医学界新聞

連載

2017.03.27



わかる! 使える!
コミュニケーション学のエビデンス

医療とコミュニケーションは切っても切れない関係。そうわかってはいても,まとめて学ぶ時間がない……。本連載では,忙しい医療職の方のために「コミュニケーション学のエビデンス」を各回1つずつ取り上げ,現場で活用する方法をご紹介します。

■第12回(最終回) 家族間で秘密を打ち明ける

杉本 なおみ(慶應義塾大学看護医療学部教授)


前回よりつづく

 浮気相手から梅毒に感染した45歳の男性。治療には妻の協力が不可欠という医師の説明に納得はしたものの,どのようにして打ち明ければよいものか考えあぐねています。受験期の娘にだけは悪影響が及ばぬようにしたいのですが……。


秘密の伝え方を左右する要因

 健康問題を抱える人がその情報を家族と共有することは大変重要です。治療への協力を得る,相手の健康を守るといった直接的な利点に加え,打ち明ける行為自体が心身に良い影響を与えるとされています1)。反面,秘密の内容によっては家族に打ち明けづらいと感じる人もいます。そこで最終回の今回は,家族間の秘密に関する研究2)を通して,このような場面で患者を支援する方法を考えます。

 著者らは独自の「秘密開示リスク(Revelation Risk)モデル」()を提唱し,各要素[秘密の重大性,相手との親しさ,開示に伴うリスク,開示する理由,コミュニケーション効力感(=うまく伝える自信)]に関するデータを3回の調査により収集しました。

 秘密開示リスク(Revelation Risk)モデル(文献2中のFigure 2を和訳・改変)

 まず調査A(171家族:629人)(註1)では,秘密の打ち明け方は6種類に大別できることがわかりました()。続く調査B(大学生594人)(註2)では「家族に秘密がある」と答えた人の回答から「秘密を重大ととらえるほど,また相手と疎遠であるほど開示に伴うリスクを高く認識する。そしてリスクを高く認識するほど,コミュニケーション効力感が低下し,開示する理由を見いだせなくなる」という結果を得ました。わかりやすく言えば「近くにいる妹に『水虫になったようだ』と話したら嫌がられると思う」状況よりも,「遠くに住む祖父にHIV感染の疑いがあると告げたら家族の絆が弱まるのではと危惧する」状況のほうが,その場をうまく乗り切る自信が失われ,打ち明ける意欲が削がれるということになります。

 秘密の打ち明け方(文献2中のTable 1を和訳・改変)

 さらに調査Bと同じ協力者に対し2か月後に調査Cを実施し「調査BからCまでの期間に秘密を打ち明けた」と答えた112人(註3)の回答を中心に分析したところ,実際には直接的な伝え方が最も多く選ばれ(80%),次に段階的(49%),準備・練習(41%),間接的(30%),第三者(28%),わなにはめる・はまる(18%)の順となりました(註4)。着目すべきは,効力感が高いほど「直接的に伝える」,低いほど「段階的に伝える」や「第三者を介して伝える」を選ぶ傾向が見られたことです。つまり「秘密をうまく打ち明ける自信」を表すコミュニケーション効力感こそ,開示の可否や伝え方の判断を大きく左右する要因であることが判明しました。

開示をためらう患者を支援するには

 既に疾患別の開示に関する研究3)が飛躍的に進む中,健康問題に特化していないこの論文をあえて取り上げたのは,先行研究の概観に基づき生成されたモデルを質的・量的データを用いて検証するという,コミュニケーション研究本来の手順を踏んだ好例であるからです。しかしこの結果を実際の場面に適用するには若干の注意が必要です。

 まずこの研究では,伝え方の個々の有効性は確認していません。したがって最も多くの人が選んだ「直接的な」伝え方をやみくもに勧めることは危険です。常に「大多数=最適」とは限らないことを心にとどめておきたいものです。

 次に,調査B(開示前)の段階では秘密の重大性や相手との親しさ,リスクの認識が高いほど開示をためらう傾向の見られた回答者も,調査C(開示後)で相手の対応が予想よりは少し肯定的であったと報告しています(註5)。すなわち秘密を抱えた本人がリスクを過大評価して開示のハードルを自ら上げていた可能性が考えられます。

 しかし,だからといって「大したことではない」と問題を矮小化したり,「

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