医学界新聞

2017.06.12



Medical Library 書評・新刊案内


標準組織学 各論
第5版

藤田 尚男,藤田 恒夫 原著
岩永 敏彦,石村 和敬 改訂

《評 者》後藤 薫(山形大教授・解剖学)

『標準組織学』を手に,始めよう医学の勉強を!

 『標準組織学 各論』の改訂第5版が7年ぶりに出版された。この本は,総論と合わせて執筆者の名前を冠した「藤田・藤田の組織学」として知られており,1976年の第1版から40年以上の長きにわたり,医学生や研究者に読まれてきた日本オリジナルの教科書である。当時医学生だった私自身は第2版との出合いに始まり,改訂版を購入し続け現在,第5版を手にして今日に至る。書棚に並ぶ「藤田・藤田の組織学」を眺めていると,学生時代に奥深い組織学の知識と格闘した日々,そして教鞭を執り始めた頃に何度も読み込んだ日々が,懐かしく思い出される。

 さてその内容であるが,初版から本書の根底をなす理念,すなわち“それぞれの事象の単なる記載だけではなく,それにまつわる歴史や物語を入れて,どのようにしてその構造が明らかにされてきたか,将来どのような問題が残っているかをおのずと感じてもらえるような楽しい本にしたい”“わが国の研究業績を紹介し,できるだけそれに立脚して議論を進めたい”という熱い思いが伝わってくる。改訂を経るにつれ図版が刷新され新たな模式図が付加されてきたが,とりわけ第5版では,免疫染色を含めた光学顕微鏡のカラー写真がさらに増えた点と,ソフトカバーになり,見開きが良くなって紙面に鉛筆で簡単に書き込みができるようになった点が,大きな特徴である。

 ぜひ一度手に取って,ページをめくっていただきたい。美しい写真やわかりやすい模式図を拾っていくと,本書が組織学アトラスとしての機能も兼ね備えている点にお気付きになるであろう。そして,心臓刺激伝導系の房室結節(田原の結節)を発見した田原淳博士や,インスリンの抽出に成功したバンチング博士と助手の医学生ベスト,アドレナリンを単離した高峰譲吉博士と助手の上中啓三氏,そして世界初のクローンマウス作製に成功した柳町隆造博士の,リアルな写真と共に紹介されるエピソードは,まさに「長い間に人類が生み出してきた文化や学問を背景にして現在の医学が存在する」(「第2版序」より)ことをわれわれに知らしめるのである。

 医学は長年にわたる観察結果や臨床知見の蓄積に基づくものであり,個々の理論の構築や病因の解明,対処法に科学的にアプローチする学問である。しからば,知識の整理や蓄積と同様,日本そして世界各国の先人の業績とその物語を学ぶことが,未来の創造につながるものと信じる。医学生に,そしてわれわれ研究者,教育者に必要なものは,まさにこのような視点ではないだろうか。

 欧米の教科書には,『グレイ解剖学』や『セシル内科学』『ハリソン内科学』など,著者名で知られる医学書が数多く出版されており,これらの名著は時空を超えて受け継がれているのが特徴だ。『グレイ解剖学』に至っては,ヘンリー・グレイが1858年に初版を世に送り出してから,150年以上も次の世代の執筆者によって継続して改訂が行われ,現在第41版を数えている。『標準組織学 各論』は,藤田恒夫先生と藤田尚男先生が用意周到な準備期間を経て上梓された組織学の教科書であるが,その改訂は現在,岩永敏彦先生と石村和敬先生に引き継がれている。本書が医学生や若い研究者によって,50年そして100年と読み継がれる未来を夢見ることは楽しいものである。

 医学生諸君,『標準組織学』を日々の教本として基礎医学の習得を開始し,『グレイ解剖学』を人体構造の辞書代わりに,そして『セシル内科学』あるいは『ハリソン内科学』を書棚に並べ,さあ始めよう,解剖学の勉強を,いや医学の勉強を!

