医学界新聞

2015.07.13



Medical Library 書評・新刊案内


みるトレ 神経疾患

岩崎 靖 著

《評 者》徳田 安春(地域医療機能推進機構(JCHO)本部顧問)

神経疾患の視覚的ポイントを豊富な実写真とともにケースベースで提示

ケースベースで神経所見の視覚的ポイントを示す
 書籍シリーズ『みるトレ』の神経版。MRI時代に突入した近年において,やはり神経疾患ほど病歴と診察が重要な診療科は少ない。神経診察法の書籍が多く出ている中で,ケースベースで視覚的ポイントを豊富な実写真とともに提示したのが本書である。代表的な疾患のケースでは,典型的な病歴と診察所見とともに,キーとなる高画質の画像が提示されている。画像は,患者の写真に加え,画像所見のみならず,神経病理画像も含まれており,最終診断としての病理検査所見の重要性も理解できるようになっている。

 それぞれの重要問題ケースには,問題とその選択肢が並んでいるので,鑑別診断のトレーニングにもなる。学習者の立場に立った配慮がなされている。本書は「問診表のウラを読む」からスタート。患者と出会う前にすでに診断推論が始まっている。ここでは,パーキンソン病の小字症など,実際に問診表に記載された筆跡を提示し分析してくれており,ウラの読み方の具体例が提示されているのはユニークだ。読者が今日から即使える技となるであろう。本書の中には,「診察室」というコーナーがあり,著者がお考えになる「理想の診察室」などが紹介されているのも面白い。

鑑別診断を進める際のポイントがわかる
 姿勢や顔貌編での写真は特にお勧めである。パーキンソン病における斜め徴候(Pisa徴候)や半坐位徴候。筋萎縮性側索硬化症や筋ジストロフィーの「首下がり」。また,仮面様顔貌(masked face)や膏顔(oily face),斧状顔貌(hatched face)のみならず,筋病性顔貌(myopathic face)やWilson顔貌などの貴重な写真を「みてトレーニング」することができる。歩行や話し方の異常では,具体的な観察法や問診での具体的な質問法と異常な返答例が記載されているので,日常診療で活用しやすい。各論では,症候別のスタイルとなっており,ベッドサイドでの利用価値も高くなっている。しびれやめまい,物忘れなど,コモンな症状へのアプローチが系統的に記述されているので,鑑別診断を進める上で大変参考になる。「鑑別のポイント」で臨床上最も重要なことがわかるようになっている。

クリニカル・パールと呼ぶべき数々のエピソード
 各章の最後のまとめは,著者が実際に経験したケースのエピソード集から成り,これがまた興味深く,読み取れるパールも多い。「急に立ち上がった時や歩き始める時に,右手足がこわばって動けなくなる」という問診表のみで,“X1”と診断し,その後カルバマゼピンで軽快したケース。「顔面の片側のみひげがそりにくくなった」ということで“X2”症候群を診断した例。気管支炎後の脱力で当初は廃用症候群が疑われたが四肢の腱反射が消失し“X3”症候群と診断したケース。一方で,頻回受診で「物忘れ」を訴えるも客観的には異常がない人で後に“X4”症候群とわかったケース。さて,これらのケースの回答“X1-4”が知りたい方は今すぐこの本を注文したい衝動を感じただろう。その衝動に従うことを評者はお勧めする。

B5・頁188 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02132-6


標準組織学総論 第5版

藤田 尚男,藤田 恒夫 原著
岩永 敏彦 改訂

《評 者》年森 清隆(千葉大未来医療教育研究センター特任教授)

よりわかりやすく再構成され,現代の医学生にふさわしい趣向を凝らした一冊

 『標準組織学総論第5版』が,2002年第4版から13年を経て改訂された。少し長くかかった感もあるがその間,残念なことに原著者の藤田恒夫先生と藤田尚男先生が相次いで他界された。そのため,第5版の改訂は岩永敏彦先生に託された。両先生の意向を十分に聞く時間を持てない中での改訂であり,そのご苦労は察して余りある。しかし,うれしいことに,改訂版では原著者らのご意向が受け継がれており,さらにこの間に蓄積された情報が随所に取り入れられ,現代の医学生にふさわしい趣向を凝らした本になっている。

 まず気付くことは,扉にFUJITA,FUJITA’s Textbook of Histology Part Iの英語表記があること,ソフトカバーに変更されたこと,そして総ページ数はほとんど同じでありながら約890 gになり,約370 gも軽くなっていることである。すごい。全体もよりわかりやすく再構成されている。例えば,これまで最初にあった組織学研究法が,最後に付録としてまとめられている。研究法は学習する上で必要不可欠であるが,実際に講義をしていると十分な時間を費やすことができない部分であり,また進歩が急であり,多彩な部分でもある。自習の項目として最後にまとめることは有効である。

