MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2015.03.16
Medical Library 書評・新刊案内
吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
薄井 紀夫,後藤 浩 編
《評 者》清澤 源弘(清澤眼科医院院長)
臨床で大いに助けになる実践的な診療マニュアル
『眼感染症診療マニュアル』という本がこのたび上梓されました。内容は440ページと読み応えのある厚さのある本に仕上がっています。編集は薄井紀夫先生と後藤浩先生の東京医科大学の同門のお二人です。
実際に本を手にしてみますと,眼感染症をテーマに診療に取り組んでおられる先生方41人のお名前が執筆者として記載されています。ひょっとしたら眼感染症の専門家のお名前は全て使われてしまっており,感染症には専門外の私などの所に書評のお鉢が回ってきたのかもしれません。
まず編集者の薄井先生は総説として眼感染症の診療概論を述べています。その記載が重要です。医療スタッフを介した二次感染を防ぐには「標準予防策」が必要で,とりわけ擦式アルコール製剤を用いた手指衛生の正しい習慣化が義務であるといっています。確かにそうでしょう。また,眼科における3つの重要な事象として,流行性角結膜炎の院内感染,術前滅菌法,ポビドンヨードの術中点眼法を挙げています。昔は,入院患者に流行性角結膜炎が出た場合,病棟閉鎖という最終的な手が使えたのですが,現在では病棟のベッドが他科と共用になっていますから,病棟閉鎖という手も使いにくくなっていると思います。
また,この総説では白内障などの眼内手術に対して術前の抗菌薬の無前提な使用よりもイソジン液を希釈した0.25%ポビドンヨード液の術中点眼を推奨しています。このところ私は内眼手術からは離れてしまっていますが,今の世の基本は抗菌薬の増量ではなく,このヨード剤の術中点眼に変わっていると理解しています。今後,硝子体内注射を外来で行うような部分に手を広げる場合には,その知識が使えそうです。
さらに,診断の原則として,そのゴールは病因微生物の同定であるとしています。そしてまずは感染症を疑うことが大切で,漫然と様子を見てはいけないと述べられています。アカントアメーバ感染症を角膜ヘルペスと誤る,真菌性角膜炎を細菌感染と誤る,クラミジア結膜炎をアデノウイルス感染と誤るなどは確かに起こしやすい誤診の例でしょう。そこでこの総説では診断時に病因微生物を想定し,微生物名を冠した推定診断をまず行ってみることを薦めています。確かに,なんだかわからぬがクラビット®点眼を処方というのと,そこまで考えて処方を決め,またその薬剤への反応と分離された株を突き合わせる癖をつけることで,明日からの診断力には格段に差がつくことでしょう。この総説の最後に著者は身の程として,己の丈,己の限界,己のなすべきことを考えよとしています。いささか哲学的ではありますが,聞いてみるべき言葉でしょう。
さて,この本全体を見回してみれば,それなりに今風に多くのカラー図版を加えた構成になっています。それは実際に患者さんを前にして調べるには大変な助けになります。第2章からの疾患各論は涙器,結膜,角膜,ぶどう膜,眼内炎,術後感染症などに細分されており,各疾患項目は10ページほどです。ですから,診療マニュアルというその名の通りに,あるいは重篤な患者さんを入院させてから急いで開いて読んでも十分に間に合う量の記述であると思います。
表紙はおとなしいムック様の本ですが,内容は具体的で,軽い本ではなさそうです。わからない感染症例が来たら,まずこの本に頼ろうと心を定めて,机の上にそっと用意しておくのには格好の本だと思います。
B5・頁440 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02019-0
坂井 建雄 監訳
市村 浩一郎,澤井 直 訳
《評 者》八木沼 洋行(福島県立医大教授・神経解剖・発生学)
解剖学アトラスの理想的な形に近づく改訂
『プロメテウス解剖学 コア アトラス』は,大変美しく精緻でリアリティーのある図に加え,関連する知識の修得や整理に役立つ図表や臨床的観点からの解説も付いていること,さらにこれだけの分量にもかかわらず1万円を切る定価(税別)設定もあって,2010年に出版されるや,医・歯学部学生の解剖実習の友としてはもとより,医師,医療職,医療系学生など解剖学を学び,基礎とするあらゆる分野における定番のアトラスとしての地位を確立しつつある。
