医学界新聞

2015.01.12



Medical Library 書評・新刊案内


緩和ケアエッセンシャルドラッグ 第3版

恒藤 暁,岡本 禎晃 著

《評 者》元雄 良治(金沢医大教授・腫瘍内科学/金沢医大病院集学的がん治療センターセンター長)

著者の知識と経験を生かし,臨床に役立つ要点をまとめたポケットブック

 本書を持つと,そのコンパクトなサイズと適度な厚さのため,すぐ手になじむ。

 まず,「本書の構成と使用法」が記され,それに続く「WHO必須医薬品モデル・リスト」「症状マネジメントの原則」「症状マネジメントの概説」「エッセンシャルドラッグ」から本書は構成されている。「WHO必須医薬品モデル・リスト(WHO Model Lists of Essential Medicines)」は最新の18版が2013年に公表されている。有効性・安全性・経済性を考慮し,主に開発途上国での最小限必要な医薬品が収録されている。特記すべきは,これまで腫瘍学のセッションに含まれていた緩和ケア関連薬剤が,「痛みと緩和ケアのための薬」として独立し,しかも成人用の30セクションのうちの2番目に位置付けられた点である。本書はこのリストを参考に,わが国の現状に適合させて選ばれた薬剤を扱っている。実際,「エッセンシャルドラッグ」の章には51成分(56薬剤)がリストアップされている。

 「症状マネジメントの原則」は2ページのみの記載であるが,「まず第1に患者に尋ねる」から始まる診療上の鉄則が5項目挙げられている。「症状マネジメントの概説」の章では,がん疼痛から苦痛緩和のための鎮静までの20項目を挙げ,概念・原因・マネジメントとケア・薬物療法などがわかりやすく書かれている。

 本書の大部分を占める「エッセンシャルドラッグ」の章は,アセトアミノフェンからロラゼパムまで五十音順に掲載されており,オキシコドンは経口剤と注射剤,フェンタニルは1日貼付型製剤・3日貼付型製剤・バッカル錠・舌下錠・注射剤が挙げられている。そこで実際に本書で薬剤を調べてみた。「プレガバリン」のページ(p. 235)を開くと,最初にPointとして8つのことが挙げられている。神経障害性疼痛治療薬である,生体内利用率が高く,作用持続時間が長いこと,構造・作用機序,開始初期に鎮静作用が出るので少量から開始すること,相互作用は少ないが眠気・めまいなどの副作用がある点,急な中止で退薬症候が出る可能性があるので漸減することなど,臨床ですぐに役立つ要点ばかりである。その後には剤形,適応,用法・用量,副作用,相互作用,薬物動態,慎重投与について,簡潔に3ページでまとめられている。まさに「ポケットに,その場で役立つ専門知識と安心感を」という本書の特徴がよく理解できた。

 二色刷りで見やすく,参考文献は2013年・2014年のものがほとんどであり,最新の情報となっている。著者の恒藤先生と岡本先生の経験と知識が随所に生かされた本書をポケットに準備して緩和ケアに臨んでいただきたい。

三五変型・頁334 定価:本体2,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02023-7


“実践的”抗菌薬の選び方・使い方

細川 直登 編

《評 者》林 寛之(福井大病院教授・総合診療部)

抗菌薬の基本と微妙な使い分けのこつがよくわかる

 「アメリカでは,アメリカでは」と連呼する留学帰りの医者は,ややもすると『出羽の神』とやゆされて煙たがられることがある。日本とアメリカとの医療の大きな違いの一つに抗菌薬の使い方が挙げられる。今でこそ感染症の良書が散見されるが,以前はどうしても日本の感染症教育が遅れていたため,現場に立ち続けた年配の医者は,製薬会社や薬剤添付文書を頼りに独学し,抗菌薬の知識が自分でも系統立って整理がついておらず,弱点を突かれるようで『出羽の神』を煙たく思ったものだ。またアメリカと同様に高用量(本書では「標準使用量」としている)を使用すれば,保険適用外で削られたりもするので,そんな知識は役に立たないと現場では思われた。

