医学界新聞

2016.02.08



Medical Library 書評・新刊案内


戦略としての医療面接術
こうすればコミュニケーション能力は確実に向上する

児玉 知之 著

《評 者》木村 哲也(聖路加国際病院神経内科部長)

コミュニケーションの“型”を作る

 「問題患者さんが増えて困った時代だよなあ,こっちは“医学的に”正しく対応しているのに」とぼやかずにはいられない先生方には,ぜひご一読いただきたい本である。さすが児玉知之先生(柏厚生総合病院内科)の著書だけあって,エビデンスや概念がより実践的な形で具現化されている。

 全体の構成は,医療面接に必要なスキルが全12章にまとめられ,各章ごとに症例提示から始まっていてわかりやすい。多くの先生方にとって,「これ普通の対応だよね」「そうそう,こんなのあるある」「何が悪いんだ」と心の中で叫んでしまいそうな症例ばかりであるが,読み進めていくうちに,問題点が明らかとなり,どう対応すべきだったかが述べられていく。

 特筆すべきは「解釈モデル」とか「アドヒアランス」などの概念を,抽象論のままでなく,具体的な言葉・態度にまで落としこんでいる点である。コミュニケーションに関心があれば,誰でも耳にしたことがある「open question」と「closed question」や,「Iメッセージ」と「YOUメッセージ」なども,使い所のシチュエーションについての記述がはっきりしていて,スキルとしての位置付けが明確である。すぐに臨床の場で使えるようになっている点が素晴らしい。「傾聴」と「共感」を別の章立てにした著者の思いもひしひしと伝わってくる。

 空手道の美しい“型”が日頃の技術的鍛錬のみならず,武道の“こころ”に裏付けられているように,医療面接/コミュニケーションに必要な技術を“型”として身につけ,さらに医師としてあるべき“こころ”にも変化が起これば,著者の思うつぼだろう。内科医としても,精神科医としても優れた著者であるからこそ書くことのできた良書である。ぜひご一読いただき,自分なりのコミュニケーションの型を作っていただければと思う。評者も反省しながら,翌日からの診療に当たっている。

A5・頁272 :本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02162-3


糖尿病の薬がわかる本

桝田 出 著

《評 者》野村 卓生(関西福祉科学大教授・理学療法学/日本糖尿病理学療法学会代表運営幹事/日本糖尿病療養指導士認定機構理事)

薬の知識が療養指導に生きる

 糖尿病の治療薬は,おおまかにインスリン分泌促進薬,インスリン抵抗性改善薬,糖の排泄・吸収調節薬,インスリン製剤,インクレチン関連薬の5つに分類されます。本書は,著者の長年の診療経験に裏付けられた考え方のもとに,糖尿病治療のための薬物に関する処方・服薬指導の基本,治療薬の特徴,2型糖尿病および1型糖尿病患者への処方の具体例がまとめられています。薬物の名称もできるだけ商品名を用いており,また,療養指導を行う上でも重要なポイントである①少量開始,②低血糖管理,③体重増加予防,④膵β細胞保護の4点を念頭に置いて実際の臨床へつなげることを意識して執筆されています。

 第I章「糖尿病と治療薬」では,糖尿病治療薬の処方・服薬指導の基本など,療養指導をも念頭に置いた治療方針の考え方が実践的にまとめられ,コラムとして臨床上の注意点が補足されています。今さら聞けない素朴な質問をまとめたQ&Aは,日頃同じ疑問を持つ方の共感が得られると思います。

 第II章「糖尿病治療薬の特徴」においては,糖尿病治療薬の異なる7種類の経口薬と2種類の注射薬の薬理作用の概要が図表を用いてわかりやすく解説され,それらの適応・禁忌,副作用と注意点がまとめられています。糖尿病患者の多くは,複数の糖尿病治療薬が処方されますが,薬の特徴を知ることによって,治療薬を組み合わせる理由が理解され,服薬指導に生かされると思われます。

 第III章となる「2型糖尿病患者への処方」では,同じように見える2型糖尿病において,発症機序や合併症の有無などによって,どのように糖尿病治療薬が処方されるのかがわかりやすく解説されています。

 第IV章「1型糖尿病患者への処方」では,発症時期や進行,状態によって,薬物療法の方針が微妙に異なる1型糖尿病患者に対してインスリンの量や投与回数をどのように決定していくのかを,ライフステージや病態別に解説しています。握力や視力の低下によって,「単位設定メモリがよく見えない」「注射器が滑りやすく,うまくボタンを押せない」といった注射手技に困難が生じた場合の対処方法や,巻末の付録にはカートリッジ交換型(ペン型)注射器の特徴なども示されています。

