医学界新聞

2016.08.29



Medical Library 書評・新刊案内


混合研究法入門
質と量による統合のアート

抱井 尚子 著

《評 者》坂下 玲子(兵庫県立大教授・生活機能看護学)

質と量の混合がつくる新たな世界

 量的研究では,森(全体像)は把握できたが,木(個別性をもつ生身の人)が見えないもどかしさを,質的研究では,木はよく理解できたが,森がつかめないもどかしさを感じたことはないだろうか。それを解決してくれるのが,混合研究法(mixed methods research,ミックス法とも呼ばれる)である。混合研究法とは,質的研究と量的研究のハイブリッドアプローチであるが,それぞれ単独でとらえた以上の新たな世界を私たちに見せてくれる研究法である。

 本書は,1990年代に混合研究法に出合い,2007年に創刊されたJournal of Mixed Methods Researchの編集委員として活躍し,日本混合研究法学会の理事長を務める著者が,初学者向けにわかりやすく解説した入門書である。

 第1~3章では,混合研究法についての輪郭が示される。混合研究法が生まれた必然性や,哲学的背景,歴史と今後の動向について述べられている。一口に混合研究といっても多種多様な解釈とスタイルがあり,まだ成長期にあることを,パラダイム論争(質的,量的それぞれの研究を支える哲学的基盤の違いに根差したその優位性をめぐる論争)とその後の経過に触れながら,誠実に論じている。文献が豊富に引用されているので,読者はそれらを糸口として,自分はどのような哲学的基盤で世界を解釈しようとしてきたのか内省していただければと思う。

 第4,5章は混合研究法の基本的な方法(手続き)が説明される。読者はここで,混合研究法の定義や特徴,研究目的,サンプリング,研究デザインの組み方,質的・量的アプローチを統合する分析方法と結果の示し方の基本を学ぶ。

 続く第6,7章では,実際の研究例が解説と共に示され,どのように混合研究法を計画実施すればよいのか,1+1が2以上になるその成果とはどのようなものであるのかが実感できるようになっている。研究ごとに注目ポイントが丁寧に解説されていることは,読者の理解を後押しする。

 最後の第8章は,混合研究法のクリティークの視点と研究論文としての仕上げ方が述べられ,今後の発展の方向性が示される。

 看護学は,人々の健康とそれを取り巻く多様な要素が織り成す複雑な現象を扱う。その理解と課題解決のためには,「単一メソッドによるアプローチではもはや限界があると言わざるを得ない」(「序」p.iii)状況であろう。その意味において,混合研究法は看護学の研究方法論(methodology)として親和性が高く,今後ますます重要となるであろう。実際,そうとは意識されず混合研究法が用いられている研究を目にするが,本書により,混合研究法の強みと課題を明確に理解することで,より意義のある研究が展開できる。本書の第6,7章で展開される具体的な研究例は,入門者だけでなく,例えば科研費基盤研究(A)(B)の申請を考えているような研究者にとっても,自身の計画を洗練する参考になると考える。

 本書は,混合研究法に関する基本が端的に書かれていることもあり,小型で携帯しやすいのも特徴だ。私は神戸と東京を往復する新幹線の車中で読んだが,その後も座右に置いておきたくなるコンパクトさである。

四六判・頁148 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02470-9


看護師国家試験
解剖生理学クリアブック 第2版

日本生理学会教育委員会 編

《評 者》多久和 典子(石川県立看護大教授・生理学)

着実に改訂された,基礎から臨床へとつながる問題集

 日本生理学会教育委員会の編による『看護師国家試験 解剖生理学クリアブック』の改訂第2版が発行されました。初版は2007年に発行され,多くの看護学生の勉学の友として愛用されてきましたが,改訂版もわが国の生理学教育を牽引する日本生理学会教育委員会の諸先生のご尽力の賜物であり,心より敬意を表します。

 手に取ってみるとB5判のハンディさは初版と変わらず,いつでもバッグから取り出して続きの問題を解ける良さがあります。初版の14章に「必修問題」と「体表からみた人体」の2章が加えられて合計16章となり,問題数(360問→382問),ページ数(214ページ→241ページ)ともに増えて充実ぶりがうかがわれますが,初版と同じ価格に据え置かれています。見開きの左ページに3~4題の問題,右ページに対応する解答・解説が記載されている形式は変わっていませんが,重要な語句やキーワードが赤字でハイライト表示され,さらにクリアな解説になっています。また,初版にもあった「Key word」に加えて,新たに「Step Up」という関連項目の解説が処々に追加され,問題によっては「基本知識」や「臨床での応用」というアイコンが付いており,自分が解けなかった問題のタイプやレベルがわかり参考になりそうです。初版に比べて図表が大幅に増えていますが,スペースの制約から図が小さいので,次回改訂時に図が大きくなると良いと思われました。

 問題について見ると,初版で練られた良問は引き続き収載され,長文の選択肢から簡潔な選択肢への編集や,「誤っているのはどれか」から「正しいのはどれか」を問う問題への変換など,昨今の国家試験の傾向が考慮され,さまざまな観点から学生の身になって改訂作業を進められた跡がうかがわれます。

 全体的に難易度は初版と同じで最近の国家試験より高レベルであり,解剖生理学を集中して学ぶ低学年のうちに基礎知識を確実に習得した上でここまで解ければ理想的と言えましょう。さらに,看護学生にとっては難問と言える問題も収載されており,序文に記されているように看護学生への期待と熱意が伝わってきます。これらの難問には,それを示すアイコンを付けていただける...

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