 注目すべき点は,まず,組織学の基本である“細胞”が最初に解説され,次に4大組織(上皮組織,結合組織,筋組織そして神経組織)の随所に,進展した知見が加えられている点である。その一方,維持されているのは,基本となる真の組織細胞像に迫る美しい電顕像と光顕像である。これは原著者らの初版からの基本姿勢であり,本書の特徴である。

 さらに,北海道大学に在学中の医学生によって作成された,わかりやすい解説図画が随所に挿入されている。これらの図画から,次世代を担う若い学生さんが組織学を理解していく過程を想像できる。私自身の経験からも,理解力のある素晴らしい実習スケッチを描く多数の学生がいた。この本を手にする学生諸君は組織学を学ぶ自らの成長する姿を予測し,親しみも覚えるであろう。学習意欲も高まるのではないだろうか。改訂された第5版が,これまで以上にヒト/生物を理解するために親しまれていくことであろう。

 本書では,国内の優れた形態学者により蓄積された優れた画像や参考文献が採用されている。この基本姿勢は標準組織学総論と各論に一貫した理念である。このような本が日本から出版されることは誇れることであり,いつまでもこのように知識が世界中に継承されていってほしい。

B5・頁344 定価:本体8,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01531-8


「型」が身につくカルテの書き方

佐藤 健太 著

《評 者》長谷川 仁志(秋田大大学院教授・医学教育学)

医療行動科学を包括した画期的なカルテ記載テキスト

 医学教育の国際認証時代に入り,基礎医学・臨床医学および医療行動科学が十分に統合された医学生への教育の提供と,それによる基本的診療能力のパフォーマンスレベルでの質保証が必須となってきた。診療参加型実習(クリニカル・クラークシップ)の充実が強く求められている日本で,しっかりと熟考されたカルテ記載能力の修得は,まさに医学教育の集大成となる目標の一つである。しかし,現時点で,カルテ記載教育は必ずしも充実しておらず,学生・研修医と各科指導医の双方における日本の課題となっている。私は,1年次からカルテ記載について学習することが,基礎医学,臨床医学および医療行動科学を十分に統合して学ぶべき医学生の目標設定となり,医学学習のモチベーションにつながると考えた。そして,数年前から担当している1年次通年の医療面接・臨床推論学習に,模擬患者による医療面接OSCEとともに,カルテ記載を取り入れてきた経緯もあり,本テキストを楽しみに読ませていただいた。

 本書は前半で,カルテ記載の「基本の型」として,あらゆる診療科の基本となるべきSOAP(S:Subjective data,O:Objective data,A:Assessment,P:Plan)に沿った詳細なポイントを,良い例,悪い例を比較して提示しながら解説している。特に,「S・O以上に書くべき内容や記載形式が曖昧で,医師によって書き方の違いが大きい」とされ,書き方や指導に悩む医師が多いAについても,実際の場面やS・Oと関連付けて説明する工夫により,わかりやすく記載されている。後半では,「応用の型」として,実際の臨床現場における「入院時記録」から「経過記録」「退院時要約」「初診外来」「継続外来」までのみならず,「訪問診療」「救急外来」「集中治療」にわたる各セッティング場面におけるカルテ記載のポイントを説明している。その際,初めのところで「診察・カルテ記載に使える時間」「事前情報・問題リストの量」「患者の重症度」「患者の関心」「他職種の関心」などの医療行動科学の重要な視点から成る「各セッティングの特徴一覧」を表で記載し,その後の各セッティングのページで,それぞれの詳細を実際のカルテ例,図表,Q & A,まとめ,column等を豊富に使って解説している。さらに,最後の「おまけの型」では,「病棟患者管理シート」「診療情報提供書」にまで言及している。

 全般を通して,著者の日々の臨床経験や指導医としての経験から,ポイントや疑問点を中心にコンパクトにしっかりと解説されており,熱意が十分伝わってくるテキストであると感じた。特に,その内容の多くが,カルテ記載や指導に悩む医師への基本的なポイント指導のみならず,上記の各セッティング場面ごとに,常に患者・家族や医療者(チーム)の意識を十分考慮した目線での記載ポイントを細やかに解説していることに非常に感銘を受けた。すなわち,初めに述べたように基礎や臨床医学の能力のみならず,日本でようやく重要視されてきた医療行動科学の教育にも通じる内容が十分にちりばめられている画期的なテキストといえる。あらゆる場面で医療行動科学を意識して学習・教育すべき医学生,研修医,若手からベテランの指導医まで,カルテ記載およびその教育に携わる全ての医師がぜひ一読する価値の高いものと感じた。また,私自身,今後,本テキストを研修医や各科指導医に推奨するとともに,前述の1年次の学習から学年横断的に使っていきたいと考えている。

B5・頁140 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02106-7

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