このような中,このアトラスの第2版が出版された。第2版では,大きな改訂として,初版では腹部と骨盤部が一つの章の中に混在していたものをおのおの独立した章として整理拡充が図られている。また,体表解剖が各章のはじめに置かれた。さらに,全体として数多くの横断図や縦断図などが加えられている。これらの改訂はいずれも学習者の使い勝手を向上させるものであるが,何より,このコアアトラスが解剖学アトラスとしての理想的な形に近づいたことを意味している。
解剖学アトラスに求められるものは,図が精緻で正確であることはもちろん,相互の位置関係の理解が難しい重要部位の構造が一目でわかるように工夫された構図やアングルあるいは断面で描かれた図の存在であると評者は常日頃思っている。位置関係を学生に理解してもらおうと,いろいろ図を探しているとき,まさに「かゆいところに手が届く」一枚の図に出合うと,「このアトラスなかなかやるな」と評者は心の中で思わずつぶやいてしまう。この意味でコアアトラスの初版には正直言って「改善の余地あり」と思っていた。しかし,第2版を見て,この考えは改めなければならないと感じている。例えば,産婦人科領域で,子宮全摘術を行う際に,尿管を傷つけないようにするために子宮動脈と尿管との位置関係(子宮動脈の後ろを尿管が通る)を理解しておくことが大変重要となる。第2版には,子宮頚部レベルで子宮を切断し体部を取り去った図(図18.19)が加えられた。これを見れば,両者の関係,さらに子宮頚部につく基靭帯との関係が一目瞭然に理解される。この他,今回加えられた骨盤部,腹部,頭部のさまざまな方向で切られた断面図は,諸構造の立体的な配置の理解に大いに役立つものと思う。
以上のように,今回の改訂で進歩を遂げたプロメテウス解剖学コアアトラスは,評者にとって理想に近い解剖学アトラスとして,自信を持ってお薦めできる一冊となった。
A4変型・頁728 定価:本体9,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01932-3
吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
前田 直之,天野 史郎 編
《評 者》所 敬(東京医歯大名誉教授)
要点が網羅された手元に置いておきたい一冊
一昔前の屈折異常矯正法は眼鏡とコンタクトレンズであったが,近年,屈折矯正手術やオルソケラトロジーが加わり選択の範囲が広くなった。このうち,屈折矯正手術の進歩は著しく,初期の角膜前面放射状切開術は影をひそめて,エキシマレーザーを使用したLASIKが主流になってきている。さらに,この術式はフェムト秒レーザーを使用したり,老視手術にも使われたりしている。以前には強度近視の矯正は分厚い眼鏡レンズやコンタクトレンズで矯正されたが,十分に視力を出すことができなかった。しかし,有水晶体眼内レンズで良好な矯正視力を出すことができるようになった。さらに,白内障手術後に挿入する眼内レンズの度数によって,屈折度を自由に決めることが可能になった。このように屈折異常矯正法のオプションが増えてきたことは,屈折異常者への福音である。しかし,その進歩は著しくその詳細を知ることは困難を極める。
本書は8章からなる。第1章は屈折矯正手術の現状を知るためにぜひとも読んでいただきたい章である。第2章は現在使用されている角膜屈折矯正手術の詳細が記載されている。第3章と第4章は眼内レンズによる屈折矯正手術であるが,第3章では強度近視などに行う有水晶体眼内レンズ,第4章は白内障手術後に使用する特殊レンズであるトーリック眼内レンズや多焦点眼内レンズの適応などについて記載されている。第5章は屈折矯正手術後の白内障手術前の眼内レンズの度数の決め方と屈折矯正手術後の眼鏡とコンタクトレンズの処方法の記載があるが,後者は通常の処方と違うので大いに役立つ。第6章は,もう一つの屈折矯正法としてのオルソケラトロジーについてで,この方法は近視進行防止に役立つとの報告もあり注目されている。また,この章では近視進行予防としての眼鏡やコンタクトレンズ処方についても記載されている。第7章では屈折矯正手術と違い,老視の眼鏡やコンタクトレンズによる矯正,また白内障手術後のモノビジョン法の記載がある。第8章では眼鏡・コンタクトレンズ矯正の不満とその解決法があり,この章は日常臨床で困ったときにひもとくとよい。
