構造の解明等に適しているが,通常の行列とは行と列の長さが著しく異なるためにp〉〉n問題や過学習を引き起こしやすいと指摘。また,複雑系を単純データに写像して特徴量を抽出する手法であるディープラーニングに対して,比較的単純な構造であるゲノムデータを適用するには一工夫が必要であるとの考えを示した。

 東北メディカル・メガバンク機構の荻島創一氏は,同機構のコホート研究の現状を報告した。ゲノム情報には悉皆性があるが表現型情報はないため,ビッグデータの利活用には診療情報の取得と精確なフェノタイピングが重要性だと指摘した。

 情報学的観点からは,井元清哉氏(東大医科研)がビッグデータを集めるための仕組み作りの重要性を呼び掛けた。現在は集まったデータを科学者が解析する流れが主であるが,これからはどのようなデータを集めるべきかの検討段階からコミットし,データ収集から解析結果の共有までの一連のシステムをAIやIoT技術を活用した学習システムへと発展させていく必要があると述べた。

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