MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2017.02.20
Medical Library 書評・新刊案内
樋口 輝彦,市川 宏伸,神庭 重信,朝田 隆,中込 和幸 編
《評 者》武田 雅俊(藍野大学長)
わが国の実態に即した章立てと記述で役に立つ
本書の前身となる『今日の精神疾患治療指針』の初版は2012年に刊行され,精神科臨床の場で広く利用されてきたが,今回その待望の改訂第2版が刊行された。この間,2013年5月には米国精神医学会によるDSM-5が公表され,2014年6月にはその日本語版が発表された。本書もDSM-5に準拠した項目立てとなり,精神科臨床に役立つ項目を加えた充実した内容となり,エキスパート341人の執筆による実用書となっている。
本書の特徴の一つは,実際の臨床の場で役立つように工夫されている点である。全体が25章からなるが,最初に「1.症候,主訴からのアプローチ」として,意識障害,幻覚,記憶障害(健忘)などの日常臨床で遭遇する主訴に対する対応法が概説されている。診断名に至る前の段階で主訴を手掛かりにしての治療指針・対処法が説明されているのは,役に立つ場面も多いだろう。
続いて,基本的にはDSM-5に沿って疾患ごとに,疾患概念,診断のポイント,治療方針が述べられている。精神療法・心理社会的療法については何を目標にして,どのような方法で介入を行うかについての具体的な指針が書かれており,薬物療法については具体的な処方例が示されている。
ご承知のように,DSM-5は操作的な診断体系であり,精神病理学的な考慮は意識的に排除されている。DSM-5では,機能的精神障害と器質的精神障害の区分も廃止されたのであるが,本書では「13.器質性精神障害」「16.てんかん」「18.心身症」などの章立てが加えられている。「13.器質性精神障害」の章では,パーキンソン病,ハンチントン病,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,多系統萎縮症,進行性皮質下膠症,脳卒中後のアパシーなどの日常臨床で遭遇する機会のある疾患が並んでいる。また,「16.てんかん」の章も充実しており,精神科医が診るてんかん患者の診療に必要な知識がまとめられている。これらの章は神経内科医との連携が必要な場合にも役立つ内容となっている。「18.心身症」の章も実用的である。心身症とは,身体疾患の中でその発症や経過に心理・社会的要因が密接に関与し,器質的ないし機能的障害が認められる病態のことを言うが,それぞれの病態において心理・社会的要因の関与はさまざまであり,心身症の範囲も厳密には規定しにくい。このような病態について臓器別にまとめられている。本書の最大の特徴は,このような章立ての妙にあり,わが国における精神科臨床の実態に即した章立てと記述が工夫されている点である。そのために非常に役立つ内容となっていると言えよう。
疾患単位の章に続いて,「19.精神科面接,診断と各種検査」「20.薬物療法総論」「21.精神療法とその他の治療法」「22.精神科救急」「23.精神科リハビリテーション」「24.身体合併症の治療とケア」「25.その他の臨床的諸問題」についての章立てがなされており,精神科臨床に必要な事項が説明されているのも良い。中でも秀逸なのは,「20.薬物療法総論」と「21.精神療法とその他の治療法」の部分であろう。精神科臨床一般の中で,自分が診ている患者さんに対する特定の薬物療法や精神療法が,精神科治療全体の中でどのように位置付けられているのかを知っておくことは,どのような患者さんを診る場合にも必要なことであり,最適の治療指針を確認するためにも重要なことであろう。治療の全体像を理解するためにも,この二つの章を一読しておくことを薦めたい。
A5・頁1052 定価:本体14,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02484-6
大路 正人,後藤 浩,山田 昌和,野田 徹 編
西田 保裕,根岸 一乃,相原 一 編集協力
《評 者》中澤 満(弘前大教授/診療科長・眼科学)
現代の眼科学の粋を結集した書物