どの章も図表を用いてわかりやすく要点が示されている。執筆者は多数の屈折矯正手術を経験された方々,また,眼鏡,コンタクトレンズの処方に精通された方々で,題名のごとく「知っておきたい」要点が網羅されている。
本書は屈折矯正手術を軸としてその周辺領域をとらえた書であり,また,各章も独立して必要なときに必要な個所を読むのにも適した書である。
B5・頁432 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02037-4
耳科手術のための
中耳・側頭骨3D解剖マニュアル
[DVD-ROM付]
伊藤 壽一 監修
高木 明,平海 晴一 編
《評 者》村上 信五(名市大大学院教授・耳鼻咽喉・頭頸部外科学)
解剖の知識と手術の実践を兼ね備えた若手医師必携書
耳科手術を学び上達するには何が必要か。それは側頭骨解剖の知識と画像の診断能力,そして手術のイメージトレーニングと実践である。すなわち,まずはCTやMRI画像から病巣を読影し,側頭骨解剖と融合させ,手術のイメージトレーニングができるようになることである。
このたび,医学書院から『耳科手術のための中耳・側頭骨3D解剖マニュアル[DVD-ROM付]』が刊行されたが,本書はまさにそれを可能にする書である。耳科手術のための側頭骨解剖書や手術書は数多く出版されているが,その多くはイラストや死体解剖あるいは手術写真で網羅的に解説されているため,解剖と実際の手術視野が一致しておらず,手術がイメージできないことが少なくない。耳科手術に必要なのは,いわゆる「surgical anatomy」で,手術のための実践的な側頭骨解剖である。本書の特徴は,(1)耳科手術に必要な最小限の側頭骨解剖と用語解説,(2)基本的な側頭骨CTの読影,(3)手術機器・器具の紹介と使用方法,(4)写真とDVD動画による死体側頭骨の手術解剖,(5)写真とDVD動画による手術の実際を有機的に秩序立てて解説している点である。また,手術は基本的な鼓室形成術から,人工内耳植え込み術,顔面神経減荷術と移行術,錐体部病変へのアプローチ,内リンパ嚢開放,聴神経腫瘍手術など,ほとんどの中耳手術と側頭骨手術が網羅されている。そして,中耳手術の解剖では,実際の手術では剖出しない深部の内耳や顔面神経が描出されている。これは著者のメッセージでもある「内耳を知って中耳手術の限界を知る」を実践させるための方策で,長年にわたり中耳・側頭骨手術に携わってきた著者ならではの画期的なアイデアである。
2012年に日本解剖学会と日本外科学会から「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」が公表されたのを受け,評者の施設でも死体を活用したsurgical trainingのワーキンググループが結成されている。今後,多くの施設で死体側頭骨を活用した手術教育が始まることが期待される中,本書の発刊はタイムリーで,これから中耳・側頭骨手術を学ぼうとしている若手医師にとって,本書はまさに解剖の知識と手術の実践を兼ね備えたバイブルになると確信する。
A4・頁176 定価:本体14,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02036-7
福永 篤志 著
稲葉 一人 法律監修
《評 者》古川 俊治(参議院議員/慶大法科大学院教授/慶大教授・外科学)
臨床家に読んでほしい難解な法的議論を平易にまとめた学術書
全国の第一審裁判所に提起される医療過誤訴訟の数をみると,1990年代から2004年にかけて急増し,その後は,同程度の数にとどまっている。しかし,訴訟には至らないかなりの割合の医事紛争が,当事者間の示談や各地の医師会などの機構を通じて,裁判外で解決処理されているため,実際に医事紛争数が減少しているのかどうかは明らかではない。1990年代からの医事紛争増加の理由として,医師数が増加して医療供給が量的に確保されたことによる患者数の増加,新薬・新技術の開発に伴う副作用や合併症の増加なども挙げられるが,第一の理由は医療に関する一般的知識が国民に普及し,患者の人権意識が高揚したことにある。このような患者の権利意識の伸張を背景に,近年の裁判所の考え方には大きな変化がみられ,近年の裁判例では,医療機関に要求される診療上の注意義務は厳しいものとなっている。
