医学界新聞

寄稿

2017.08.21



【寄稿】

米国の指導医は研修医をどのように評価しているのか

野木 真将(米国クイーンズメディカルセンター・ホスピタリスト部門)


 筆者が米国ハワイ大内科プログラムでチーフレジデントを務めていたときの重要な仕事に,研修医の評価がありました。日米での臨床経験から比較すると,研修医評価が日本の医学教育のアキレス腱であると感じます。本稿では,米国の研修医評価の変遷と実際の運用についてご紹介します。

コンピテンシーに基づく教育への批判と客観的評価の導入

 ACGME(卒後医学教育認可評議会)と各専門医学会は合同で,研修医教育の柱となるコンピテンシーを1999年に明文化しました。コンピテンシーは以下6つで構成されます。

1)Patient care(患者ケア)
2)Medical knowledge(医学知識)
3)Practice-based learning and improvement(診療に即した学習と改善)
4)Interpersonal and communication skills(対人/コミュニケーションスキル)
5)Professionalism(プロフェッショナリズム)
6)Systems-based practice(システムに基づく診療)

 これ以降,研修医評価はプロセス中心の評価からアウトカムを重視する評価に転換しました。あらゆる研修医教育はコンピテンシーを中心に組み立てられます。ハワイ大においても,6つのコンピテンシーごとに9段階で研修医が評価され,さらに自由記述欄に詳細なコメントが記載されていました。

 しかしこのcompetency-based trainingは,普及の最中に試練にさらされます。研修医の給与や教育は税金が主な財源となっていますが,納税者である一般市民にとってコンピテンシーは抽象的過ぎて支持を得られませんでした。さらには医療界からも,プログラムごとの工夫が出しにくい点や問題のある研修医の早期発見が難しい点が指摘されました。 そこで,よりイメージしやすく客観的な研修医評価方法が,ACGMEを中心に検討されることになりました。

 そして2009年,milestones projectが提案されます。6つのコンピテンシーの構造は残しつつ,22の到達目標(内科の場合)を設定。さらには客観性を持たせるために,具体的な文章(anchor)で各到達段階が定義されました()。2013年に内科・外科・救急・小児科など7つのプログラムがmilestones projectを先行導入し,翌年には全プログラムで導入されました1)

 Milestones projectにおける評価の一例(クリックで拡大)
それぞれの到達目標のなかで,次の5段階評価がなされる。Critical deficiency(合格基準に達していない),Early learner(初級レベル),Middle level learner(中級レベル),Ready for unsupervised practice(独立して診療できるレベル),Aspirational(理想的なレベル)。

Milestones project運用の実際

 筆者が在籍したハワイ大内科プログラムにおいても,milestones projectが導入されました。ただし,ローテーション科の全てで22項目をその都度評価するのは不可能なので,導入前に全レジデントが集まり,ローテーションごとに使用する評価項目を検討しました(例えば,ICUローテーションでは手技に関する評価項目をカバーする等)。3年間の研修期間を通して,22項目全てを評価できるというわけです。

 次に,評価と運用の実際をご紹介します。研修医は以前よりもこまめに評価を受け,自身の強み...

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