 でももう大丈夫。本書は,日本で保険診療をする上でどう戦っていけばいいかをきちんと解説してくれる。保険適用範囲内であくまでも戦いたい医者,保険適用を超えて使用したい医者,双方が納得いく医療を本書で見つけることができる。決して『出羽の神』ではなく,日本で医療をしていく上でどう落としどころを見つけながらやっていけばいいのかがわかる点は,実地医家にとって本書は大きな福音となるだろう。

 第II部は薬剤の特性の基本を学ぶことができ,初学者にとって頭を整理するのに役に立つだろう。どんな敵(細菌)にどんな武器(抗菌薬)で戦うべきか,各武器(抗菌薬)の特徴はどうなっているのかの全体像がよくわかる。

 第III部はかゆいところに手が届く一押しの章だ。腕に自信のある実地医家にとっては,同じ系統の武器(抗菌薬)でも微妙な使い分けがわかっていい。「同じ系統だから何でもいいよ」とは言わなくなるはず。うんちく好きにはたまらない秀逸なまとめ方をしている。ドラえもんだって空を飛ぶときはタケコプターだけに頼っているのではないじゃないか。空を飛ぶ道具は他にもたくさんあって,「ふわふわ薬」,「強力うちわ『風神』」,「乗り物ボール」,「乗り物アクセサリー」,「フワフワオビ」,「たんぽぽくし」,「風ため機」,「バードキャップ」他にも……あ,もういい?……とにかく微妙なさじ加減で使い分けるこつが満載だ。血となり肉となるように3回は読み返してほしい。本書を読んで抗菌薬を使い分ければ,抗菌薬もきっと泣いて喜ぶはず……?

A5・頁236 定価:本体3,300円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01962-0


作業療法実践の理論 原書第4版

ギャーリー・キールホフナー 著
山田 孝 監訳
石井 良和,竹原 敦,野藤 弘幸,村田 和香,山田 孝 訳

《評 者》宮前 珠子(聖隷クリストファー大大学院教授・作業療法学)

理論が実践に結び付く!作業療法士,学生必読の書

 本書は20世紀に生まれた現代作業療法界随一の理論家であり,2010年に61歳の若さで惜しくも亡くなってしまった,ギャーリー・キールホフナーの渾身の力がこもった遺作であり名著である。そして翻訳にも遺作への思いがこもり,大変よくこなれたわかりやすい日本語の名訳となっている。

 本書は1992年に“Conceptual Foundations of Occupational Therapy”という原題で初版が発行され,翌1993年に「作業療法の理論」として邦訳が発行された。その後2回の改訂を経て,2009年に今回の原著第4版が“Conceptual Foundations of Occupational Therapy Practice”のタイトルで発行された。それを受けて本書のタイトルも「作業療法実践の理論」(下線いずれも評者)となっている。旧版も作業療法の歴史と理論の全体像をとらえた他に見られない優れた本ではあったが,全体に概念的で難解であり,即実践に結び付くものとは言えなかった。

 しかし今回の第4版はがらりと様相が変わり,著者が序文で「作業療法の理論は実践サービスの中にこそあるべきである」と述べ,また「私たちは大学でこれらのすべてを学んだけれど,実践でどのように使うかわかりません」(18章冒頭)といった学生の言葉を深く受け止め,作業療法の理論をいかにわかりやすく,この本を読んだだけでも臨床実践に使う手掛かりを与えるかということに心が砕かれている。概念に具体例を挙げた説明が加わり,理論ごとにケーススタディーを複数示し,写真を添えて理解の深まりを図り,キールホフナーのこれだけは伝えておきたいという真摯な思いがひしひしと伝わってくる。

