心房細動診療のリアル・ワールド(小川尚,赤尾昌治)
寄稿
2015.07.06
【寄稿】
心房細動診療のリアル・ワールド伏見AFレジストリーの最新知見から
小川 尚(国立病院機構京都医療センター循環器内科 不整脈チーフ)
赤尾 昌治(国立病院機構京都医療センター循環器内科 部長)
心房細動(AF)は高齢者に多く見られる不整脈疾患である。年齢とともに有病率は増加し,日本循環器学会の疫学調査1)では,有病率が70歳代で男性3.4%,女性1.1%,80歳以上では男性4.4%,女性2.2%。日本の人口に当てはめると,わが国におけるAFの有病率は約0.6%と推定されている。近年では高齢社会への変遷とともに,AF患者数も増加傾向にあり,将来の人口予測を用いて計算すると,2050年にはAF患者は約103万人で,総人口の約1.1%を占めると予測されている。
本稿では,われわれが行っている伏見心房細動患者登録研究(伏見AFレジストリー)2)のデータを紹介し,実臨床の現場(リアル・ワールド)におけるAF診療の現状を概説する。
伏見区内AF患者の全例登録をめざした前向き観察研究
伏見AFレジストリーは,京都市伏見区において2011年3月に登録を開始したAF患者の前向き観察研究で,登録基準は心電図にてAFが記録されていることのみ。伏見医師会所属の区内医療機関に通院しているAF患者を可能な限り全例登録し,患者背景や治療調査,予後追跡を行う研究である。
伏見区は2010年の人口統計にて人口28万4085人とされ,京都市内最大の行政区であり,登録患者総数は2014年7月現在4115例。伏見区の人口で単純に登録患者を除して計算すると,有病率は1.4%(男性1.7%,女性1.1%)となり,年齢別では70歳代で6.0%(男性7.1%,女性3.4%),80歳以上で7.6%(男性10.5%,女性6.4%)にAFが見られたことになる。登録基準に住民票が伏見区であることは問うていないため,伏見区外の住民も含まれており,あくまで参考値であるが,この有病率は前述の日本循環器学会の疫学調査を大きく上回っていた。
従来のわが国のデータは,健診を受診しその際の心電図検査でAFが指摘された人数で有病率を推算しているため,発作性AFなど実際の患者数より少なく推算されてしまう。伏見AFレジストリーはそれらの患者も含むため既報より患者数が多くなる。ただし頻度がまれで発作が短い発作性AF患者などはわれわれのデータでは含まれないので,「真の」AF患者数はさらに多い可能性が十分にある。
高齢,低体重。血圧管理は良好なものの併存症は多い傾向
登録患者の患者背景について述べる。平均年齢は73.7歳で,60歳以上が91.5%と大半を占め,80歳以上は30.9%と高齢者が多数を占めていた。AFのタイプは発作性AF 48.1%,持続性AF 7.8%,慢性AF 44.1%と,発作性がほぼ半数であった。平均体重は59.1 kgで,50 kg未満の低体重患者が26.7%を占めている。さらに,平均BMIは23であった。欧米のAF患者を対象とした大規模臨床試験や登録研究では平均年齢70歳前後,体重80 kg以上,BMI 27以上を示しており,本邦のAF患者の特徴として圧倒的に高齢で極めて低体重であることが指摘できる。また,平均収縮期血圧は125 mmHgで,欧米のデータがおおむね130 mmHgであることと比較すると,血圧のコントロールが非常に良好であることも特徴的である。
伏見AFレジストリーの登録患者の併存症は多い傾向を示しており,登録時で脳卒中・TIAの既往のある患者が20%,高血圧61%,心不全27%,糖尿病23%,冠動脈疾患15%,末梢動脈疾患4%,慢性腎臓病35%であった。CHADS2スコアの平均値は2.03であり,リスク層別分布としては低リス...
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