眼科医として経験を積んでくると,自分が初期研修医だったころから現在に至るまでの30数年間の眼科医療の進歩を感慨深く反芻できるようになる反面,自分があまり専門としてかかわってこなかった領域の知識は年々疎くなってしまっているのにがくぜんとすることがある。特に,私のように大学病院で紹介患者の診療を主に行っていると,自分の専門領域に関係なくありとあらゆる種類の眼疾患に曲がりなりにも対応することを余儀なくされるような状況となり,患者を目の前にしてその都度当該疾患の専門家の意見を聞きたくなることは日常茶飯事である。そのようなときに役立つ第一級の座右の友とも言うべき著作が,このたび上梓された『今日の眼疾患治療指針』第3版である。
これは2007年の第2版の刊行から9年を経て,さらにこの間に急速に新しくなった眼科学の進歩を取り入れてバージョンアップされた,現代の眼科学の粋を結集した書物と言える内容になっている。この第3版では眼科の各分野を網羅的に632の項目に整理して,各項目に当代の専門の執筆者を迎え,さらに各執筆者が現時点で想定される最高の知識をご自身の経験を交えて過不足なく記載されたことがうかがえる。特に網羅的であることが重要で,この本に書かれていないことはよほどまれなことであるという判断もできる。しかも各項目とも疾患概念から診断の要点,さらに治療法と系統立って記載されているので筋道立てて理解しやすい。加えてカラー写真や図表をふんだんに使用して視覚的な理解にも配慮されており,忙しい臨床医にとっては大変うれしい内容として仕上がっている。
本書の利用法にはいろいろな方法があってよい。私のように診療の合間に各領域の専門家にコンサルトするつもりでひもといてみるという方法,さらには若手の眼科医が眼科専門医試験をめざして眼科臨床の習得に利用するという方法,また新進の眼科専門医としてこれから日々新たに眼科の研さんに励む際の参考書としても必要十分な内容を網羅している。また検査法に関する項目も充実しており,眼科検査に携わる視能訓練士の教育にも十分役立てることができるであろう。その網羅性を利用して,例えば1日に5項目ずつ,毎日通読すれば4か月で一通り読破することができ,それを1年間継続すれば都合3回完読することとなり,それだけで眼科学の全領域に少なからず触れることができるという計算になる。日々の短時間の読書で眼科学の全分野に精通することも決して夢ではない。いずれにしても各自の状況に合わせて本書を有効に活用されることを希望する。本書が一人でも多くの眼科医に活用されれば,おのずと日本の眼科医療を高水準に維持することにもつながるのである。
A5・頁912 定価:本体24,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02479-2
高山 義浩 著
《評 者》井階 友貴(福井大講師・地域医療学)
エピソードと思考の織り成す医療の原点と未来それは暮らしの中にある
皆さんは,どんな思いで医療の道を志しましたか? 私は,子どものころかかった地域の町医者的おじいちゃん先生の,地域の人々の生活にまみれた土臭い医療――家族の成長や健康,米や野菜の収穫を共に喜び,家族の死や作物の不作を共に悲しむような――のイメージをたどって,今,地域医療の現場に立っています。
本書の著者,高山義浩先生の元へ,ある企画で話を伺いにお邪魔したことがあります。高山先生は途上国への関心から保健学の道を歩まれ,カンボジアなどの保健医療環境の厳しい国での活動を通して,地域の中にこそ持続可能な医療があると考えられるようになり,やがて医師の道をめざされたそうです。
先生はその後,「地域から何を求められているか」に打ち込める佐久総合病院の医療や,時には厚労省での国全体の衛生活動を経験され,現職に就かれています。本書は,そのような経歴を持つ先生だからこそ到達できた視点と原点にあふれており,多方面に地域への思いを発信され続けている高山先生の,現段階での集大成と呼ぶにふさわしい書となっていると感じます。
