医学界新聞

連載

2015.03.02



在宅医療モノ語り

最終話
語り手:次世代にも持続可能であることを夢見て
あめちゃん

鶴岡優子
(つるかめ診療所)


前回からつづく

 在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりだ。往診鞄の中,往診車の中,患者さんの家の中,部屋の中……在宅医療にかかわる道具(モノ)を見つめていると,道具も何かを語っているようだ。

 今回の主役は「あめ」ちゃん。さあ,何と語っているのだろうか?


翼を広げて,お茶しましょう
“鶴”と“亀”で始めた小さな診療所は,つ~る~と翼を広げ,「つるカフェ」を開いてきました。「顔の見える以上にお茶する関係」を合言葉に,スイーツにこだわりがあります。私あめちゃんは,その常連のおもてなしでした。
 講演会を聞いていて少し咳き込んだら,急に隣の人に話し掛けられてビックりしたそうです。「あめちゃん,いる?」。巾着袋の中には確かにあめらしきモノがありましたが,主人は恐ろしくて手を突っ込むことはできず,小さな声で「ありがとうございます。大丈夫です」と答えました。知らないヒトからもらったモノを食べてはいけない。そう信じて生きてきた主人は驚きを隠せませんでした。しかも,なぜ“ちゃん”付け? 

 私はある診療所に常備されているあめです。訪問診療を終えてカルテを記載するとき,主治医の意見書や訪問看護への指示書を作成するとき,昼ご飯を食べ損なったとき,主人は大事そうに私を舐めます。ある夜,呼吸が苦しくて往診となった患者さん,心不全の増悪で救急車搬送されました。主人は診療所に戻ってから,カルテをさかのぼって見直します。「体重はこの時点で増えていたんだなあ」。私を舐めながら診療情報提供書を作成し,病院へファックスしました。また別の夜はお看取りの後,私を舐めな...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook