呼吸数(志水太郎)
連載
2016.01.25
おだん子×エリザベスの
急変フィジカル
患者さんの身体から発せられるサインを読み取れれば,日々の看護も充実していくはず……。本連載では,2年目看護師の「おだん子ちゃん」,熟練看護師の「エリザベス先輩」と共に,“急変を防ぐ”“急変にも動じない”フィジカルアセスメントを学びます。
■第1夜 呼吸数
志水 太郎(東京城東病院総合内科)
J病院7階の混合病棟,時刻は夜10時-。今日の夜勤は,2年目ナースのおだん子ちゃんです。ラウンドの最中,女性患者が苦しそうにしているのを発見しました。患者は赤垣さん(仮名),68歳。卵巣がん(術後)の既往がある方です。大腿骨頚部骨折に対する骨頭置換術後の入院で,ちょうど今日,離床したところ。経過は順調だったはずなのに……!
(患者) 「なんか息が苦しいんです……ハァハァ……」
(おだん子) 「だ,大丈夫ですか? (ど,どうしよう)」
急にこんな場面に出くわしたら,オロオロしたくもなりますよね。でもこういうときこそ基本に戻って,まずは病歴の把握が大切です。夜間急変といっても入院している患者さんですから,カルテを見ればすぐに患者情報はわかります(施設によっては,見回りにカルテを携帯するところもあると聞きます)。まず,目の前で急変している患者さんを見つけたときに押さえておきたいのは,下記の4つのポイントです。
急変ポイント❶
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一瞬でマズいとわかる急変なら,「自分一人でなんとかしよう」と無理せずに⓪周囲の人に助けを求めるのがよいでしょう。
その上で,ドクターコールを念頭に置いて,①-③の情報を確かめましょう。これらは,コールを受けた医師が「急がなければならない状態か,また原因(診断)が何か」を突き止めるための手掛かりの中でも最重要情報になります(入院患者のことをあまりよく知らない“非常勤のドクター”が当直している場合ではさらに重要です!)。ドクターから聞かれたとき,サッと答えられるようにしておきたい情報とも言えるでしょう。
★
さて,前置きはここまで。ケースに戻りましょう。今回の赤垣さん,息が苦しそうにしていますね。「呼吸困難」の状態です。ここで先に挙げた3つのポイントに沿って,振り返りましょう。患者の赤垣さんは①卵巣がん術後(半年前)で,②大腿骨頚部骨折の手術後で,今日から離床を始めたところでした。なお,本文中にない追加情報ですが,③特に薬は飲んでいない,ようです。
手術後に臥床していて,離床した当日に急な呼吸困難を訴えている――。「離床直後」「呼吸困難」という点から,経験豊かな看護師さんであれば,下肢静脈の血栓が肺血管に詰まった「肺塞栓症」などを考えたくなるかもしれません。しかも,半年前にがんの既往があるならなおさら。がんの既往は深部静脈血栓のリスクも高めますからね。肺塞栓症の可能性がより高まるでしょう。それでは,おだん子ちゃんはこの後どう対応するのでしょうか。経過を追ってみましょう。
★
(おだん子) 「(とりあえず,ベッドに腰かけて起座位になってもらって,と)。それで,ここからどうすれば……あ,エリザベス先輩!」
(エリザベス) 「あら,どうなさって?」
(おだん子) 「赤垣さんが胸を押さえて,息苦しそうに呼吸していて……」
(エリザベス) 「呼吸数はどのくらいですの?」
(おだん子) 「へっ?」
おだん子ちゃんの前に現れたのは,J病院で“夜勤専従ナース”として働くエリザベス先輩でした。
先輩は呼吸困難の患者さんであることを聞くと,一番に「呼吸数」を確認しました。患者の状態を把握する上では,病歴とともに,このような「フィジカルアセスメント」で得られる情報もとても重要です。身近なものを挙げれば,視診による“見た目”でわかる情報がそうですよね。つらそうなのか,悶えているのか,落ち着いて笑顔を作れるぐらいなのかといった表情。これも立派なフィジカルアセスメントになります。さらにもう一歩踏み込むと,患者の身体に積極的に触れる触診,打診,聴診などで得られる情報が挙げられます。
こうしたフィジカルアセスメントは,器械や人手の有無に制限されず,どんな環境だろうと現場の看護師の五感だけで得られるもの。患者さんの状態をサッと察知する有効な手段とも言えるのです(もちろん,急変発生時,危険度・緊急度が高い状況なら,看護師が優先すべきことは他にもあるのも事実ですが)。
さて,今回...
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この記事の連載
おだん子×エリザベスの急変フィジカル(終了)
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