 全体は4部に分かれ,第1部は,作業パラダイムに始まり,機械論的パラダイム,そして現代化した作業パラダイムに至る歴史的概観,第2部は現代の作業療法理論として,(1)意図的関係モデル,(2)運動コントロールモデル,(3)感覚統合モデル,(4)機能的グループモデル,(5)生体力学モデル,(6)人間作業モデル,(7)認知モデルの7つを取り上げ,概念を豊富な具体的説明と症例とともに示している。第3部では作業療法で利用する他分野の関連知識として,(1)医学モデル,(2)認知行動療法,(3)障害学を取り上げてわかりやすく解説し,そして第4部「実践での理論の利用」では,複雑な作業療法実践を行うには理論の全体像を知った上で複数の実践モデル・理論に精通する必要があり,クライエントのニーズに応じてそれらを使い分けることができなければならないことを具体例を通して述べている。

 本書を最後に改訂版はもう出ないわけであるが,キールホフナーが知力と体力を傾注して残した本書,作業療法の歴史,パラダイムの変化を包括的にとらえ,また現代作業療法の理論と実践を鳥瞰図的・マクロ的に示した上で,それぞれの理論の使い方を多くの症例を通してミクロに示した本書は,全ての作業療法士への珠玉の贈り物となり不朽の名著になるであろう。作業療法士,作業療法学生必読の書として薦めたい。

B5・頁320 定価:本体4,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01975-0


TIAと脳卒中

Sarah T. Pendlebury,Matthew F. Giles,Peter M. Rothwell 原著
水澤 英洋 監訳

《評 者》山口 武典(国立循環器病センター名誉総長/日本脳卒中協会理事長)

脳卒中の臨床試験による経験と信念が如実に表れた書

 Sarah T. PendleburyとPeter M. Rothwell夫妻,それに臨床疫学者のMathew F. Gilesら3人による『TIAと脳卒中』の日本語版が,このたび東京医歯大神経内科グループ(水澤英洋氏監訳)によって出版された。著者の一人であるRothwell教授は,さまざまなメタ解析で有名なエディンバラのCharles Warlow教授の下で研究を続け,その後オックスフォードに移ってOxford Vascular Study(OXVASC)を立ち上げた。その後の活躍は目覚ましく,極めて多数の脳卒中の臨床および臨床疫学に関する研究成果を報告している。中でも最近注目されているのが,「TIA(一過性脳虚血発作)を早期に治療することによって,3か月後の転帰が著しく好転する」というOXVASCの臨床成績である。TIAが脳梗塞の警告症状であることはかなり以前(1950年代)から言われてきたにもかかわらず,一般臨床家の間ではあまり重要視されてこなかった。本書の表題にTIAという言葉を付けていることは,この点を意識しての命名であろう。

 TIAと脳梗塞は一連の病態であるので,その定義あるいは診断基準を定めることは極めて難しい。最初に米国で定められた定義は「24時間以内に症状が消失し,脳に器質的病変を残さないもの」とされているが,最近の画像診断の発達によって症状持続時間と画像上の変化による定義付けは困難との考えから,米国心臓協会(AHA)/脳卒中協会(ASA)では「持続が短時間で画像所見を残さない」というあいまいなものとなっている。しかし,本書では最も古典的な「24時間」という定義を採択しているため,われわれにとっては親しみやすい。ちなみに厚労科研による研究班(班長:国立循環器病研究センター・峰松一夫副院長)でも,現在のところ24時間という定義を用いることを提言している。

 本書では脳卒中患者での血管検査の重要性を強調しており,非侵襲的検査だけに頼りすぎて脳動脈瘤の存在を見逃す危険性,頸部の頸動脈の評価におけるduplex超音波検査の有用性など,単なる検査法の羅列ではなく具体的に評価がなされているのがありがたい。中でも,頭蓋外の頸動脈病変に対する血栓内膜剥離術の問題を具体的に提示していることは極めて有用である。

 これまでの(特に日本の)教科書にない内容も少なくない。中でも虚血性脳卒中を「TIA・軽症脳梗塞」と「重症脳梗塞」に分けて記述されていること,いろいろなリスクスコアを用いた「予後の診断法」について極めて実用的な解説がなされていることは新鮮である。また,「治療法の評価方法」の項は圧巻である。大規模臨床試験での無作為化の必要性をさまざまな角度から解説し,またその臨床試験で得られた結果の解釈に当たっての注意点を細かく述べている。著者らの経験と信念を如実に表しており,本書のハイライトであろう。

