糖尿病診療はどこに向かっているのか?(赤井裕輝,内潟安子,吉岡成人,中塔辰明)
対談・座談会
2016.10.03
【座談会】『糖尿病診療マスター』通巻100号記念座談会
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赤井 裕輝氏 (東北医科薬科大学医学部内科学第二 (糖尿病代謝内科学教室)病院教授) 内潟 安子氏 (東京女子医科大学糖尿病センター センター長/内科学講座主任教授 吉岡 成人氏 (NTT東日本札幌病院副院長/糖尿病内分泌内科部長/内科診療部長 中塔 辰明氏 (岡山済生会総合病院糖尿病センターセンター長/診療部長) =司会 |
この四半世紀でのインスリン製剤と経口薬の開発は目覚ましく,糖尿病薬物治療の選択肢を広げてきた。その進歩を治療や療養指導につなげるための総合診療誌『糖尿病診療マスター』が創刊されてから14年。通巻100号を記念して,編集委員4氏による座談会が企画された。本紙ではその模様をダイジェストでお伝えする[座談会全文は『糖尿病診療マスター』(14巻10号)に掲載]。
糖尿病治療の目標
中塔 30年前と現在で大きく変わったことといえば,糖尿病治療の目標が第一に挙げられると思います。内潟先生,お願いします。
内潟 昔の治療は,ざっくりと言えば「合併症抑制には血糖は上げないほうがいい」という考えでした。それが大規模研究後に数値目標をもつようになり,「だいたいこの辺でいいのでは?」ではなく,明確な「数字」が必要になってきました。その結果,基準を厳格に守ろう,合併症抑制には目標値未満でなければならないとする方向に走り,行き過ぎて低血糖を頻回に起こしてしまう,そして低血糖時の不整脈の出現などで,心血管疾患,心不全が発症,そしてかえって死亡しやすくなってしまったという問題が出てきました。「血糖を下げること=合併症の抑制」という方向に,少し走りすぎたのかもしれません。その考えを反省してか,いまは目標は目標であるが,目標値を少し緩和する状況,患者さんの状況をみながらね,というところにきています。
現実には,「そんなに汲々と言ったって,この人はここが限度だよな」「この方は年齢も年齢だから,ここまで下がればいいんじゃないの」と,昔から医師は患者さん一人ひとりに自分なりの経験に基づいた物差しをお持ちになっていたのですが,後ろ盾となる論文がないものだから大きい声では主張することができなかった……。たぶん,先生方は「そんな数字を言っても……ねぇ」というのが,おありだったんじゃないかと,思っています。
中塔 ありがとうございました。
私も糖尿病の治療目標が時代とともに変化してきていることを実感しています。現在では日本糖尿病学会が「合併症を予防して日常生活の質を維持して,健康な人と変わらない寿命を確保すること」を目標として掲げています。治療目標の個別化の重要性も強調されています。このように治療目標が変化してきた背景には,糖尿病治療薬の進歩により,高血糖制御の手段が増え,血糖コントロールの質も考えながら治療を行うことができるようになったことも関与しているものと思われます。
薬物治療の進歩
中塔 現在,いろいろな経口薬が登場し,患者さんの病態に合わせた治療が可能になってきています。経口薬を含めた薬物治療の進歩について,赤井先生いかがでしょうか。
赤井 いま,“インクレチン時代”“グルカゴン・ルネッサンス”と言われていますけれども以前,矢内原千鶴子...
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