医学界新聞

2015.09.07



Medical Library 書評・新刊案内


《精神科臨床エキスパート》
精神科薬物治療
こんなときどうするべきか

野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集
吉村 玲児 編

《評 者》大谷 浩一(山形大教授・臨床精神薬理/山形大病院精神科科長)

豊富な経験に裏打ちされた学術的レベルの高い実践書

 精神科医療を含めて医療行為を行う際にエビデンスに基づく知識と技術が必要なのは言うまでもない。しかし,疾患の在り方や治療反応性に大きな個人差が見られる精神科領域では他の領域と比較してエビデンスでカバーできない部分が大きい。

 この精神科医療の特徴を踏まえて,精神科臨床エキスパートシリーズの目的は,その道のエキスパートに,エビデンスを踏まえつつ,その枠を超えた臨床知を提供してもらうことだという(精神科臨床エキスパートシリーズ「刊行にあたって」より)。

 本書はその一部として精神科薬物治療についてまとめられたものである。編者の吉村玲児先生は臨床精神薬理学の分野で多大な研究成果を上げている方であるが,臨床医としても非常に経験豊かな方である。したがって,本書の編者として最適と言える。また,各章の執筆者も全国からえりすぐりの方々である。

 第1部は「精神科薬物治療の原則」である。エビデンスと臨床経験に基づく編者の治療哲学がまとめられているが,いちいち納得させられ,この部分だけでも読み応えがある。

 第2部は「向精神薬の使い方のコツと注意点」である。抗精神病薬,抗うつ薬,気分安定薬,睡眠薬・抗不安薬,抗認知症薬の5つのグループの中で,各薬物の薬理作用,臨床的特徴,使い分け,副作用などの注意点が包括的かつコンパクトにまとめられている。本邦で汎用される向精神薬の情報が網羅されていると言って良い。

 第3部は「特殊な状況の患者にどう対応するか」である。まず感心させられるのは,精神科医が日々の診療で遭遇する機会が多くて直ちに解決を迫られる問題や状況を的確に押さえていることである。ここにも編者の豊富な臨床経験が反映されていると言えよう。取り上げられたテーマは妊娠中の患者,高齢の患者,児童・思春期の患者など13にわたる。各執筆者は提示した症例について,エビデンスを意識しながら豊富な経験に裏打ちされた解決策を示していく。どの症例についても編者が意図したように「診療場面をありありとイメージできる」(「序」より)。

 結論として,本書は実践書として完成度が高いのみならず,学術的にもレベルが高い。エキスパートをめざす精神科医はもちろんのこと,エキスパートを含めて精神科医全体に対して推奨できる。自室で教科書として精読しても良いし,診察室において辞書的に使用しても良いであろう。

B5・頁260 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02114-2


Dr.宮城×Dr.藤田
エキスパートに学ぶ
呼吸器診療のアートとサイエンス

宮城 征四郎,藤田 次郎 著

《評 者》長坂 行雄(洛和会音羽病院洛和会京都呼吸器センター所長)

アートとサイエンスの見事な融合

 呼吸器診療の大先達の宮城征四郎先生,そこに大学での綿密な検討を加え,科学的な根拠を積み重ねているのが藤田次郎先生である。本書はこの日本の呼吸器診療を代表するお二人から,沖縄県臨床呼吸器同好会での症例検討を基に,表題通り,「呼吸器診療のアートとサイエンスを“わかりやすく”学べる」ように仕上がっている。多様な病像の20例が示され,画像もレイアウトも優れているので見直しもしやすい。

 いずれの症例にも宮城先生の明快なコメントがあり,症例検討の流れが決まる。これは豊富な経験だけでなく,徹底的に文献を調べ,勉強された集大成である。一見,直観的なコメントだが,実は数字も多く挙げられ,緻密な考えがわかりやすく示されている。広範な知識を,個々の症例に的確に応用するアートの部分である。

 症例検討では,藤田先生の要点を的確に指摘する画像解説に加え,お二人の薫陶を受けた多くの著名なドクターのコメントもあり,沖縄の呼吸器病学が大きな発展を遂げ,日本の中心の一つとしての地位を確立したと実感される。

 各症例の最後は藤田先生の文献考察である。これがサイエンスの最たる部分で,一般論に陥らず,先生の独自の視点を文献的にしっかりと裏付けていて白眉である。当該症例の理解に役立つだけでなく,周辺疾患とのかかわりも見事に解説されている。

 本書はジェネラリストを対象としたのではなく,呼吸器疾患を専門とする医師を対象として書かれている。専門医でも診断の勘所(アート)が再確認できるだけでなく,疾患の知識(サイエンス)も整理でき,さらに精選された文献に簡単にたどり着くので後進の指導にも便利である。若い先生方にもこのアートとサイエンスの見事な融合にぜひ触れていただきたい。

 本書で驚いたのは,素晴らしい内容と装丁,ブックデザインだけでなく,価格である。この内容と造本で4800円と格安で,本書にかける著者と出版社の期待と意気込みを感じた。

B5・頁288 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02099-2


外科医のためのエビデンス

安達 洋祐 著

《評 者》北川 雄光(慶大教授・一般・消化器外科)

素朴な疑問を解きほぐすドクターAの温かなまなざし

 本書は,医学書院から刊行されている『臨床外科』誌に連載された「ドクターAのミニレクチャー」を書籍化したものである。私は,ドクターA,すなわち経験豊富な外科医であり情熱的な教育者でもある安達洋祐氏本人,およびその著作の大ファンであり,この連載も必ず書籍化されるものと待ちわびていた。

 彼の著書は,いつも現場から生まれてくる基本的な課題に,肩に力を入れず淡々とアプローチするところから始まる。その視線は常に若手医師,レジデントの視線であり,スタートラインは常に「素朴な疑問」である。本書は,誰でも抱いたことがあり,そして明確に答えることができない「疑問」に関して,エビデンスに基づいてひもといていく形式が採られている。

 まず,その魅力は全ての項目が「素朴な疑問」に対する,基本事項,医学的証拠,補足事項,筆者の意見,疑問の解決という共通の構成で完璧に整理されていることである。ごく自然に,既知事項,理論展開,その根拠,現時点におけるコンセンサスが理解できる。そして,その医学的根拠は1000以上にも及ぶ膨大な文献の読み込みから生まれてくる「至極のエッセンス」に裏付けられている。まさに圧巻である。

 一方,「筆者の意見」は決してメタ解析の解釈に関する科学的「意見」ではなく,著者の外科医としての随想,哲学が語られており,最も読み応えのあるパートである。「吻合不全を平気で器械や患者のせいにする外科医はメス...

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