眼感染症診療マニュアル

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眼科診療のエキスパートを目指すための好評シリーズの1冊。臨床の場における実践的な利便性を追求した、眼感染症の最新診療マニュアル。鑑別の具体的指針、病原微生物の同定法、生体反応や続発症への対応も含めた治療の実際などをシンプルかつビジュアルに提示した。感染症の経験が少ない眼科医にとっても明日からすぐに使える、明快かつシンプルな「究極の実践書」を目指した必携書。
シリーズ 眼科臨床エキスパート
シリーズ編集 𠮷村 長久 / 後藤 浩 / 谷原 秀信 / 天野 史郎
編集 薄井 紀夫 / 後藤 浩
発行 2014年10月判型:B5頁:440
ISBN 978-4-260-02019-0
定価 18,700円 (本体17,000円+税)

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眼科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって

眼科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって
 近年,眼科学の進歩には瞠目すべきものがあり,医用工学や基礎研究の発展に伴って,新しい検査機器や手術器具,薬剤が日進月歩の勢いで開発されている.眼科医は元来それぞれの専門領域を深く究める傾向にあるが,昨今の専門分化・多様化傾向は著しく,専門外の最新知識をアップデートするのは容易なことではない.一方で,quality of vision(QOV)の観点から眼科医療に寄せられる市民の期待や要望はかつてないほどの高まりをみせており,眼科医の総合的な臨床技能には高い水準が求められている.最善の診療を行うためには常に知識や技能をブラッシュアップし続けることが必要であり,巷間に溢れる情報の中から信頼に足る知識を効率的に得るツールが常に求められている.
 このような現状を踏まえ,我々は≪眼科臨床エキスパート≫という新シリーズを企画・刊行することになった.このシリーズの編集方針は,現在眼科診療の現場で知識・情報の更新が必要とされているテーマについて,その道のエキスパートが自らの経験・哲学とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」をわかりやすく解説し,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍を目指すというものである.もちろんエビデンスは重要であるが,本シリーズで目指すのは,エビデンスを踏まえたエキスパートならではの臨床の知恵である.臨床家の多くが感じる日常診療の悩み・疑問へのヒントや,教科書やガイドラインには書ききれない現場でのノウハウがわかりやすく解説され,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍シリーズを目指したい.
 各巻では,その道で超一流の診療・研究をされている先生をゲストエディターとしてお招きし,我々シリーズ編集者とともに企画編集にあたっていただいた.各巻冒頭に掲載するゲストエディターの総説は,当該テーマの「骨太な診療概論」として,エビデンスを踏まえた診療哲学を惜しみなく披露していただいている.また,企画趣旨からすると当然のことではあるが,本シリーズの執筆を担うのは第一線で活躍する“エキスパート”の先生方である.日々ご多忙ななか,快くご編集,ご執筆を引き受けていただいた先生方に御礼申し上げる次第である.
本シリーズがエキスパートを目指す眼科医,眼科医療従事者にとって何らかの指針となり,目の前の患者さんのために役立てていただければ,シリーズ編者一同,これに勝る喜びはない.

 2013年2月
 シリーズ編集 吉村長久,後藤 浩,谷原秀信,天野史郎


 “The time has come to close the book on infectious diseases.”
 1960年代の終わり,米国公衆衛生局長官ウイリアム・スチュワートは議会でこう述べた.ペニシリンを先陣に次々と抗生物質が生産され,ポリオワクチンの開発に成功し,天然痘根絶計画は達成目前であった.人類は月に向かい,医学者の興味は感染症主体の急性疾患から高血圧,糖尿病,がんなどのいわゆる成人病にシフトしていった.「感染症の教科書を閉じる時が来た」という言葉は個人の誤認ではなく,当時の時代背景ゆえの錯誤だったのかもしれない.その後も人類は感染症の恐怖に脅かされ続けている.われわれが把握している微生物は全体のまだ1%ほどにすぎない.
 眼感染症に関して,すでに数多くの優れた教科書がある.それぞれの本には最新の情報が盛り込まれ,また工夫が凝らされ,私たちに眼感染症の何たるかを紐解いてくれる.しかし,今までの教科書は,診断がついたところから手に取るには懇切丁寧だが,診断がつかない場合にはどこのページを開いていいかわからず,また,よほど感染症に興味がある読者以外はまず絶対に開かない頁も少なくなかった.学術書としてそれらの意義は否定できないが,本書では微生物学的詳細や専門的内容は他書に譲り,同時に難解さや贅肉も極限まで斬り落とし,その代わり臨床の場における実践的な利便性を追求した.「極めてシンプルに効率よく」——それは,ちょうど微生物本来の発想に近いのではないだろうか.基本的なレイアウトも,左頁に解説を,右頁には重要な図表を配置し,右頁だけを追っても眼前の疾患に当たりをつけ,診断に応じた検査や治療法を選択でき,所見の推移に従って治療やフォローができるように心掛けた.この点,この本における言霊は左頁に,しかし生命は右頁に宿っていると言える.エキスパートである各執筆者には,(1)感染症と気付くためにはどう診るか,(2)病原微生物を想定する臨床的根拠と同定方法,(3)病原微生物に対する治療,(4)生体反応への対応,(5)疾患に応じた続発症への対応,に関して明快に述べていただいた.感染症に関して経験が少ない医師にとっても,判断に迷うような微妙な言い回しや明快でない匙加減が排された優れたマニュアル書と感じてもらえるはずである.

