医学界新聞

2017.01.23



Medical Library 書評・新刊案内


ケアする人も楽になる
マインドフルネス&スキーマ療法
BOOK1BOOK2

伊藤 絵美 著

《評 者》松本 俊彦(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部長)

「モグラ叩き医療者」から脱するために

30代前半看護師――抜群のキャラ設定
 読みやすい本だ。カラー刷り,イラスト入り,平易な文章のおかげで,とにかくとっつきがよい。何よりも,架空クライエント「マミコさん」と著者とが繰り広げる「自分探し」の物語が,読む者をぐいぐいけん引する。

 「マミコさん」のキャラ設定もいい。30代前半,痛みと寂しさに満ちた疾風怒濤の10代・20代を生き延び,現在は看護師としての職を得ている。ただ,仕事こそきちんとしているものの,傷つくことへの恐れから,周囲との感情的交流から距離を置いている。

 当然,内面は穏やかではない。「助けてほしい,受け止めてほしい」と「しっかりしなきゃ,人に頼っちゃダメ」という矛盾する感情が激しく相克し,時折襲う強い感情を自傷や過食・嘔吐で抑え込みながら,なんとか心の均衡を保っている感じだ。

問題行動の根っこを丁寧に扱う
 「マミコさん」のようなケースは,精神科臨床・心理臨床ではまったく珍しくないが,実は,私たちは往々にしてその扱いに失敗している。彼らの主訴は,「自分らしい,楽な生き方をしたい」「もっと自分を好きになりたい」なのに,なぜか援助者側の意識は,自傷のような目先の問題に集中し,問題解決志向的な治療を始めてしまうからだ。

 そして案の定,「苦痛を緩和する対処行動」を取り除くだけの治療は,彼らの「生きづらさ」を強め,自傷が止まっても今度は過食・嘔吐が悪化する,といった「モグラ叩き」状態を招く。気付くと,「こじらせ系クライエント」の一丁上がり――悲劇だ。

 著者イチオシのスキーマ療法は違う。さまざまな問題行動の根っこにあるもの,子ども時代からずっとうずいてきた問題を扱う治療法だ。

 といっても,いきなり心の奥へと手を突っ込むのではない。まずは丁寧に信頼関係を構築し,本格的な治療に入る前に,当座の武器として,「応急処置」と名付けられた対処スキル,それからマインドフルネスを授ける。これらは,治療経過中の深刻な自傷からクライエントを守るためのものだ。

応急処置は全医療者必読!
 本書は,「マインドフルネスって何?」,あるいは「スキーマ療法ってどんな治療法なの?」という疑問にドンピシャで応えてくれる。だが,「マインドフルネスにもスキーマ療法にもまったく関心がない」という方にも読んでほしいのだ。

 特にBOOK 1「応急処置」のセクション(第3章-2)は全医療者必読だ。ただ「自傷をやめろ」と説教するのではなく,自傷衝動に対処し,被害を最小化する方策を考える(=個人レベルでの「ハームリダクション」と言ってよい),という医療者本来のスタンスを見直す機会となるはずだ。

 ちなみに,本書の所々で発揮される「笑い」がすごい。特にマインドフルネスの説明として,「トイレでうんこを流す」を例に挙げたくだりは,評者自身,腹筋崩壊的大爆笑に見舞われつつも,初めてマインドフルネスの何たるかを知ることができた。

 いろいろな意味でありがたい本だ。

[BOOK1]A5・頁192 ISBN978-4-260-02840-0
[BOOK2]A5・頁200 ISBN978-4-260-02841-7
定価:各本体2,000円+税 医学書院


リカバリー・退院支援・地域連携のための
ストレングスモデル実践活用術

萱間 真美 著

《評 者》横山 太郎(横浜市立市民病院緩和ケア内科副医長)

“問題解決型”か“ストレングスモデル”かを相手の状態に合わせて選ぶ時代に

 評者は,普段緩和ケア病棟で勤務をしています。当緩和ケア病棟では,症状が安定した場合,積極的に在宅医などと連携をしています。そんな中,患者さん自身は「自宅に帰りたい」と思っており,帰ることができる状況にもかかわらず,医療者側が不可能と判断したがために一般病棟から退院できず,緩和ケア病棟に入院してくる患者さんを複数例経験しています。

 また,退院のめどがつき,これからどうするかを決めるときに「家には帰れない」という言葉が患者さんから出ることがあります。その言葉の裏側には,「帰りたいけど,家族に迷惑を掛けたくないから」という思いがあったり,「帰りたいけど,また痛みが出てきたときに,在宅医では対応できないのではないか」という誤解があるケース,「帰りたいけど,なんとなく不安だから」という本人も漠然とした思いを抱えているケースなど,その言葉に続く話を,さらに深く聞いていく必要性がある方が多々いらっしゃいます。