 本書は,糖尿病療養指導に従事している方々はもちろんのこと,糖尿病が専門でない医師の方々にも参考になる実用性が重視された一冊です。

A5・頁176 :本体1,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02160-9


冷凍カテーテルアブレーション

沖重 薫 著

《評 者》平尾 見三(東医歯大教授・心臓調律制御学/不整脈センター長)

冷凍アブレーションの全てを網羅するすごい本

 2014年,日本に心房細動アブレーション用の画期的な冷凍バルーンシステムが施設限定で臨床導入された。それからちょうど1年がたつ時期に,誠にタイムリーに本書が上梓された。

 畏友,沖重氏とは30年を超える長年の付き合いであるが,氏の将来を見る着眼の鋭さ,それに向かっての直進力とそのスピードには常々驚かされてきた。米国留学中に冷凍エネルギーアブレーションの基礎実験を手掛けたことがきっかけとなり,以来冷凍アブレーションは氏のライフワークになってきた。このアブレーションの高い潜在能力を信じて情熱を持ち続けてきた氏にとっては,「心房細動治療用冷凍バルーンシステム」の登場は大きな喜びであったかと察する。

 そういう意味では,本書は満を持して渾身の力を込めて書き上げられた書であり,氏が冷凍アブレーションに関しての長年蓄積した知識と臨床経験から得たものの集大成と言える。膨大な論文・資料の収集とそれを基にこれだけのがっしりした本書を一人で書き上げた氏の類いまれな力量とエネルギーに感服し,賞賛の言葉を送らせていただきたい。

 本書の構成であるが,冷凍エネルギーの物性から始まり,動物実験,臨床初期経験からこの20年の臨床データ,そして最新の冷凍バルーンまで全てを網羅するすごい本である。冷凍エネルギーがいかにして組織を傷害するかが,現在のカテーテルアブレーション術の主流である高周波エネルギーと細かなデータを示しながら対比解説されておりわかりやすい。冷凍エネルギーが心臓内膜,心筋(心筋細胞,線維芽細胞),脂肪組織,微小循環に与える影響を基に,本エネルギーをアブレーションに用いる利点を説いているが,説得力がある。

 カテーテルタイプを用いた冷凍アブレーションの上室頻脈,心室頻拍への効果がこれまでに実施されてきた多数の臨床データを基に詳細に解説されている。評者の個人的意見としては,イリゲーションが不要かつ心表面へのアドヒアランスが良好,脂肪組織にも有効などの特徴を考慮すると,心室頻拍治療時の心外膜アプローチに冷凍エネルギーは有望と思われる。氏が力説する高い潜在能力を有する冷凍エネルギーは,現在未解決で今後改善されるべき高周波エネルギーを用いたアブレーションの限界への解決策となる可能性があり,今後の明るい展望と期待を抱かせてくれる。

 秀逸なのが,冷凍バルーンを用いた心房細動アブレーションのページである。左房/肺静脈へのアブレーションに必要な冷凍凝固の原理,温度,時間,バルーンのサイズ,接触時間,周囲臓器との位置関係などが幅広い文献からの図表を駆使して解説されている。また,氏の施設でのクライオバルーン実施250例に及ぶ経験を基に,安全かつ有効な肺静脈隔離術に必要なことが網羅されている。それに加えて,これまで4000例を超える不整脈患者にアブレーション術を実施し,衆人が認めるアブレーションの達人である氏の経験から生みだされたコツも書かれており,実施臨床に明日からでも役に立つ。

 これから冷凍バルーンアブレーションを導入する医師・スタッフには,大いに頼りになる導きの書として自信を持ってお薦めしたい。また,これまで既に同法を実施してきた施設の方々にもアブレーション術をさらに向上させ,臨床研究のヒントとなる,これまで未知であった情報・知識が満載された良書であることをお伝えしたい。クライオバルーン術を多様な心房細動の患者に施術する際には,左房/肺静脈の大きさ・形状,両者の位置関係,また周囲臓器・構造物との位置関係などにより患者個々人に合わせてその場でさまざまな工夫が必要である。本書はそのような応用問題に対応する能力・スキル・ノウハウを医師・スタッフに提供することができると確信している。

 評者自身,本書を手元において冷凍バルーンアブレーション術の道しるべとし,今後の臨床研究に当たっては従来の文献検索の書として大いに活用したい。不整脈診療にかかわる全ての医師・スタッフに自信を持ってお薦めできる一冊である。

B5・頁216 :本体7,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02380-1

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