B5・頁568 定価:本体11,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02404-4


マイヤース腹部放射線診断学
発生学的・解剖学的アプローチ

太田 光泰,幡多 政治 監訳

《評 者》大平 善之(国際医療福祉大主任教授・総合診療医学)

腹部放射線診断学を体系的に学べる

 総合診療のエキスパートである太田光泰先生(足柄上病院総合診療科・担当部長)と放射線腫瘍学のエキスパートである幡多政治先生(横市大大学院教授)が監訳された,腹部放射線診断学を体系的に学習できる世界的名著“Meyers' Dynamic Radiology of the Abdomen, Normal and Pathologic Anatomy, sixth edition”の日本語訳版である。第1章に書かれている通り,本書は,「疾患の進展経路を説明すること」を目的に執筆された書籍である(p.13)。腹部のみならず,骨盤腔,胸部との関連について,発生学,解剖学に基づいた解説がなされている。

 本書は第1~17章で構成されており,第1章では,腹膜腔内臓器間での進展,腹膜腔内と腹膜外腔との間での進展など,画像診断の進歩により,従来の区画化に対する画像解析では疾患進展による徴候を十分に説明できないことが明らかになったことによる新たなパラダイムの必要性が論じられている。臨床推論において想起できない疾患は診断できないのと同様に,画像診断においてもプレコンディショニング(予想,事前情報,経験)が視覚情報の多くを決定することが示されている。また,臨床推論では,最初から細部に注目するのではなく,まずは患者の全体像(ビッグピクチャー)を把握することが重要であるが,画像診断においても全体として見ることの重要性が解説されている。

 第2章では腹部の臨床発生学,第3章では腹部の臨床解剖学について記載されている。第4章以降は,腹部と骨盤部,腹腔内における感染症と播種転移の進展様式など,発生学,解剖学に基づいた疾患の進展様式と画像診断との関連についての重要性が詳述されている。病歴,身体診察からの臨床推論においても発生学,解剖学,生理学,生化学などの基礎医学の知識を基に病態生理に基づく診断アプローチが重要であるが,画像診断においても同様であることを再認識した。

 腹部,骨盤内疾患の発生,解剖に基づいた疾患の進展様式と画像所見との関連について詳述されている書籍を,少なくとも私自身はこれまで読んだことがない。本書のような有用な書籍を日本語で読めることは,専攻医,放射線科医,消化器外科医,消化器内科医,救急医はもちろん,われわれ総合診療に携わる医師にも学びの機会を広げる。ご自身の医学書コレクションにぜひ,加えていただきたい一冊である。

B5・頁400 定価:本体14,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02521-8


手の先天異常
発生機序から臨床像,治療まで

荻野 利彦 著
阿部 宗昭 監修

《評 者》石井 清一(札幌医大名誉教授)

あらゆる手の先天異常に対応した渾身の名著

 2015年の日本整形外科学会総会から帰宅したのは5月25日であった。そのとき,心臓疾患で療養中の荻野利彦先生の急逝の知らせを受けた驚きと寂しさを昨日のことのように思い出す。

 荻野先生が北大に入学し,郷里の静岡から札幌に出てこられたのは1965年のことであった。下宿が私の家のすぐ近くにあったこともあり,付き合いは学生時代からとなる。先生は医学部を卒業されると整形外科に入局したが,やがて手の外科を専門分野に選び,その中でも上肢の先天異常の研究に情熱を傾けるようになった。その節目,節目に私が関与したことがいま走馬灯のように頭の中を駆け巡っている。

 荻野先生が北大,札幌医大,山形大を通じてライフワークとしてきた集大成となる本書が出版されたのは2016年10月である。先生がそれまで経験してきた症例についての膨大な資料を著書としてまとめる仕事に着手したのは,山形大を退職した2011年のことである。出版を待つばかりの時点で帰らぬ人になってしまったことが悔やまれるが,ご親戚にあたる阿部宗昭先生(阪医大名誉教授)が監修を引き受けて刊行にこぎ着けた。