 微生物へ対する興味は生命科学のメカニズムに向ける思索であり,それはいのちを学ぶ医学の原点である.いのちの美しさ,哀しさ,儚さ,厳しさ,そして尊さを教えてくれるのが感染症かもしれない.
 “The time has come to open the book on infectious diseases.”

 2014年8月
 編集 薄井紀夫,後藤 浩

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第1章 総説
 眼感染症の診療概論

第2章 眼瞼疾患
 I 眼瞼疾患の鑑別
 II 眼瞼疾患各論
  A ブドウ球菌性眼瞼炎
  B ウイルス性眼瞼炎(HSV/VZV)
  C 伝染性軟属腫
  D 結膜Kaposi肉腫
  E マイボーム腺炎
  F Demodex

第3章 涙器・眼窩疾患
 I 涙器・眼窩疾患の鑑別
 II 涙器・眼窩疾患各論
  A 涙小管炎
  B 涙嚢炎
  C 眼窩蜂巣炎

第4章 結膜疾患
 I 結膜疾患の鑑別
 II 結膜疾患各論
  A 細菌性結膜炎
  B クラミジア結膜炎
  C ウイルス性結膜炎
  D 猫ひっかき病
  E 結膜腫瘍

第5章 角膜疾患
 I 角膜疾患の鑑別
 II 角膜疾患各論
  A 細菌性角膜炎
  B 単純ヘルペス角膜炎
  C 水痘帯状疱疹角膜炎
  D ウイルス性角膜内皮炎
  E 真菌性角膜炎
  F コンタクトレンズ関連感染症
  G アカントアメーバ角膜炎

第6章 ぶどう膜・網脈絡膜疾患
 I ぶどう膜・網脈絡膜疾患の鑑別
 II ぶどう膜・網脈絡膜疾患各論
  A 結核性ぶどう膜炎
  B 梅毒性ぶどう膜炎
  C ヘルペス性虹彩毛様体炎
  D Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎
  E 急性網膜壊死
  F サイトメガロウイルス網膜炎
  G HTLV-1関連ぶどう膜炎
  H 眼トキソプラズマ症
  I 眼トキソカラ症

第7章 眼内炎
 I 眼内炎の鑑別
 II 眼内炎各論
  A 術後細菌性眼内炎
  B 内因性細菌性眼内炎
  C 外傷性眼内炎
  D 真菌性眼内炎

第8章 術後感染症
  A LASIK関連感染症
  B 角膜移植関連感染症
  C 濾過胞関連感染症
  D バックル感染

和文索引
欧文・数字索引

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必要情報がわかりやすく記載された実践的マニュアル
書評者: 大野 重昭 (北大大学院名誉教授・眼科学/医療法人社団愛心館愛心メモリアル病院眼科部長)
 この度,医学書院の《眼科臨床エキスパート》シリーズの一冊として,眼感染症診療のための究極の実践書である『眼感染症診療マニュアル』が発刊された。

 本書は,長年にわたり眼感染症の基礎および臨床に熱心に従事してこられた総合新川橋病院眼科部長の薄井紀夫先生,および東京医科大学眼科学分野教授の後藤浩先生が編集された眼感染症に関する新しいバイブルである。薄井先生,後藤先生は眼感染症学のリーダーとして世界的に活躍しておられるだけではなく,感染症全般に独自の深い見識をお持ちの専門家である。このお二人の下に,わが国を代表する41人の眼感染症専門家が集い,最新の眼感染症診療マニュアルを完成させた。これは第一線の眼科医だけではなく,眼科医療従事者,さらには研修医や医学生にとっても必読の貴重な書物である。