 患者さんの思いをくめないジレンマ,言葉の裏に隠されたその人の真意,これらは,「薬を飲みたくない」と言われたときや「死にたい」と打ち明けられた場面と同様に,その人のその言葉の理由を,われわれが深く掘り下げる必要があります。私は,その人がどのような思いで発した言葉なのかをできるだけ理解できるよう,日頃からその人の“今までの人生の経歴”などを伺うように心掛けています。

 医療は,病院で完結する時代から,病院を含めた“地域”で行われる時代となりました。病院で完結していた時代は,感染症などが主体であったため,治療によって完治することが多く,入院の経過で徐々に問題が減るため,問題解決型のアセスメントが適合していたと言えます。

 一方で,認知症や悪性腫瘍をはじめとした慢性疾患が主体となると,病気と向き合いながら生活を続ける必要性が出てきます。その場合は,問題解決型よりその人の強みや特徴,それまでの生き方を生かすストレングスモデルが有用であろうと,この本を読み感じました。

 とはいうものの,問題解決型のアセスメントが有用な患者も多くいるため,これからはアセスメントの方法を“相手の状態に合わせて選ぶ”時代になったのだと感じています。そして,この本はアセスメントの引き出しを増やすだけでなく,病気や老化,障害があったとしても生活できる社会をつくるヒントがちりばめられた内容だと感じました。

B5・頁128 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02798-4


運動器マネジメントが患者の生活を変える!
がんの骨転移ナビ

有賀 悦子,田中 栄,緒方 直史 監修
岩瀬 哲,河野 博隆,篠田 裕介 編

《評 者》荒尾 晴惠(阪大大学院教授・成人看護学)

がん患者さんと「歩く」喜びを共有する

 がんが進行していく中で,さまざまな症状を抱える患者さんのお話を聞くと,そのたびに出てくるのは「迷惑を掛けたくない,できるだけ自分で自分のことをしたい」という思いである。自立した生活を送ること,歩くこと,自分でトイレに行くこと,これらは患者さんが最も重要ととらえていることの一つだ。また,住み慣れた自宅で生活したいと願う患者さんにとっては,日常生活動作が自立していることは,口から食べることと同様に重要なことである。

 従来の医療とケアは,こうした患者さんの希望をかなえるために,できる限り症状を緩和することをめざしてきた。しかし,本書は,運動器マネジメントにより運動機能の低下を「予防」し,患者さんが自立した生活を送ることを支援する医療とケアを提示している。

 本書の中で,「ロコモティブシンドローム(ロコモ:運動器の障害によって要介護になるリスクの高い患者)」の概念が紹介されている。骨転移の患者さんを,末期の患者さんととらえるのではなく,疼痛・骨折・麻痺による寝たきりや要介護状態を予防し,自立した生活を送ることを目標とする「ロコモの患者」として認識する。つまり,骨転移の患者さんの緩和ケアにもロコモの概念を導入することが重要であると提言されている。

 人にとって日常生活動作の“歩くこと”は“生活すること”であるからこそ,骨転移のある患者さんのQOLを維持するためには,生活者としての“歩くこと”を過小評価すべきではない,という記載もある。がん患者さんの中には,下肢筋力の低下を危惧して,病院の階段昇降をしている方や散歩をして筋力を維持している方がいる。数日歩かないだけで下肢筋力の低下を実感するとのことである。こういった患者さんが筋力低下を危惧して自ら取り組んでいることは,その患者さんにとってとても重要なことだと医療者が認識して,共に取り組むことが必要なのだとあらためて感じた。こういった考え方は,本書に書かれているとおり,まさに“がん診療のパラダイムシフト”であると考えられる。

 ロコモの概念を骨転移のある患者さんの医療とケアに取り入れて実践するに当たっては,がん診療に運動器マネジメントを取り入れ,緩和ケアチームのみならず,整形外科医,リハビリテーション医,理学療法士,在宅チームなど診療科横断的な多職種の診療体制を活用することが提唱されており,本書を手に取れば,自施設のがん患者さんの診療とケアの体制を見直すことになるだろう。

 さらに,本書は,運動器マネジメントの基本となる骨転移診療の基本,治療や看護,入院・在宅リハビリテーションなどの内容が網羅されており,骨転移の医療とケアについて,新たな視点を与えてくれる。がん患者さんの医療とケアに携わる医療者が本書を手に取ることで,患者さんが最期まで歩くことの意味を理解し,共に喜べる医療者が増えることを願う。

B5・頁312 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02546-1


看護のアジェンダ

井部 俊子 著

《評 者》村上 靖彦(阪大大学院教授・現象学)

看護師という“メチエ”,その拡がりと奥行きと複雑さを一望

 本書は「週刊医学界新聞」に長期にわたって連載された「看護のアジェンダ」を一冊にまとめたものである。2005年1月24日号から2016年6月27日号まで,133本のテキストから成るアジェンダである。

 医療者ではない評者が一読したときの驚きは話題の多様さにある。患者の経験,看護の実践,看護師の教育,マネジメント,法改正,日本の看護制度の歴史,海外での医療の動向,文章の書き方,そして著者自身の母の看取りまで主題は多岐にわたる。そして例に挙げるトピックも,映画や村上春樹のエッセイ,著者自身が見聞きしたこと,さまざまな統計資料や法律の文言といった広がりを持つ。

