医学界新聞

2016.07.04



Medical Library 書評・新刊案内


臨床研究の教科書
研究デザインとデータ処理のポイント

川村 孝 著

《評 者》村川 裕二(帝京大主任教授代行・循環器内科学)

作法は初心者のうちに学ぶべし

 今どきの〈愛想の良い本〉ではない。

 〈臨床研究をなぜやるか,どうやるか,ロジックは,統計処理は〉などを1 cmの厚さにまとめてある。

 論文を10本書いた人が本書を開けば,自分の研究計画がずさんだったとか,もっと理を詰めるべきだったなど思い至ることもあるかもしれぬ。しかし,多少でも研究の道を歩いてきたなら,自分の流儀が出来上がっていて,いまさらイチから習う気にはならぬもの。下手なゴルフを20年続けてきたのに,30回のレッスンを受けるために駅前のスクールに通う人は少ない。

 このテキストは研究の入り口か,そこをちょっと過ぎたあたりの読者に薦めたい。例えば,研究室の上司から「こんな研究を考えたらどうか」と〈おおざっぱな言葉〉で,〈それほど煮詰めてもないテーマ〉を提案された若手が購入すべきである。

 このテキストはテーマを与えた上司にとっても研究の成り立ちを手取り足取り教えなくて済むので,手間が省けるメリットがある。

 第1部は「研究の立案」,第2部は「研究の運営」,第3部は「データの整理と解析」。

 第1部で臨床研究とは何か,おぼろげに理解できてくる。何かの薬とプラセボをダブルブラインドで比較すれば一丁上がりだと思っている若者も「それなりに深い」と思うだろう。

 第3部は〈統計解析の本を一冊読むのはつらいから,このくらい理解したらどうか〉ということらしい。統計処理の個々のものを詳しく論じるのではなく,その性格がどんなものかヒントを与えている。

 第4部は論文の作法。brief and to the point。味がある。しぶい。

 第5部は具体的な研究の経過やその後を述べている。この第5部が一番おもしろい。Rejectされて別なジャーナルに送った経緯や,「肩こりに対する鍼治療の有効性」の研究で〈何がどうしてどうなった〉と,詳しく語られている。見たことがない趣である。

 「ぴったりタイミングが合えば,ぴったりくるテキストである」が書評子としての結論である。そこまで成長していない人や,もう出来上がった人には向いていない。作法は初心者のうちに学ぶべし。

 最初に手に取ったとき,表紙の色やデザインが医学書院らしくないなと感じたが,内容は装丁がどうであろうと関係がない本だ。

B5・頁248 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02497-6


薬剤師レジデントの鉄則

橋田 亨,西岡 弘晶 編

《評 者》古川 裕之(山口大大学院教授・山口大病院薬剤部長/臨床研究センター長)

新人だけでなく病棟で活躍している全ての薬剤師へ

 当院に2013年から3年続けて,毎年7人のフレッシュ薬剤師が就職してきた。全員が,6年制薬学教育を終えた人たち。今年度の5人を加えると,本院の薬剤師のほぼ半数が,経験年数3年以下という状態である。

 多くのフレッシュ薬剤師を効率よく育て上げるにはどうしたらよいかと考え,副部長を中心とした教育ワーキンググループを立ち上げ,新人教育プログラムを作成した。その中で,『薬剤師レジデントマニュアル』(医学書院,2013)の活用が提案され,新人薬剤師一人ひとりに一冊ずつ用意することになった。われわれは,「あるものは活用する。ないものは作る」という姿勢を基本にしている。

 今年2月,本書編者の橋田亨先生(神戸市立医療センター中央市民病院院長補佐/薬剤部長)にお会いしたとき,「改訂版の予定はありますか?」とお尋ねしたところ,にっこり笑う橋田先生から予想していなかった答えが返ってきた。それが,手元にある『薬剤師レジデントの鉄則』である。「なるほど,こういう形できたか……」と驚いた。

 本書は,白衣のポケットに入る『薬剤師レジデントマニュアル』とは異なり,B5判という大きなもの。その表紙の帯には,「臨床の薬学的課題を解決する『実践力』を身につける!」と大きく書かれている。“課題を解決”と“実践力”というキーワードがぴたっと評者の好みに合った。

 ページを開いてみた。例えば,感染症関係の章。いきなり,「鉄則」が書かれた青色地の長方形が目の中に飛び込んできた。これは,エビデンスに基づいた薬物療法を実践するためのこつを新人薬剤師向けにまとめたもの。まず重要なポイントを知り,それから本文に入るという方法は,学習効果が大きいと思う。

 続いて,Q&A方式で本文が始まる。エビデンスとなるガイドラインや論文の紹介や図表と写真も数多く掲載されている。そして,「最終チェック」で締めくくる。全体的に見て,文字だけが続くのではなく,図表が多いので圧迫感がない。実によく練られた構成である。「さすが……」と,感心した。

 本書は,新人薬剤師だけでなく,病棟で活躍している全ての薬剤師にとっても知識の更新,また専門領域以外の知識習得に役立つと思う。本院のスタッフ用に何冊か準備しなくてはならない。

 表紙の帯の最後には,「『薬剤師レジデントマニュアル』と併せて読みたい!」と,しっかり書かれている。まったくその通りなので,ぜひ,こちらの改訂もお願いしたい。執筆される皆さんには大変なご負担をお掛けすることになりますが……。

B5・頁292 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02410-5


《眼科臨床エキスパート》
角結膜疾患の治療戦略
薬物治療と手術の最前線

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信 シリーズ編集
島﨑 潤 編

《評 者》雑賀 司珠也(和歌山医大教授・眼科学)

日常診療の中の疑問に即座に,かつわかりやすく答えてくれる一冊

 医学書院から《眼科臨床エキスパートシリーズ》に『角結膜疾患の治療戦略――薬物治療と手術の最前線』が加わりました。編集ご担当は日本角膜学会理事長の島﨑潤教授(東京歯科大学市川総合病院)です。手に取ると厚さ2 cmで索引を入れると本文405ページから成るちょっと厚い教科書ですが,ひとたびページをめくると,検査法や疾患ごとに細かく段落が分かれているので,目次を見て...

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