 高血圧性脳出血に関する記述が少ないという難点はあるが,上に述べた数々の素晴らしい内容を考えると,ぜひとも座右の書として(バッグに入れて持ち歩きも可能)備えられることをお薦めしたい。

B5・頁384 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01523-3


レジデントのための血液診療の鉄則

岡田 定 編著
樋口 敬和,森 慎一郎 著

《評 者》木崎 昌弘(埼玉医大総合医療センター教授・血液内科学)

診療のポイントや最新の情報が素早くわかる多忙な医師に最適の好書

 このたび,聖路加国際病院血液内科部長の岡田定先生を中心に,同病院のスタッフである樋口敬和先生,森慎一郎先生により,レジデントおよび血液内科医を対象とした本書が医学書院より上梓された。本書を拝見してまず感じたのは「よく練られた内容で,読者のことを真っ先に考えたよくできた本だなあ」ということである。さすがに臨床経験が豊富で,場数を踏んでいる3人が書かれただけのことはあると感じ入った。

 われわれ血液内科(小児科)医は,実際の診療の現場では生命に直結する疾患を扱うことも多く,常に適切かつ迅速な判断を求められている。その上で特に造血器腫瘍の治療に関しては,化学療法や造血幹細胞移植のみならず,分子標的治療薬や抗体医薬などの新しい薬剤を用いた治療法をいかに用いるかについても適切に選択しなくてはならない。そのためには,多くの疾患を経験するとともに,常に最新の病態解析研究や治療薬の臨床試験のデータ,ガイドラインなどを頭に入れておく必要があるが,日々忙しいレジデントや血液内科(小児科)医は時間がないのも事実である。これらの知識を取得するためには,多忙な医師のことを考えたテキストが必要であるが,本書は「かゆいところに手が届くように」多忙な医師の立場に立って書かれた好書である。

 本書は,病棟診療と外来診療,さらには救急の現場で扱う頻度の高い血液疾患を,実際に患者を診療しているかのようなスタイルで統一して書かれている。当然ではあるが,病棟に入院してくる大多数の患者は診断が既についているが,外来では診断から始めなくてはならない。本書では,そのような実態に即して病棟編では血液疾患の各論の形で主要な血液疾患を,一般外来編や救急外来編では診断学の形でよく遭遇する症候を中心に記載されていることは,血液診療の現場を知り尽くした著者らの慧眼である。しかも,病棟編では,各疾患について,実際のケースをもとにQ&Aの形で診断,鑑別,予後,治療を系統立ててどのように考えて診療を進めていくべきかを中心に記載されているところなどは,従来の医学書の形式とは全く違う,現場の医師の立場を考えた優れたテキストだと思う。外来編でも症候から,どのように鑑別して確定診断を導くかが理論的に学べるようになっている。コラム形式の「ココがpoint」や「もっと知りたい」もよくできており,長年の経験に基づく診療のポイントや最新の情報が素早くわかるように工夫されている。そして,何よりも冒頭の箇条書きに書かれた「鉄則」を読むだけで,何かその疾患や症候を全てわかったような気にさせてくれる。さらに親切にも終わりには「最終チェック」ができるようになっており,ここまで読めば完璧である。この過程が簡潔な文章や箇条書きで本当にわかりやすく記載されている。

 評者自身多くの書籍の出版にかかわっているが,このように読者の立場に立って書かれ,しかも系統的に理解しやすく書かれている書籍に遭遇することは少ない。これも,岡田先生を中心とした聖路加病院血液内科の診療レベルの高さを示すとともに,常に若い医師をどのように実践的な医師に育てていくかを考えた教育レベルの高さを物語っているものと思われる。

 忙しい臨床の現場に立つ医師には常に座右において活用していただきたい書籍である。

B5・頁336 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01966-8

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