MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2016.01.25
Medical Library 書評・新刊案内
東京大学公共政策大学院 医療政策教育・研究ユニット 編
《評 者》坂本 すが(日本看護協会会長)
ここにはチーム医療の縮図がある
そこは「ハーバード白熱教室(NHK)」さながらの熱気であった。講師も受講生も皆一緒になって議論する。若いナースもいればベテランのドクターもいる。どうやら医療職種だけというわけでもない。日本の大学の一般的な授業風景とは異なる世界がそこにあった。社会人向けの講座であるから,いろいろな人が集まっているのであろうが,年齢も職種も風貌も異なる人々が,何についてこれほど熱い議論を交わしているのだろうか。
東大公共政策大学院の医療政策教育・研究ユニットが社会活動として実施する「医療政策実践コミュニティー」。通称H-PACは,患者支援者,政策立案者,医療提供者,メディアの4つの異なる立場の者から構成される。受講生は常にミックスチームを作って,共に政策提言や事業計画書の成果物を作り上げる。
「医療を変えなければならない」「変えるためにアクションを起こさなければならない」「ではどうやって?」さまざまな立場の思いが合わさり気迫すら漂ってくる教室に,私は評者として参加する機会を頂いた。隣に座っていたのは,日本医師会会長の横倉義武先生と厚労省の医政局長であった。
ここにはチーム医療の縮図がある。異なる専門性,主義・主張を持つ人々,いわゆるステークホルダーが,違いを認識し合いながら,合意形成を行っていくプロセスを再現する絶好の場である。第一線で活躍する講師陣による20本の集中講義に参加するうち,共通の課題,思いがあることに気付かされる。そして「今こそ私たちはともに行動しなければならない」と強く心を突き動かされる。
H-PACでは,知識,マネジメント,リーダーシップの3つがそろって初めて変革ができると考えられている。まさにその通り。看護の立場から言わせていただくと,これからの看護職はこの3つを兼ね備えるべきと思う。今後,在宅・地域での看護実践がより一層期待される中で,看護職自らが判断し,自律的に活動していかなければならないからだ。
その意味で,特に看護職の皆さんにはChapter4「成果をもたらすリーダーシップ」を参考にしていただきたい。うれしいことに,辻哲夫先生や髙本眞一先生も自律的な看護職の活動に期待を寄せている。「リーダーシップを発揮しなさい」と言われると重荷に感じる人も多いだろうが,まずは自分の考えを持つことである。現在の社会情勢から,看護職の立ち位置を認識し,「何を成すべきか」考える。自分の考えを確立し,その信念に基づいて行動を起こすことがリーダーシップの第一歩となる。
次は協働である。国の政策をも動かす大きな変革を起こすには,多くの人と力を合わせる必要がある。自分と異なる立場の人といかにコラボレーションするか。そのヒントが本書に隠されている。本書を参考に,一人ひとりが自分の考えを確立し,協働を生み出す戦略を探ることが「医療を動かす」知の創造につながるだろう。
A5・頁328 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02164-7


江川 万千代 編
《評 者》西村 由紀子(純真学園大教授・健康福祉学)
運営の指針を一つにする知恵と工夫が随所に光る一冊
本書は,江川万千代氏の看護教育や臨床現場での実践や管理をはじめとする豊富な経験を基に記されたものである。学校管理や運営は学校長や教務主任だけの役割ではなく,看護教員も管理者の一員という自覚が必要という考えに基づき,基本的かつ具体的な内容が実例を交えて紹介されている。
本書は7章から構成されている。1,2章には,学校経営・運営の基本的な内容が述べられているが,1章の冒頭で看護学校経営と管理・運営の関連図および学校経営のステップが示してある。これにより経営・管理・運営のめざすところや関係,その要素が多岐にわたることにあらためて気付かされる。さらに学校がその使命を果たすには,運営の目標を長期,中期,短期で立案した上で,学校長以下学校職員が組織上の役割を遂行していくことが重要であるとしている。
3章のタイトルは「看護学校運営の中心はカリキュラム」である。文字通り教育理念を実現するためのカリキュラムについて,教育理念に始まり,教育課程の構造図から分野別の構成の考え方,さらに臨地実習の考え方,教科外活動や進度表に至る例示により,わかりやすく示されている。
4章は学校運営を,学習への動機づけのための環境づくり,危機管理,情報管理,事務管理などの視点から述べられている。例えば図書室管理については,「図書室は学生のオアシス」というタイトルとなっている。紛失図書の対策で悩んでいる学校は少なくないと考えられるが,センサーや持ち物検査ではない方法で減少させることができることを紹介している。
5章は「看護教員が身につけたい能力」,6章は「学習権の尊重と倫理的配慮」となっており,学校管理・運営の柱というべき教員,学生について述べられている。教員に「個性を尊重できる人間観をもとう」という呼び掛けに始まり,さまざまな理由で入学してくる学生の学習権を尊重するために,学習困難な状況に陥る要因を分析した上で,いつでもどこでも学習できる学生中心の環境整備・自己学習のできる環境づくりの重要性とそのポイントが具体的に述べられている。
7章は「看護学校の自己点検・自己評価」である。ここでは1章で述べられている経営・管理・運営のめざすところに到達するために,いつ,何を,どのように点検・評価するかについて自己評価を機能させる組織づくりや評価の具体的なプロセスについて,課題を交えながら実例を用いて紹介されている。
人口構造,医療環境,社会の期待や人々の認識の変化,看護基礎教育制度自体が転換期を迎えているなど,看護教育を取り巻く環境は大きく変貌している。こういった中で教育は,学習者を尊重し,自律的かつ発展的にその使命を果たしていく必要がある。本書は,組織の一員として自身の役割を再認識し,なぜ,何を,どのようにしていくかを考え,運営の指針の一つにすることができる知恵と工夫が随所に光る,身近に置いておきたい一冊である。
A5・頁144 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02199-9


虎の門病院看護教育部 監修
福家 幸子,山岡 麗,千﨑 陽子 著
《評 者》古田 恵香(名大大学院助教・健康発達看護学)
「吸引」は手技のみにあらず,ケアに膨らみを持たせる一冊
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