FAQ がん化学療法のレジメン管理(佐藤淳也)
寄稿
2016.10.17
【FAQ】
患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。
今回のテーマ
がん化学療法のレジメン管理
【今回の回答者】佐藤 淳也(岩手医科大学附属病院薬剤部/岩手医科大学薬学部講師)
がん化学療法の成否には,支持療法をいかに上手に構築するかが重要です。しかし,標準治療の根拠となる論文を見ても,支持療法の詳細はあまり記載されていません。したがって,院内でのレジメン登録の際には,支持療法に精通する薬剤師や実際に投与する看護師の意見を取り入れた,チームで構築するレジメンが重要なのです。本稿ではレジメン管理について,よくある質問を紹介します。
■FAQ1
新規制吐薬(アプレピタント,パロノセトロン)の使い方のポイントと,非定型抗精神病薬(オランザピン)が適応となる患者について教えてください。
シスプラチン(CDDP)を含むレジメンや,シクロホスファミドとアントラサイクリン系抗がん薬を併用したレジメンなどは,催吐性リスク分類の高度催吐性レジメンに分類されます。高度の制吐療法には選択的NK1受容体拮抗薬および長時間作用型5-HT3受容体拮抗薬のパロノセトロン,ステロイドの3剤を併用します。現在,選択的NK1受容体拮抗薬については,経口薬のアプレピタントと注射薬のホスアプレピタントが承認されています。ホスアプレピタントは1日目に1回の投与で,アプレピタントの3~5日間連日服薬に匹敵する効果を持ちます。
中等度催吐性レジメンの制吐療法では,パロノセトロンとステロイドの併用が推奨されます。ただし中等度催吐性レジメンでも,カルボプラチンやイホスファミド,イリノテカンを含むレジメンの場合には,パロノセトロンではなく,既存薬のグラニセトロン等と選択的NK1受容体拮抗薬の併用が勧められています。しかし,このような中等度催吐性レジメンに対する選択的NK1受容体拮抗薬の効果は,選択的NK1受容体拮抗薬を用いない既存の制吐療法と有効性に差がないとした報告も多いので,既存の制吐療法の効果を見てから使用を始める選択肢も一考しましょう。
最近,パロノセトロンを使用した制吐療法では,数日間にわたるステロイド投与を当日のみに短縮できる可能性も指摘1)されました。ステロイドによる不眠や消化器症状といったデメリットは,制吐作用という利点を上回る可能性があります。
ガイドラインに従った制吐療法を構築しても,3~4割の患者は,悪心や嘔吐を経験すると言われます。突出的な悪心・嘔吐がある場合には,非定型抗精神病薬であるオランザピンが有効です。オランザピンは糖尿病患者に禁忌ですので,筆者らの施設では糖尿病の既往がないことを確認の上,既存の制吐療法の不応例に予防的に投与したり,症状発現後にレスキューとして使ったりし,有効性を経験しています2)。
Answer…ガイドラインに従った制吐療法を実施しても悪心・嘔吐が突出する場合,オランザピンのレスキュー使用が有効です。また,次回のサイクルにて,制吐療法のバージョンアップ(中等度催吐性レジメンに対して高度催吐性レジメン相当の制吐療法を行う)や,あらかじめオランザピンを併用しておくことも考えましょう。
■FAQ2
CDDPのショートハイドレーションを安全に施行する上で,注意すべき点は何でしょうか。
これまで,CDDPを使用したレジメンは大量長時間の輸液が必要であったため,外来化学療法に向かないレジメンでした。しかし,最近1日2000 mL前後の輸液に抑えた「ショートハイドレーション」がよく行われます。この場合,1日1000 mL程度の経口水分補充と毎時100 mL以上の尿量確保を3日間継続します。すなわち,確実な制吐療法で悪心・嘔吐が制御され,しっかり飲水できる患者でないとショートハイドレーションの適応とはなりません。
しかし,CDDPの腎障害は,どのようなハイドレーションの場合でも一定の割合で(グレード2以上は10%未満)あるので,頻回の腎機能モニタリングが必要です。筆者らの施設では,CDDPを用いた外来化学療法レジメンの安全性向上のために,補水効果の優れる経口補水液(OS-1)を用いたショートハイドレーションを施行しています3)。
抗がん薬の中で,ハイドレーションが必要な薬剤は,CDDPやシクロホスファミド,イホスファミド,メトトレキサートなどの大量療法が代表的です。CDDPの場合は,マグネシウムイオン(Mg2+)や塩化物イオン(Cl-)の多い輸液が腎障害を低減するとされます。したがって,CDDP投与当日の輸液は,10~20 mEqのMg...
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