地域中核病院から広がる医科歯科連携(内田信之)
寄稿
2017.06.19
【寄稿】
地域中核病院から広がる医科歯科連携
原町赤十字病院 12年間の取り組みから
内田 信之(原町赤十字病院副院長兼第1外科部長)
2015年10月の厚労省調査によると,全国の一般病院7416施設のうち歯科を標榜しているのは1112施設であり,全体の15%にすぎない1)。多くの医療者が医科歯科連携の重要性を理解しながらも,それを実現できない最大の理由は,病院内に歯科が存在しないことであり,もし連携を図るのであれば必然的に院外の歯科医師の協力が必要となる。本稿では,私たちが12年の歳月をかけて築き上げてきた原町赤十字病院の医科歯科連携の経緯と現状について紹介するとともに,今後の展望について私見を述べたい。
歯科衛生士のNST活動が連携のきっかけに
当院が立地する群馬県吾妻郡は県の西北に位置する山間部で,草津や四万をはじめとする日本を代表する温泉が多数存在する。吾妻郡の面積は広大で群馬県全体の約20%を占める。人口は年々減少傾向で,県人口の3%以下,6万人を下回る典型的な山間過疎地である。当院はこの吾妻郡の中核病院であり,病床数は227,標榜する科は18を数えるが,歯科は存在しない。
当院の医科歯科連携の始まりは,NST活動を開始した2005年までさかのぼる。当時のNST活動の最も重要な目的の一つは,入院患者の多くが経口摂取可能になることと考えていた。そのためには,口の中,特に歯の状態を把握することが最低条件と思われた。
歯科のない当院では,口の中や歯をアセスメントする知識も技術も乏しい状況だったため,当時NST活動に関心を示していた院外の歯科衛生士に声を掛けると,当院のNST活動に快く参加してくれた。当初はボランティアとしての参加だったが,その存在は入院患者にとって非常に貴重なことだと私たちは実感した。翌年には,当院と群馬県歯科衛生士会が正式に契約し,当院のNST回診に定期的に参加するようになった。歯科衛生士による継続したプロフェッショナルな仕事に期待することとなったのだ。
その後も表に示す通り,さまざまなチャレンジを続けている(詳細は文献2を参照)。
表 原町赤十字病院における医科歯科連携の活動内容と経過 |
そして,病棟での口腔ケアラウンドは,2013年5月に当院と地元歯科医師会が正式に契約したことによって,毎週木曜日のNST回診に一人の決まった歯科医師が参加することになった(写真❶)。NST回診の対象者は毎週30人程度存在するが,このうち手術前後や化学療法中の患者を中心にアセスメントを行っている。専門的な歯科治療が必要と判断されれば地元の歯科医師に紹介している。
写真❶ 2013年から始まった歯科医師(中央)と看護師の病棟ラウンドの様子。 |
術前の口腔ケアが術後の合併症を防ぐ
では,なぜ病棟に歯科の協力が必要なのか具体的に見ていきたい。
歯科医師による口腔アセスメントが行われた2013年から2年間の当院の外科入院患者301人(男性174人,女性127人,平均年齢72.5歳)の結果によると,悪性疾患,良性疾患にかかわらず口腔内衛生状態は約3割が不良で,男性のほうが顕著であった。歯については25%の患者は歯が全くない状況であり,これは女性のほうが多かった。義歯の保有率は女性が86%と男性の65%に比べ高率であった。また義歯があっても適合に問題ありとされた方が約3割存在した。
歯が残存する患者においても約半数に,う歯もしくは動揺歯が存在し,また半数の患者は歯周病と診断された。そして約4割が口腔内乾燥ありと診断された。結果的に口腔内に問題を認めない患者はわずかに69人(22.9%)のみであり,入院患者の......
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