医学界新聞

2017.04.10



Medical Library 書評・新刊案内


地域医療と暮らしのゆくえ
超高齢社会をともに生きる

高山 義浩 著

《評 者》佐々木 淳(悠翔会理事長/診療部長)

医療のブラックボックスを解放するいのちの現場からの賛歌

 急速な人口構造の変化に伴う歪みは医療現場を直撃し,そこには常に無力感や怒りが存在する。

 複数の慢性疾患を抱える高齢者には,急性期病院や専門診療など,これまでの医療の存在価値を支えてきた武器が通用しない。在宅医は病院が高齢者に最適化した入院医療を提供していないといら立ち,病院は在宅高齢者の安易な救急搬送に憤る。患者のニーズは満たされぬ一方で,病院も本来の機能とは異なる役割を強いられる。医療機関の経営は厳しさを増すが,満足感を伴わない医療費の負担増大に国民は納得しない。さまざまな対立軸が交錯し,医療者も患者も疲弊している。

 特に病院という場所は社会の矛盾が最も明確に表現されるところなのかもしれない。病院で勤務しながらも在宅医療を通じて地域の実情を熟知する著者は,そこで顕在化する問題の根っこを一つひとつ丁寧に解きほぐしていく。

 医師になる以前にジャーナリストとして世界の貧困や紛争を見つめてきたその鋭い観察眼は,情緒豊かでありながら常に冷静に,弱者を弱者たらしめている隠れた真実をあぶり出す。そして,その言語化力で医療というブラックボックスを分解し,共通言語を持たない医療者と地域住民(患者)の強力な通訳者となる。

 明らかになった課題に対しては,地域のさまざまなステークホルダーに配慮しながら最適解を探り出す。当事者として自らの立場を正当化することなく,また安易な「弱者の味方」でもなく,あくまでも俯瞰的な視点。医療現場の問題が地域に,そして地域で暮らす一人ひとりにつながっていく。医療者として,そして一人の地域住民として,課題の核が,実は私たちの中にあることを気付かされる。私自身も医療者としての自らの態度を省みるよい機会となった。

 固定観念に縛られない自由な発想力と分析力,医療者そして政策家としての実務経験。さまざまなフィールドで活躍してきた唯一無二の著者ならではの展開であり,よりよい未来作りのためのポジティブな提言集となっている。

 しかし全編を読み終えるころ,これは医療ジャーナリズムというよりは,著者がかかわった一人ひとりの人生のルポルタージュであり,生きることへの賛歌なのだということに気が付く。

 どの命にも輝きがあるということ,人生には必ず終わりがあるのだということ,そして患者である前に一人の生活者であるということ。全てのページに著者の「いのち」に対する尊厳と愛情が満ちている。愛おしく,そして時に切ないエピソードの数々は,医療者のエネルギーの源泉を思い起こさせるとともに,私たちの社会の優先順位に疑問を投げ掛ける。

 これからの私たちの社会を支えるために必要な「地域包括ケアシステム」とは何なのか。それは,生きるということの意味を一人ひとりが考え,専門職も地域の住民も,自分自身にできることを一つずつやっていくことなのかもしれない。現場で行き詰まっている医療者や行政関係者,そして医療の在り方に疑問を感じている全ての人に読んでほしいと思う。

A5・頁180 定価:本体1,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02819-6


今日の眼疾患治療指針 第3版

大路 正人,後藤 浩,山田 昌和,野田 徹 編
西田 保裕,根岸 一乃,相原 一 編集協力

《評 者》大橋 裕一(愛媛大学長)

眼科臨床医待望のニュー・バージョン

 眼科臨床医が待ちに待った『今日の眼疾患治療指針』の第3版が世に送り出された。「最新の眼科診療情報を盛り込んだ実用書」という当初のコンセプトを受け継ぐ中,編集に数々の工夫を凝らしたニュー・バージョンが誕生したのである。

 本書の源流は1959年に刊行された『今日の治療指針』にある。同書は,発刊から既に60年近くを経たものの,全科の疾患を網羅し,幅広い対応が求められる日常診療のガイド役として今も好評を博している,医学書院の代表的書籍である。ただその一方で,個々の専門領域におけるより詳細な治療指針のニーズも高まり,2000年には田野保雄先生(阪大),樋田哲男先生(杏林大)の編集によって記念すべき本書の初版が刊行されている。その後の2007年には,現在の編集陣(大路正人,後藤浩,山田昌和,野田徹の各先生)が中心となって第2版が上梓されたが,既に10年が経過し,眼科医療の進歩の中でその価値が薄れつつあるのを残念に思っていたところであった。

 送られてきた今回のバージョンを読んでみてその出来栄えに感服した。編集陣の並々ならぬ意気込みが伝わってくる企画内容である。

 第一の特色は,より多くのカラー臨床写真や画像情報を取り入れ,程よい文字量とのバランスのもと,格段に読みやすくなっている点にある。「指針」という言葉から受ける辞書的なイメージとは異なり,これはまさにコンパクトな教科書であり,読み物としても十分に成り立っている。初版で示された「羊の皮を着た狼」という理念がさらにブラッシュアップされたと言ってよいであろう。

 第二の特色は,専門医ならば必ず知っておいて欲しい最新情報が精選,網羅されている点にある。編集陣によって絞り込まれた,主要疾患(病態を含む),検査,治療に関する全632項目が秩序立ったフォーマットの中でわかりやすく解説されている。執筆陣は各専門分野のオピニオンリーダーで構成されており,「今日の」というフレーズにふさわしい陣...

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