医学界新聞


「シミュレーショントレーニング IN 新見」の取り組みから

寄稿

2016.06.27



【特集】

卒後こそ,多職種連携教育を
「シミュレーショントレーニング IN 新見」の取り組みから


 超高齢社会を迎えた今,複雑多様化する地域の医療ニーズに,医療者はどう応えればよいか。「2025年」を見据えた地域包括ケアの構築に向けては,専門職による「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・予防」が効果的な役目を果たすことが期待されており,職種間の垣根を越えたチームでの取り組みが課題となっている。そこで注目される取り組みの一つが,臨床で働く医療者を対象に,地域や施設の実情に応じて行う多職種連携教育(Interprofessional Education;IPE)だ。本紙では,岡山県新見市で開催されたシミュレーションによるIPE研修の取材から,地域でIPEを行う意義と,地域の医療者に教育機会を提供する仕組みづくりについて報告する。


 「先生,病棟の患者さんが作業療法士によるリハビリ中に体調が悪くなり,吐き気を訴えています!」。看護師からのコールで状況説明を受けた医師が,ベッドサイドに駆け付ける。医師の視線はシミュレーターの「患者」と,その横のスクリーンに映し出されるバイタルサインを行き来する。看護師と作業療法士に指示を出し,3職種が連携して急変対応に当たる。医師が処置を続ける間にも患者の容態は刻々と変化。看護師が医師に血圧を報告し,作業療法士も器具の準備に奔走する。「はい,そこまで」。インストラクターの合図により約10分間のシミュレーショントレーニングが終わった。

 現場の第一線で働く医療者が集まり,シミュレーションによって多職種連携を学ぶ研修が5月28日,新見公立大(岡山県新見市)で行われた(写真)。「患者の急変に,医療チームの各専門職はどう対処するか」「他職種とかかわるとき,どのように配慮してコミュニケーションを図ればよいか」を学習の目的に開催された今回の研修には,新見市内の4病院から,医師5人,看護師6人,理学療法士・作業療法士各1人の計13人が参加した。参加者は4つのグループに分かれ,「消化管出血」「急性心筋梗塞」「急性心不全」「アナフィラキシー」のシナリオをもとに多職種連携の向上と急変対応のスキルアップをめざしたトレーニングを受けた。

写真 ❶左から理学療法士,看護師,医師。モニターに映るバイタルサインから次の一手を確認する。

写真 ❷スズメバチに刺されアナフィラキシーショックを起こした患者への対応では,悪化する容態に,医師と看護師が連携し迅速に対処する。奥は,シナリオに基づき患者の訴えを話す万代氏。

写真 ❸直後の振り返りでは,チームへのかかわりを中心に,インストラクターから質問が投げ掛けられる。

 一つのシナリオが終わるたびに行われるデブリーフィング(振り返り)では,「バイタルサインの数値をこまめに報告できればよかった」(看護師),「積極的に指示を出さないと情報が集まらない」(医師)などの感想をもとに,「チームの中で自分だったらどうするか」を参加者全員で確認した。インストラクターからは「多職種連携を円滑に進めるには,それぞれの職能を把握すること」「お互い何となく『わかっているだろう』と思って発言しないのは危険。普段からコミュニケーションを図り,相手に言いやすい雰囲気をつくることが大切」とアドバイスがあった。

地域の実情に応じた多職種連携教育を提供

 今回5回目となるシミュレーション研修は,新見市,岡山県看護協会,岡山大,新見公立大の四者の協力によって開催されている。岡山県北部,中国山地の山あいに位置する人口約3万1000人の同市の高齢化率は38.4%と,県内27市町村中6番目に高い(2015年10月現在)。また,新卒で市内の施設に就職する医療者は少なく,現役の医療者の高齢化も年々進むなど,医療資源の不足が課題となっている。こうした危機感を前に,看護師の復職支援や医療者のスキルアップ研修の計画立案を目的とした「新見地域医療ミーティング推進協議会」が2013年に発足。事業の一環として2015年から新見公立大を会場にシミュレーション研修が始まった。

 本研修の特徴は,地...

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