それ以上に,仮に勝訴するにしても,患者からクレームを受けたり訴訟を提起されたりして,その対応に追われることは,病院・医療従事者にとって大きな時間的・精神的負担となる。何よりも,医事紛争を未然に防ぐ対策が,極めて重要である。医療事故や医事紛争は,それぞれの医療機関において,同じような原因で発生することが多い。したがって,過去の事例に学び,その原因を分析し,自院の医療事故や医事紛争の予防に役立てる取り組みが重要である。また,医事紛争は,医療従事者に法的意味での過失があり,その結果,あしき結果が実際に患者に発生した場合にだけ起こるわけではない。医療従事者が法律知識を欠いているために,対応や説明を誤り,患者側の不信感を強めているという場合も多い。したがって医療従事者は,広く病院・臨床業務に関する基本的な法律知識を学び,医療事故や医事紛争に対する適切な対応を習熟しておくことが必要である。このことは,医療機関の管理者だけではなく,実際に患者に接することになる,第一線で活躍する医療従事者にこそ望まれる。
本書の著者である福永篤志先生は,外科領域の臨床医を続けながら法学を学んだ点で,数少ない同志である。近年は,法曹養成制度の変化もあり,医師免許を持つ法律家は大幅に増えたが,その多くは臨床経験が浅く,病院業務や臨床実践に関する細かな知識や経験が十分ではない。そのため,医療事故が発生した際の事後の法律上の問題については議論ができても,今日の高度で複雑な病院業務の過程で発生する複雑な紛争をいかに防止していくかについての視点が欠けている。本書は,長い経験を有する現役の臨床医であり,こうした病院業務の実態を熟知する福永先生ならではの,臨床家にとって,極めて有用な情報を提供してくれる学術書である。医療従事者にとっては難解な法的議論が極めて平易にまとめられており,医療従事者にとっての理解のしやすさでは類書をみない。一人でも多くの医療従事者が本書に学び,医事紛争に煩わされることなく,円滑な臨床業務に活躍していただきたいと思う。
B6・頁344 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02011-4
野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集
野村 総一郎 編
《評 者》田中 克俊(北里大教授・産業精神保健学)
うつ病診療の混乱を整理するために読んでおきたい一冊
私がフレッシュマンとして入局して間もないころ,教授から「うつ病の中核は抑うつ症状であり,抑うつ症状の中核は抑うつ気分である」と教えられた。ところが,その数日後に行われた教授回診時のやりとりの中で,同僚のフレッシュマンが,「憂うつですか? と伺ったら,患者さんが『はい』と答えられたので抑うつ症状があると判断しました」と答えたところ「そんなのは問診じゃない!」とひどく叱られてしまった。それを見ていた私たちフレッシュマンは「そんなにまずいこと?」とあたふた……。
後日,教授は,問診は患者さんの言葉を拾いながら行うべきであること,何十という気分や感情の表現方法があるように症状もそれぞれ違うのだから,こちらが勝手に決めつけてはいけないこと,そして,抑うつ気分があれば抑うつ症状で,抑うつ症状があるならうつ病だろうという単純な推論は絶対に避けるべきであることなどを話された。
演繹的推論だけではなく帰納法的推論も必要とされる精神科診断においては,可能な限り確かな問診と観察に基づく論理的な思考が求められる。確かに,抑うつ気分→抑うつ症状→うつ病という診断の流れは,とても自然な感じがして違和感がないが,前提となる精神症状に関する科学的知見の集積はいまだ十分ではない。一方,客観的なデータの解析ではなく,問診・観察という手段を使う精神科診断においては,自然と数々のバイアスが入り込むことも多い。最初の段階で,うつ病かな?と思ったら,たいていの症状は抑うつ症状に思えてしまうのもよくあることである。気分に関しても,だいたい精神科の外来にいらっしゃる方の中で憂うつな気分でない人を探すほうが難しいだろう。われわれは,自然な流れに任せていると,多くの患者さん(患者さん扱いすべきでない人も含めて)を簡単にうつ病にしてしまう可能性がある。