 こうして,看護師というメチエ(専門職)の拡がりと奥行きと複雑さを読者は一望することになる。133本のテキストが織りなす織物ゆえに,ミクロの視点から俯瞰する視点に至る多様な切り口で,本書は看護の世界とその魅力を巨大なプリズムとして描き出している。おそらく看護の外にいる人たちは,看護がこのように多面的な職務であることを知らないし,これを描き出すことができるのは著者をおいて他にはないのであろう。

 そして多様な話題をたどることで,逆に著者が一貫した主張を持っていることにも気付く。患者の尊厳を中心にして看護を考えること,そして一人ひとりの看護師が自発的に考え実践し発言していくこと,この二点について看護師を励ますために本書は書かれている。これは著者自身が本書を通して実践してきた営みでもある。そして本書において何よりも魅力的なのは,著書が自分で見聞きした出来事を描写する場面である。ミクロな視点が巨視的な知性に支えられ,それが「自分の言葉」になっていることがわかるのだ。

 最後に私が気に入った一節を引用したい。被災地にはためく洗濯物に,日常の回復を感じる描写に続く場面である(『107.洗濯物の記憶』2014年3月14日)。

 「一人暮らしをしていた私の母が89歳で亡くなり,6年が経つ。母が地方での一人暮らしを続けるのはこれでおしまいにしなくてはいけないと,私を決断させたのも,洗濯物である。

 東京で忙しくていた私は,月に1回の訪問で母と会話し,母の様子を見ていた。母はだんだんともの覚えが悪くなってきていた。敏感な母は,ある日,『私の頭が崩れていきそうだ』と言った。

 そんなとき,町の訪問看護師として,母の自宅の前を往き来していた山田さんが電話で,このごろ洗濯物が干されていないと私に教えてくれたことがあった。『きちょうめんなお母さんの家の前には,いつも洗濯物が出ていたんですよ』と言う。母が,日常の生活を一人でするのに限界があることを私が悟った瞬間であった。それとともに,訪問看護師の観察力に感動を覚えた。

 都会の集合住宅では,ベランダに干す洗濯物は外部から見えないようになっており,広場に洗濯物がひるがえる光景を見かけることはほとんどない。しかし,私は被災地の人々の生命力をはためく洗濯物で感じ,母の一人暮らしに終止符を打とうと決めた洗濯物の記憶を大切に保存している。」

A5・頁372 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02816-5


感染対策40の鉄則

坂本 史衣 著

《評 者》塚本 容子(北海道医療大教授・感染看護学)

これからのわが国の感染対策の方向性を示した一冊

 わが国の感染対策は,欧米諸国の対策を参考に発展してきた。これに対して異を唱える医療従事者はいないと思う。初めての感染管理認定看護師が2001年に認定されてから15年以上経つが,その間,医療施設における対策レベルは飛躍的に上がった。認定看護師は,米国疾病予防管理センター(CDC)の医療関連感染に関するガイドラインを読み解き,臨床の現場でその内容を導入することに努力し,サーベイランスを実施し,感染率が下がっていることを学会等で報告している。しかし,感染対策には終わりがない。グローバリゼーションおよび人口移動により,新興・再興感染症が脅威となり,また多剤耐性微生物も世界的に重大事項として取り上げられる世の中で,患者が安全に医療を受けるためには医療従事者は最善を尽くして感染を予防する使命がある。

 現在,わが国の感染対策は過渡期である。欧米諸国の対策を取り入れ,ある程度感染率は低減した。20年前とは異なり,多くの感染対策に関する著書や論文が発表され,インターネットにも多くの情報が載せられ,情報過多な時代である。ヘルスケアも多様性に富み,高度医療を提供している施設から長期療養型医療を提供している施設までさまざまである。ガイドライン等に示されている対策をそのままそれぞれの施設にも当てはめることが難しい。

 同時に医療従事者も多くの職種で構成され,異なる教育背景を持って働いている。施設の特徴に合わせて,どのようにベストな感染対策を行ったらよいのか判断が難しい。その道筋を示しているのが本書である。

 著者は,認定看護師の教育に携わり,また臨床現場で実践を積み上げ,感染対策のエビデンスとなる研究を発表し続けているフロントランナーである。その著者が,本書で海外の研究結果を丁寧にひもとき,それを日本の臨床現場にどのように応用していけばよいのか示している。40のルールを「鉄則」として紹介し,なぜその鉄則が重要なのかを「背景」(Background)として説明,その後その鉄則をどう実践につなげるのかを,「解説」(Discussion)で実例を交えステップを分けて紹介している。

 感染対策に現在かかわっている医療従事者から感染対策を実践してみたいと考えている医療従事者まで,多くの読者に対して説得力を持つ一冊である。

A5・頁168 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02797-7

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