本書の特徴は,まず,いわゆる地域医療や地域包括ケア,高齢・人口減少社会など,医療に関する一般的な教科書のように,ナショナルデータや将来予測だけを基に論述していく説得の書ではなく,あくまで先生の経験された実際の臨床・生活エピソードに基づき,そこに先生ならではの多岐にわたる視点が加えられていることです。そして,そのエピソード自体は,独居高齢者,在宅介護,認知症,身体拘束,救急医療など,地域の現場に身を置くものであれば誰しも経験したことのあるようなものでありながら(あるいは地域のエピソードすら実感がないという方には,ぜひ本書から暮らしの中での患者や家族がどのような姿なのかを知っていただきたいです),あるいは,折に触れて登場する「COLUMN」では,なかなか経験できない途上国でのエピソードを目の当たりにしながら,一事例から地域全体,国,世界のことまで飛躍して展開するお話が,まさにわれわれのプライマリ・ケア分野で言うところの“地域志向”そのものであることです。さらに,先生も「おわりに」で述べられているように,本書は現代の日本の抱えるさまざまな地域医療の問題――西洋医学への過度の期待や医療倫理,超高齢社会,家族構成や住民意識の変化などに基づく――に関連して,読者に絶対的な答えを与えてくれる書ではなく(もちろんそのような答えがあればすでに日本の問題は解決しているわけですが),読者に一緒に考えるきっかけや気付き,ヒントを与えてくれること,それでいて,もやもやさせるのではなく,先生の英知と文才により一つひとつのエピソードが感動的に花開き,読者に爽快感も与えてくれることも,特筆すべきでしょう。
医療とは本来どうあるべきか,何をめざすべきなのか――医療者であれば誰しも考え続けるべき命題に,本書は優しくかつ丁寧にいざなってくれます。とにかく,エピソードとそれに続く思考が絶妙です。ぜひどの分野の医療者へも,はたまた一般の方へも,強くお薦めしたいと思います。
A5・頁180 定価:本体1,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02819-6
坂本 史衣 著
《評 者》吉田 眞紀子(東北大大学院助教・感染症疫学)
「鉄則」が自分のものになるまで何度も読み返したい
文字通り,一字一句見逃せず無駄な言葉が一つもない,真剣勝負の感染対策の本が発刊された。「感染対策の本」はすでに多数出版されており,その中には良書も少なくない。しかし本書は,これまでのいかなる書籍とも立ち位置がまったく異なる,まさに“Only One”の書である。
著者は,聖路加国際病院QIセンター感染管理室に所属し,日々現場で感染対策を実践しておられる坂本史衣さん。公衆衛生学修士(MPH),感染制御・疫学認定機構による感染制御認定資格(CIC)に裏打ちされる疫学と感染対策の実践者である。
タイトルになっている「鉄則」について,著者は序文でこう述べている。「鉄則とは,変えてはいけない厳しい決まりを意味しますが,これらはすべて筆者にとっての鉄則,すなわち感染対策を成功させるために自身が忘れてはならないルールのようなものです」と。本書には,著者が長年にわたり質の良い情報をこつこつ集め,解析し,それらに基づいて試行錯誤を繰り返し,苦しみ悩みながらたどり着いた鉄則のすべてが惜しみなく紹介されている。また,それだけにとどまらず,一つひとつの鉄則に丁寧に「背景」(こう考える),「解説」(だから私はこうしている)が記載されており,まるで著者が目の前にいて,「あなたならどうするの?」とディスカッションを挑まれている気分になる。この理詰めのファイトはかなりの快感である。
鉄則には,このような文章が並ぶ。「鉄則1:手指衛生消毒薬の使用量から手指衛生実施率を知ることはできない」「鉄則30:『なんとなく』行ったスクリーニング培養検査の結果は,感染源を見誤らせる」「鉄則39:清掃の質管理は,外部委託業者に任せきりにしない」。誰もが自分のことかとはっとさせられる。しかし,不安になることはなく,背景,解説,まとめを読み進めていくと,明確な解答に出合うことになる。
たとえば,「鉄則23:感染経路別予防策は,感染症の疫学的特徴に合わせてカスタマイズする」では,季節性インフルエンザの場合として,飛沫予防策の具体的な対策が図で明確に示されており,読者自身に「自分の施設ではどのように考え,実践すればよいか」を考えさせてくれる内容となっている。
