医学界新聞

2016.12.12



Medical Library 書評・新刊案内


看護のアジェンダ

井部 俊子 著

《評 者》川嶋 みどり(日赤看護大名誉教授/健和会臨床看護学研究所長)

「日常の言葉」で語られる看護,職場討論の題材に最適

 連載中にそのほとんどを通読したはずだったが,あらためてページを繰ると,日本の看護界のトップリーダーの1人でもある著者の人間性が随所にあふれる本書の魅力をまず感じた次第である。11年の長期連載で,年次別に並ぶ133の目次はあまりにも多彩であり,それらに含まれている「看護のアジェンダ」がそれぞれ自己主張をしているようでもある。時々の看護を取り巻く環境の変化や国の政策に連動した動きなどを思い出しながら,場面を共有・共感し,時に首をかしげながら読み進めた。初期に書かれたものでも歳月の隔たりを感じさせないほど新鮮なのは,提起された問題の本質は今なお継続していることを示している。看護管理と看護教育の面での含蓄ある記述もさることながら,いわゆる一般教養的な話題は,著者の人生観が反映していて実に興味深い。

 とりわけ,実際の入院体験や患者体験を取りあげた項は印象深い。『92. 清水さんの入院経験』(2012年12月17日)では,「清水さんの入院経験に伴走することで,医師が患者の味方ではなくなることがあることや,看護師の身体ケアがいかに患者を活気づけ尊厳を守るかを再認識した」とある。また,『94. 駒野リポート――病いの克服』(2013年2月25日)では,病室の個室化が若い看護師たちが先輩の優れた技を盗む機会を奪い,看護の熟度が上がらず質に影響しているとか,国際的な医療機関認証であるJCI受審のための種々の変更が,機材・人材を伴わないため看護サービスのレベルダウンに通じるなど,近代化や国際化に翻弄される看護の姿を,入院したジャーナリストの目からの「看護のアジェンダ」として紹介している。このほか,『103. こんなことが起こっています』(2013年11月18日),『127. 人が患者になるとき,患者が人になるとき』(2015年11月23日),『131. 患者に寄り添わない会話』(2016年3月28日)など,いずれもリアリティに富んだ現場の状況が患者目線で述べられている。これらの数篇の体験談の底流には,母上の臨終に駆け付けた娘としての著者の悲しみと,追慕の情の一方で抜けきらない職業的習性を客観視する『44. 母の最後の日』(2008年9月22日)があり,評者も同様の体験をした者として涙を誘われた。

 また,看護の社会的有用性を示すための看護師自身の説明責任の必要性という点からも,看護を語ることの意味と,それを文章で表現することの大切さは論をまたない。この点に関しては,『28. 文体の魅力』(2007年4月23日),『40. 「看護」の語り方』(2008年5月26日),『69. 「Professional Writing」再び』2011年1月24日),『124. 文体のレッスン』(2015年8月31日),『125. トピック・センテンス』(2015年9月28日)で取り上げられている。研修会や講習会で自身の実践体験を生き生きと語った看護師が,同じ内容を文字に表す段になると,専門用語を羅列して精彩を欠くといったことは珍しくない。「日常の言葉を使って書いたり話したりすることのできなくなった人は,はっきり考える力そのものを失う」とは哲学者・鶴見俊輔の言葉であるが,その意味からも,肩肘を張らず日常の語り口で書かれている本書は,「看護を書く」という面からも学ぶことが多くあった。

 職場や小グループで関心ある項目を選び,さまざまな角度から討論されるとよいと思う。

A5・頁372 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02816-5


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