医学界新聞

2016.04.18



iPS細胞発表から10年,再生医療の今

第15回日本再生医療学会開催


 第15回日本再生医療学会総会が2016年3月17-19日,西田幸二会長(阪大大学院)のもと「知のシンフォニー――再生医療による難病克服を目指して」をテーマに大阪国際会議場(大阪市)にて開催された。iPS細胞発表10周年となる今年,日本再生医療学会では,医薬品医療機器等法による早期承認制度により製造販売承認を受けた2つの商品を始め,数年以内に実用化が期待される技術などさまざまな話題で盛り上がった。本紙ではiPS細胞発表10周年特別企画シンポジウムと,「再生医療の普遍化」をキーワードとした特別シンポジウムの模様を紹介する。


西田幸二会長

iPS細胞技術応用の未来

 2006年にiPS細胞の作製成功の論文が発表されてから10年。2012年に山中伸弥氏(京大iPS細胞研究所)がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで,再生医療は医療界のみならず社会全体から注目を浴びるようになり,実用化に向けた研究速度を増してきた。現在iPS細胞を用いた研究は,加齢黄斑変性治療に向けた世界初のiPS細胞由来網膜色素上皮シートの移植,臨床用HLAホモiPS細胞ストック提供などの臨床応用がすでに始まっており,パーキンソン病に対する神経細胞移植治療やiPS細胞を用いた血小板製剤なども臨床応用への準備段階にある。さらに骨軟骨系の難病の病態改善にスタチンの有効性を確認,進行性骨化性線維異形成症患者由来のiPS細胞から病態再現に成功するなど,創薬への応用も進んでいる。

 iPS細胞発表10周年を記念した特別企画シンポジウム「再生医療・生命科学研究の未来」(座長=京大iPS細胞研究所・高橋淳氏)では,海外出張中の山中氏からのビデオレターが冒頭に流され,iPS細胞をはじめとしたさまざまな技術を用いて,現在の医療では治せない病気やけがで苦しむ患者を救うことへの意欲が示された。

 ドナーの獲得が難しい移植医療などにおいても再生医療への期待は大きく,実現が期待される未来の技術の一つに,三次元組織,臓器の構築がある。岡野光夫氏(東女医大先端生命医科学研究所)は,低コスト・省スペース・省力化を可能にする独自の三次元浮遊撹拌懸濁培養技術を基盤に,ヒトiPS細胞の大量培養を実現。iPS細胞からの大量分化誘導と,培養温度を変えるだけで培養中に細胞が器材表面との間に形成させた接着面タンパク質を壊さずに培養細胞を回収できるため生体組織に生着しやすい「細胞シート」技術を組み合わせ,複数の細胞シートを積層化することで,厚い機能的三次元組織を目指す研究を紹介した。

 全く別の手法で臓器作出に取り組むのは中内啓光氏(東大幹細胞治療研究センター/スタンフォード大幹細胞生物学再生医療研究所)。氏は,遺伝子改変により特定の臓器の発生を阻害した動物個体の胎生初期胚に正常iPS細胞を注入することにより,iPS細胞由来の臓器を持ったキメラ動物が生まれるとい...

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