第3章「日常使いの疫学・統計学」では,公衆衛生学修士のバックグラウンドが光る。疫学・統計学が現場で使えるように,しっかりまとめられている。さらに実践のためのグラフの選び方,見せ方の具体例も示されており,読者がサーベイランスデータをまとめるときにすぐに役立つ。もう,何冊も専門書を探す必要はなく,本書の「鉄則」が自分のものになるまで何度も読み返せばよい。まさに座右の書である。
まぎれもなくわが国を代表する一流の感染対策実践者が本気で自らの財産をすべてさらけ出した本書を手にした以上,私たちも実践あるのみ。あとはやるしかない。帯の「医療関連感染対策を成功させよう!」という言葉の通り,多くの方々が本書により成功経験を積まれ,わが国の臨床現場から少しでも医療関連感染が減少していくことを願ってやまない。
A5・頁168 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02797-7
向山 政志,平田 純生 監修
中山 裕史,竹内 裕紀,門脇 大介 編
《評 者》大野 能之(東大病院薬剤部)
「腎機能低下時の薬の使い方」の集大成と言える書籍
10年以上前に,本書の監修および執筆者の平田純生先生の講演を初めて聞く機会があり,「これが本当の薬剤師だ」と衝撃を受けた記憶があります。それからは,腎機能低下時の薬の使い方については,平田先生の本で勉強して,理解を深めていきました。脂溶性の高い薬物はなぜそのまま尿中に排泄されないのかを理解できたのも平田先生の本のおかげでした(本書の2章-2でも解説されています)。今では一緒にお仕事をさせてもらえる機会もあり,本書の書評の執筆の機会をいただけたことは感慨深いです。
薬物を投与する際にはその主な消失経路となる肝臓と腎臓の機能を評価することが“かんじん”です。超高齢社会や,腎疾患を有する患者の増加に伴い,まさに本書のタイトルのとおり「腎機能に応じた投与戦略」を立てることが必要不可欠となっています。本書は重篤な副作用を回避するために,医師,薬剤師が知っておきたいキーワード,考え方,計算式などを,症例を挙げながら具体的に解説しています。
第1章では,防げるはずだった中毒性副作用がなぜ起こったのか,そしてどのような対策をすれば有害反応を未然に防止できるかについて,中毒性副作用の具体的な症例を提示した後に,論理的に解説しています。また,第2章では副作用を起こさないために,腎機能に応じた投与設計,患者の腎機能の適切な評価方法,薬剤の腎排泄寄与率の評価などについて,ピットフォールも含めてわかりやすく解説されています。さらに,第3章では診療科別に腎機能に留意して投与しなければならない代表的な薬物について,まず「ポイント」を示し,その内容について詳細に解説しています。その領域の医師であればよく知っている薬剤であっても,腎機能低下時の留意点についてここまで具体的に解説したものはないと思います。また,薬剤師であれば,たとえ専門領域の医師に対してでも,ぜひこういった点でのフォローと情報支援をしてほしいと思う内容です。第4章は腎機能を適切に評価するための「10の鉄則」について簡便にまとめてあり,初心者はまずはここから読み始めて勉強することも有用でしょう。そして,第5章は腎機能別の薬物至適用量を網羅した一覧表であり,実臨床の場で資料としても活用できます。
平田先生はこれまでにも腎臓病患者の薬物適正使用に関する書籍を多数執筆されており,評者もそれらの書籍でたくさん勉強させていただきましたが,本書はさらにかゆいところにも手の届く集大成版と言っても過言ではありません。新たに勉強させていただいた点も多数ありました。本書全般にある「コラム」や「気になるキーワード」もとてもよいタイミングで,本文を補足してくれています。
この一冊で腎機能に応じた投与戦略の基本から実践まで学ぶことができます。本書を通してさらに多くの医師と薬剤師が腎機能の評価と腎機能低下時の薬物療法の理解を深め,よりよい薬物治療を実践していくことを願います。
B5・頁400 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02864-6
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