 手の先天異常は,ヒトの発生の途上において遺伝子の障害,あるいは外因による胚の外傷が原因となり発生する。発現する形態の異常は多岐にわたっている。臨床医にとって大切なことは,正しい診断の下に治療を開始することである。そのためには,あらゆる手の先天異常に対応できる分類法を確立する必要がある。

 Swansonが手の形態異常に発生学の知識を取り入れた分類法を提唱したのは1976年のことである。その後,三浦隆行先生をはじめ荻野先生ら日本の手外科医たちがSwanson分類の問題点に改良を加えることで,理想とする分類法の完成に向け努力し続け,現在に至っている。

 三浦先生は指の数が不足して発生する裂手症の中に,X線像を見る限りでは指列の数が正常より多い症例があることを指摘した。荻野先生はこの疑問を解くために「裂手症の形成過程」を想定して仮説を作り上げた。この仮説を実証できる形態異常の存在の有無について,臨床例と動物実験による形態異常指の中から検証した。そのようにして一連の基礎的,臨床的研究で確立された「指列誘導異常」の概念をSwanson分類に取り入れたのが,日本手外科学会改良分類法である。荻野先生によると,Swanson分類にはまだ改良を要する点が残されているとのことであった。上肢の掌背方向の重複異常の分類をどのように整理していくかが今後の課題といえよう。

 本書には荻野先生が実際に経験した症例が,日本手外科学会改良分類法に沿ってまとめられている。A4判で392ページに及ぶ単独の著者による大作である。障害児に対する温かい思いやりが随所にあふれ出ている。手の先天異常に興味を持つ臨床医や研究者にとっての格好の専門書として,いつまでも読み継がれるであろう荻野先生の渾身の名著である。

A4・頁392 定価:本体21,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02441-9


腎機能に応じた投与戦略
重篤な副作用の防ぎかた

向山 政志,平田 純生 監修
中山 裕史,竹内 裕紀,門脇 大介 編

《評 者》安田 宜成(名大准教授・腎臓病学)

全ての病院・診療所・薬局に常備してほしい

 腎臓内科には日々,さまざまな急性腎障害(Acute Kidney Injury;AKI)症例の相談があり,その中でも薬剤性のものが少なくない。薬剤性AKIは重篤な感染症の治療など,患者の生命を救うためには避け難い場合もあるが,その多くは少し注意すれば避けることができ,また腎機能をモニタリングしていれば重症化する前に対策を講じることができる。私たち腎臓専門医にとってみれば当たり前のことだが,では腎臓病を専門としない医師や薬剤師が具体的にどうすればよいのか? 本書はその解決となる良書である。

 監修の向山政志先生,平田純生先生による類書は多いが,本書では難しくなりがちな薬物動態や腎機能の評価法を興味深く学ぶことができるよう随所に工夫が認められる点が特筆される。まず第1章「この副作用,防げますか?」では,SU薬やダビガトラン,NSAIDsなど,処方機会の多い薬物の副作用を中心に,症例を通じて病態から具体的な対策までわかりやすく学ぶことができる。薬剤性腎障害の分類など,より専門的な情報はコラムにまとめられている。

 そして第2章では腎機能の評価法やピットフォール,腎機能に応じた処方設計について,専門的な情報を含め,図表を活用してわかりやすく解説している。日常診療の現場ではeGFRが用いられるが,多くの薬物の添付文書では腎機能について血清クレアチニンやクレアチニンクリアランス(Ccr)で記載されており,混乱が生じている。eGFRとCcrは近似する場合が多いが,体表面積補正のあるeGFR(mL/分/1.73 m2)と体表面積補正のないCcr(mL/分)の違いをしっかりと理解することが大切である。しかしeGFRもCcrもあくまでも腎機能を推測するものであり,そこまで厳密な処方設計を要する薬は多くはない。実際の処方では,原則として添付文書に則して過量投与を避け,処方後には有効性と安全性について経過を慎重に観察することが重要である。

