医学界新聞

2017.07.03



Medical Library 書評・新刊案内


マイヤース腹部放射線診断学
発生学的・解剖学的アプローチ

太田 光泰,幡多 政治 監訳

《評 者》清田 雅智(飯塚病院総合診療科)

本書の価値に気付く医師が増えてほしい

命題「放射線科の専門書を,内科医や研修医がなぜ読む必要があるのか?」
 内科医でも研修医でも,救急と腫瘍の患者を診察するにあたり腹部CTを読む必要があるためと私なりに回答する。2年間の初期研修医時代に救急外来でCTを読めずに悩んだ経験は誰でもあると思う。私は3年次の後期研修時に放射線科を9か月研修し画像を自力で読めるよう研鑽していた。そのときの指導医から,腹部救急疾患の画像の専門書としてこの本の存在を教えられた。実際には,その後内科医として困った症例を調べるときに多く利用をしていた。例えば,第17章の内ヘルニアによる腸閉塞の症例などを診たときは,この本に匹敵する記述を見いだすことはできないという経験もしている。

 当院では,急性膵炎はなぜかcommon diseaseであった。後腹膜臓器である膵臓の炎症の波及を診る上で,後腹膜の解剖の理解は欠かせない。ZuckerkandlやGerotaが19世紀に解剖所見から得た後腹膜のFasciaの概念は,肉眼や顕微鏡では膜と膜の連続性を理解するのに限界があった。その薄い膜の間に実はスペースが存在している。肝臓,脾臓,骨盤腔への連続性があることは,CTガイド下に遺体に造影剤を注入してCT撮影するという手法が出るまで実証が困難だったのである。Cullen徴候(1918年)やGrey Turner徴候(1919年)がなぜ膵臓とは遠隔の部位に出ているのかも,1989年にMeyersらがCTで検証していた。このような解剖学的連続性の理解がなければ,例えば十二指腸穿孔の画像は理解できないであろう。

 一方,高齢化社会を反映して,がんもまたcommon diseaseになっている。がんを併発することも多くなっている時代で,Double cancerやTriple cancerもまれではないとされている。例えばリンパ節の腫大からがんのoriginを探るのに,がんの進展範囲を画像的に想像することで,これらの存在を知ることもできるだろう。臨床解剖学は,現場で使用されるCT解剖学での学びが重要だと感じている。実はこの本がこだわる,発生学や解剖学に立ち返り病態を理解するという姿勢は,1900年代から医師にとってなんら変わっていないのかもしれない。

 監訳者の一人,太田光泰先生(足柄上病院総合診療科担当部長)と,訳者の一人,吉江浩一郎先生(足柄上病院総合診療科部長)とは,2011年から毎年行っている講演で親交を深め,尊敬している総合診療医である。ある年の懇親会の席で,この本を翻訳されていると聞きわが耳を疑った。ひそかにこの本の価値を知る希少な内科医だと思っていた私であるが,他にもそのように思っている内科医がいたのだ! 序文を読み,その真意を理解し,ますます共感した次第である。この本は間違いなく名著である。私は,この本の価値に気付く医師が増えることを切に望んでいる一人である。

B5・頁400 定価:本体14,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02521-8


標準解剖学

坂井 建雄 著

《評 者》町田 志樹(臨床福祉専門学校・理学療法学)

今後の解剖学教育のスタンダードになっていく一冊

 医学の専門教育は人体の構造を学ぶ解剖学から始まる。その事実に異論を唱える者はいないだろう。当然,理学療法士の養成課程でも同様であり,現職者であれば誰もが一度はその習得に苦心した経験があるはずである。特に近年,学生からは「各部位の名称を覚えることができない」「運動器の位置関係を理解できない」という声をよく耳にする。また,理学療法士の養成課程で用いる解剖学書は養成校ごとに異なっており,スタンダードとして用いら...

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