 本書は第1章が薄井先生の総説「眼感染症の診療概論」で始まるが,これは読み物として圧巻の内容である。極小生命体としての微生物の詳細な解説に始まり,眼感染症に対する診療原則をご自身の哲学を基に見事にまとめている。そして己の身の程をわきまえ,微生物との共生を謳い上げており,微生物への深い愛情すら感じられる。この後,第2章では「眼瞼疾患」,第3章では「涙器・眼窩疾患」,第4章では「結膜疾患」,第5章では「角膜疾患」,第6章では「ぶどう膜・網脈絡膜疾患」,第7章では「眼内炎」について詳記されている。そして最後の第8章では眼感染症で特に重要な「術後感染症」について記載されている。

 本書ではいずれの項目でも読者が容易に情報を得られやすいように,基本レイアウトとして左ページには解説が,そして右ページにはカラー図やシェーマ,わかりやすい表が配置されている。左ページの解説は各感染症の疾患概念,臨床所見,病原微生物の同定,病原微生物に対する治療,生体反応への対応,続発症への対応,そして予後が整然と記載されている。例えば病原微生物の同定や検査法は各診療所で行えるもの,病院中央検査部や民間の検査センターに依頼できるもの,あるいは研究目的が主で日常臨床では不適のものなどが明記され,補助検査の意義についてわかりやすく詳記されている。

 また,治療法についても最新の情報が項目ごとに簡潔に記載されており,本書はまさに眼感染症に対する実践的なマニュアル書の面目躍如である。また,右ページのカラー図は病状をよく表している典型例が満載されており,診療の合間に右ページだけを見ていても非常にためになる。この他,簡潔で理解しやすい表,フローチャート,シェーマなども複雑な眼感染症の理解を深め,頭を整理する上で大きな助けとなる。

 お二人の編集者が序言で書かれているように,人類は現在も,そして未来も感染症の恐怖に脅かされ続けることは確かである。AIDS,SARS,鳥インフルエンザ,デング熱,エボラ出血熱,そして次は何が人類に押し寄せてくるのであろうか。しかし,日本では2014年度から高齢者を対象とした肺炎球菌ワクチンが定期接種となるなど,病原微生物との闘いは着実に前進している。われわれ眼科医も「古くて新しい病気」である眼感染症の診療で決してひるむことなく,今回の名著である『眼感染症診療マニュアル』を最大限に活用していきたい。
臨床で大いに助けになる実践的な診療マニュアル
書評者: 清澤 源弘 (清澤眼科医院理事長)
 『眼感染症診療マニュアル』という本がこのたび上梓されました。内容は440ページと読み応えのある厚さのある本に仕上がっています。編集は薄井紀夫先生と後藤浩先生の東京医科大学の同門のお二人です。

 実際に本を手にしてみますと,眼感染症をテーマに診療に取り組んでおられる先生方41人のお名前が執筆者として記載されています。ひょっとしたら眼感染症の専門家のお名前は全て使われてしまっており,感染症には専門外の私などの所に書評のお鉢が回ってきたのかもしれません。

 まず編集者の薄井先生は総説として眼感染症の診療概論を述べています。その記載が重要です。医療スタッフを介した二次感染を防ぐには「標準予防策」が必要で,とりわけ擦式アルコール製剤を用いた手指衛生の正しい習慣化が義務であるといっています。確かにそうでしょう。また,眼科における3つの重要な事象として,流行性角結膜炎の院内感染,術前滅菌法,ポビドンヨードの術中点眼法をあげています。昔は,入院患者に流行性角結膜炎が出た場合,病棟閉鎖という最終的な手が使えたのですが,現在では病棟のベッドが他科と共用になっていますから,病棟閉鎖という手も使いにくくなっていると思います。

 また,この総説では白内障などの眼内手術に対して術前の抗菌薬の無前提な使用よりもイソジン液を希釈した0.25%ポビドンヨード液の術中点眼を推奨しています。このところ私は内眼手術からは離れてしまっていますが,今の世の基本は抗菌薬の増量ではなく,このヨード剤の術中点眼に変わっていると理解しています。今後,硝子体内注射を外来で行うような部分に手を広げる場合には,その知識が使えそうです。