 第3章では,診療科別に特に注意すべき薬物について,大変に詳しい説明がされている。中でも鎮痛薬や骨粗鬆症治療薬,抗不整脈薬,また抗菌薬,抗がん薬は腎障害や過量投与に注意が必要であり,整形外科,循環器科の先生にはぜひともご精読いただきたい。コラムでは重要な臨床研究を魅力的にまとめてあり,腎臓専門医にも勉強になる内容である。そして第4章は「10の鉄則」で特に重要なポイントを復習できる。

 第5章「腎機能別薬剤投与量一覧表」は,日本腎臓学会のCKD診療ガイドには含まれていない抗がん薬や新薬を網羅し,GFR区分を60,30,15そして透析とCKD重症度に準じてまとめている。腎機能障害患者で過量投与を避けるために,ぜひとも全ての病院・診療所や薬局に常備いただきたい。

 本書を,腎臓病専門医を含む医師・薬剤師に実臨床の場で活用いただくことで,多くの薬剤性AKIや過量投与による副作用を防ぐことができると確信している。

B5・頁400 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02864-6


標準解剖学

坂井 建雄 著

《評 者》石田 肇(琉球大教授・人体解剖学/医学部長/医学研究科長)

学生が頭に入れるべき項目を的確に選んだ教科書

 日本人解剖学者による,素晴らしい解剖学の教科書がついに誕生した。しかも,分担ではなく,博学で知られる坂井建雄教授(順大大学院)による単著であるため,一貫した流れがある。系統解剖学ではなく,局所解剖学的構成であり,最初に総論を配置することにより,解剖学への最初の理解が得られる。

 人体解剖学というと,肉眼解剖学実習,組織学実習,神経解剖学実習を含めて,医学生にとって,具体的に医学というものに触れる初めての機会であり,また,膨大な医学知識という大きな壁にぶつかるときでもある。では,この大きな壁をどうやって乗り越えたらよいのか。

 「最近の学生は長文を読まない」と言うが,本書は,ほぼ1ページに1点のイラストを配置している。このイラストが美しく,非常にわかりやすい。

 また本書は,コアカリキュラムに必要な医学知識を十分に得られる内容でありながら,冗長さを省いている。細かすぎる内容は意図的に省いているので,これでもかと詰め込む必要がない。例えば,殿筋群の起始について「腸骨翼の後面」とあるが,従来は併せて解説されることの多かった殿筋線に関する記載はない(p.315)。殿筋線は,普通の骨では見えにくいものであり,殿筋群においては,停止位置,作用,神経支配が大事なのである。このように,学生が頭に入れるべき項目を的確に選んでいる。さらに英語の解剖学用語も並記し,索引も和文・欧文がそろっている。これはわかりやすい。

 本書には,普通の系統解剖学の教科書にはない中枢神経系の部を,第10章に配置している。神経解剖学を専門としている解剖学者からみると,「内容が少ない」と感じるかもしれない。しかし,まずはこれだけをしっかりと学習し,末梢神経系の脳神経や脊髄神経との関連を理解することが大切である。

 また,本書の特徴は,「Developmental scope」「Functional scope」「Clinical scope」を随所に掲載しているところである。「Developmental scope」は系統発生ならびに個体発生について,「Functional scope」には組織学や生理学に関連する内容が記載されている。また,「Clinical scope」は,これから学習する臨床医学と解剖学をつなぐものである。解剖学の重要性を再認識できる場であり,私たち解剖学者や臨床医が読んでも,とても面白い。

 全国の医学生の皆さんに,本書をぜひとも手に取って読んでいただきたい。楽しく勉強ができて,学問的にも深みのある教科書である。

B5・頁662 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02473-0

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