本書は,“抑うつ”を呈する患者さんを可能な限り正確に観察し問診し,そして最新の知見を基に可能な限り理論的に診断に結び付けるための道筋を,余すところなく教えてくれる本である。特に,アパシーや陰性症状,自閉,ストレス反応など抑うつと類似した概念との鑑別についての説明は秀逸である。また,うつ病以外のさまざまな精神疾患にみられる抑うつの鑑別や治療のポイントについての説明も非常に丁寧で,中でも各章に記載されている「特に鑑別が難しいケースとその対応」は,具体的な事例を取り上げながらマニュアルとは違う実践的な診立ての方法について多くの視点を示してくれる。
うつ病診療の混乱が叫ばれてから久しい。この混乱を整理するためにもぜひ読んでおきたい一冊である。
B5・頁244 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01970-5
坂井 建雄,大谷 修 監訳
《評 者》佐藤 二美(東邦大教授・解剖学)
解剖学の理解への火を与える書
本書は好評を博したプロメテウスシリーズの改訂版であり,これにより3巻シリーズ第2版の改訂が完結した。初版にあった「頸部」が第3巻に移動したため,本書は「胸部/腹部・骨盤部」となり,より臨床的に重要な部分を扱うようになった。
本シリーズの特徴である,美しい図を中心に見開きで一つのテーマが完結する構成になっている点,臨床医学とのつながりを意識した説明が随所に取り入れられている点などは初版と変わらないが,改訂により学習者のために心にくいばかりの気配りの利いた構成となった。
まず第1章に「器官系の構造と発生の概観」が追加された。解剖学で構造を見る際には,その構造がどのようにしてできてきたかという発生段階の知識の有無で理解の深さが大きく変わる。例えば,腸管の発生過程を理解すれば,消化器官と関連構造物との位置関係,腹膜や腹膜腔の成り立ち,回転異常による腸管の位置異常など,全てが有機的なつながりをもって理解できるようになる。
次章から「胸部」「腹部・骨盤部」という部位別の記載がなされているが,見事なまでに系統解剖学的な視点と局所解剖学的な視点を融合させる工夫がなされている。部位ごとに全体を概観し,血管・リンパ管と神経の分布について述べた後に,それぞれの主な器官系として「循環器系」「呼吸器系」「消化器系」「泌尿器系」「生殖器系」の理解を促す内容が続き,それぞれに対して,先に述べた血管などと合わせて詳述し,器官系とのつながりを明解に示している。極め付きは各章の最後に「局所解剖」としてさらにそれらの関連性を簡潔に記載している点にある。特に初学者は一つひとつの器官系の理解はできても,なかなかそれら全体が3次元的にどう配置され,どのようなつながりをもつか理解しづらい面が多い。実際私も学生時代には,各器官系については頭で理解できていても,いざ実習となると,それらの器官系の有機的なつながりが理解できず,戸惑った覚えがある。
最後に,最終章に全ての臓器や脈管・神経の概略図と臓器の要約が書かれており,これは特に試験前の学生にはもってこいの学習教材である。学生のみならず医師にとっても参照するのにちょうど良い。教員側から言えば,「○○について解説せよ」というような問題に,本書の概略図のように単語と矢印だけ並べた答案を書かれると,「矢印の意味が不明,答えになってない。日本語できちんと説明するように」という理由で合格点を出すことはできないのであるが,今回,新たに表になった臓器の要約部分が増えたので,この点も解消された。
ギリシア神話では,プロメテウスは人類に火を与え,人間が神と同じことをするようになったとゼウスの怒りを買った。このプロメテウスシリーズによって学生に解剖学の理解への火が与えられ,学生が教員と同じ知識レベルを共有できるようになれば,怒りを買うどころか教員にとっては最高の喜びである。
A4変型・頁488 定価:本体11,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01411-3
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