 さらに,診断の原則として,そのゴールは病因微生物の同定であるとしています。そしてまずは感染症を疑うことが大切で,漫然と様子を見てはいけないと述べられています。アカントアメーバ感染症を角膜ヘルペスと誤る,真菌性角膜炎を細菌感染と誤る,クラミジア結膜炎をアデノウイルス感染と誤るなどは確かに起こしやすい誤診の例でしょう。そこでこの総説では診断時に病因微生物を想定し,微生物名を冠した推定診断をまず行ってみることを薦めています。確かに,なんだかわからぬがクラビット®点眼を処方というのと,そこまで考えて処方を決め,またその薬剤への反応と分離された株を突き合わせる癖をつけることで,明日からの診断力には格段に差がつくことでしょう。この総説の最後に著者は身の程として,己の丈,己の限界,己のなすべきことを考えよとしています。いささか哲学的ではありますが,聞いてみるべき言葉でしょう。

 さて,この本全体を見回してみれば,それなりに今風に多くのカラー図版を加えた構成になっています。それは実際に患者さんを前にして調べるには大変な助けになります。第2章からの疾患各論は涙器,結膜,角膜,ぶどう膜,眼内炎,術後感染症などに細分されており,各疾患項目は10ページほどです。ですから,診療マニュアルというその名の通りに,あるいは重篤な患者さんを入院させてから急いで開いて読んでも十分に間に合う量の記述であると思います。

 表紙はおとなしいムック様の本ですが,内容は具体的で,軽い本ではなさそうです。わからない感染症例が来たら,まずこの本に頼ろうと心を定めて,机の上にそっと用意しておくのには格好の本だと思います。
外来に置いて活用してほしい臨床現場で実践的に使える書
書評者: 鳥崎 真人 (とりさき眼科院長)
 眼感染症に関する教科書は数多くあるが,専門的になればなるほど知識のレベルは上がるものの実際の臨床現場で症例について調べるには使いにくい。ハンドブック的なものはちょっとした知識や数値の確認には便利ではあるが,写真がなかったり記載が不十分だったりすると,結局教科書を調べに行くことになる。毎日の外来診療においてもう少し使いやすい本があればと思っていたところに,この度,薄井紀夫,後藤浩両先生の編集による本書が刊行された。眼感染症各分野のエキスパートの先生方総勢41名が,臨床の場における実践的な利便性を追求し「極めてシンプルに効率よく」という編集方針に沿って記述した,まさにエキスのみが入っている本である。

 本書を開いてみた感想としては,まず何といっても内容が見やすい。基本的なレイアウトとして左ページに文章,右ページに写真や図表というように配置されているため,文章を読みながら写真を探すのも,写真を見て文章を読むのも非常にやりやすい。行間が広いため読みやすく,また所々少し贅沢かなと思われるようなスペースがあることも読んでいて疲れにくく感じる理由かもしれない。具体的な内容としては,眼瞼疾患にはじまり,涙器・眼窩疾患,結膜疾患,角膜疾患,ぶどう膜・網脈絡膜疾患,眼内炎,術後感染症まで一般眼科臨床で遭遇する可能性のある疾患が十分網羅されている。それぞれの疾患について疾患概念,臨床所見,病原微生物の同定,治療,生体反応への対応,続発症への対応および予後がきちんと分けて書かれているので必要な内容にたどり着くのが容易であり,しかもそれぞれが簡潔にまとめられているため理解しやすい。また各分野の冒頭には,その分野の疾患を理解するための鑑別の重要ポイントが述べられている。簡潔ではあるが非常に丁寧にわかりやすく書かれていて,眼感染症に対する知識がまだ少ない人でも診断や治療を間違えないようにとの道しるべになっており,編集者お二人の優しさがそこに見て取れる。写真もよく選ばれており数も多くまた図表もよくまとまっているので,若い先生方(若くなくても結構)には,ぜひ本書の右ページのみをざっと目を通すことをお勧めする。明日からの外来診療で患者さんを見る目が変わることは間違いない。

 しかし何といっても,本書の真髄は総説にあると考える。微生物がいかに巧妙かつ冷徹に感染を引き起こすかにはじまり,それに対峙するわれわれ眼科医が知っておくべき予防,診断そして治療の原則を確かな事例とユーモアで示し,そして最後には「身の程をわきまえる」ことが最も大切であると結んでいる。眼感染症の診療にあたってはこれまで「相手を知る」ことが第一とされており,私自身もそう考えて後輩を指導してきた。しかし,それ以前にわれわれ一人一人の身体が膨大な数の微生物と共生してバランスをとっている,いわば微生物に生かされていることに気付くべきであるという。己の限界を知り,己のなすべきことを考えることが人類の未来のために必須と説く。まさに哲学である。

 本書は臨床現場で実践的に使えることを目的に編集された本ではあるが,眼感染症に興味を持つきっかけとなる本としても有用である。まさしく「座右の書」として,ぜひ外来に一冊置いて活用いただきたいお薦めの本である。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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