医学界新聞

2014.12.08



Medical Library 書評・新刊案内


“実践的”抗菌薬の選び方・使い方

細川 直登 編

《評 者》青木 眞(感染症コンサルタント)

初学者から「もう感染症の本は十分」と思われるベテランにもお薦め

 現在,世界のカルバペネムの7割を消費するわが国に戻ったのは20年ほど前。当時,評者は「西欧かぶれ」の感染症医と呼ばれるにふさわしく,参加する学会,購読するジャーナル,棚に並ぶ成書,全てが「洋物」であった。理由はわが国でメトロニダゾールがアメーバ赤痢や嫌気性菌に使えるようになったのが2012年,わずか2年前(p. 197)という極めてユニークな風景と無関係ではなかったと思う。しかしこの20年で臨床感染症を取り巻く風景は一変した。わが国にも抗菌薬の適正使用を熱く語れる真の臨床感染症の訓練を受けた医師が次々と生まれたからである。グローバルスタンダードを意識した本書はそのような評者と価値を共有する仲間によってのみ執筆された。評者は各章を読み始めるとき,ついつい章末の執筆者の名前を見ては得心するのだった。

 しかし,本書の特徴を「グローバルスタンダードに基づいた抗菌薬の本」と定義するだけでは不十分となる。なぜなら本書は今までにない新しい切り口で書かれているからである。具体的には添付文書が同じ菌,同じ疾患に適応を示す抗菌薬同士の比較が記載されている。一見似たような抗菌薬を,より精密に使い分けるのが目的である。序文で編者いわく「抗菌薬の選択には理由が必要である」。広域抗菌薬を手にした社会が,思考停止にならないための警鐘から始まっている。

 今日,わが国の感染症専門医は米国の感染症専門医よりも,より精密に抗菌薬の適応を考えていると思う。「市中感染ならばレボフロキサシン」といった雑な整理ではなく,グラム染色で起炎菌を想定して可能な限り狭域の抗菌薬の使用を心掛ける日本の感染症専門医。ある意味,日本人で米国感染症専門医第一号になった喜舎場朝和先生の非常に繊細な世界である。彼らはやみくもにグローバルスタンダードを錦の御旗とする「西欧かぶれ」ではなく,日本の状況に合わせて創意工夫する,より緻密で創造的な感染症専門医といってもよい。

 感染症専門医とはペニシリンGとカルバペネムの強さが同じであることを知る人々である。抗菌薬の枯渇が声高に叫ばれる今日,抗菌薬をより丁寧に大切に使用する文化は,この新しい日本の感染症専門医からしか生まれない。「抗菌薬は使用すればするほどその価値が下がるという点では他の薬剤と一線を画している(p. 24)」これこそが編者,細川直登先生がよって立つ,本書の原点である。

 初学者から「もう感染症の本は十分」と思われるベテランにもお薦めします。

A5・頁236 定価:本体3,300円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01962-0


非特異的腰痛の運動療法
症状にあわせた実践的アプローチ

荒木 秀明 著

《評 者》板場 英行(前・川田整形外科リハ科診療統括部長)

臨床実践を集大成した腰痛運動療法の指南書

 腰痛は,腰椎,椎間板,椎間関節,神経根,腰部関与筋と軟部組織などの病変が発症原因と考えられている。しかし,臨床的にみると,腰痛の約80%は,医学的診断と臨床症状が一致せず,痛みの原因が特定できない非特異的腰痛である。その意味で,腰痛症例の治療では,診断名や画像所見に固執せず,眼前の対象者から把握できる病態と臨床症状を包括的に評価分析し,的確な臨床推論と臨床判断を駆使した治療介入を行い,臨床考察により治療効果を確認するプロセスが重要である。学際的には,医学モデルに生物・心理・社会的要因に視点を拡充した包括的・多角的・集学的アプローチが強調されている。腰痛の運動療法における近年の動向は,腰部症状に起因した局所基盤治療から,骨盤帯や下肢関節,身体上位構成体との連結,運動機能障害連鎖を考慮したトータルアプローチへと変化している。

 このたび,医学書院から荒木秀明著『非特異的腰痛の運動療法――症状にあわせた実践的アプローチ』が発刊された。著者の荒木氏とは,2001年から3年間,徒手理学療法関係の講習会で,共に講師を務めたことがある。臨床家としての鋭い視点から理論と実技を展開される姿勢に共感したことを覚えている。

 自己の治療技術の向上と発展のために,積極的に国内外で臨床研究結果を報告され,整形外科医と激論を交わし,問題解決の糸口を見つけるためには海外渡航も厭わなかった荒木氏が,臨床家としての集大成といえる一冊を執筆された。常に最新の情報を入手し,得た情報を自己実践し,検証する臨床家としての姿勢が凝縮された腰痛運動療法の指南書である。

 本書は5章から構成されている。第1章の序説と第2章の基本的事項を確認した後,第3章から第4章にかけての理学療法学的診断学を理解し,治療の中心である第5章の運動療法とホームエクササイズへとページを進める。理学療法評価をベースとした臨床推論,臨床症状に則した臨床判断に基づく治療の展開が,明確に紹介されている。運動療法では,骨盤帯正中化手技,過緊張筋に対する筋リリース手技,深層のコアマッスルに対する積極的安定化運動が,症状にあわせた実践的アプローチとして紹介されている。治療者主体の従来的治療体系から,対象者の自己認知に基づいた自己治癒を促進する臨床実践の結果は,国内外の関連学会で報告され,高い評価を得ている。

 参考文献232編のうち,日本語文献はわずか2論文である。これらの文献を背景とした付録の各項目を精読し,腰痛治療のエッセンスを理解していただきたい。

 荒木氏の長年の臨床に基づいた理学療法評価・診断を臨床で適用するには,相応の時間と各自の研鑽が要求されるが,“腰痛”という巨大な怪物を理解して退治するための,先輩セラピストからのメッセージが込められていると認識し,本書を最大限に活用した臨床実践を構築してほしい。

B5・頁160 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01971-2


作業療法がわかる
COPM・AMPS実践ガイド

吉川 ひろみ,齋藤 さわ子 編

《評 者》村田 和香(北大大学院保健科学研究院教授・作業療法学)

事例が魅力的な作業療法らしい作業療法の実践書

 作業療法の学びは,クライエントの作業に焦点を置き,作業を基盤とした実践に基づくものにある。そのため,実際の作業療法で展開されている「人間の作業」を理論化,体系化し,それを教育すべきと信じている。作業療法の質を高めることをめざす実践家が,理論を具現化して作業療法実践ができるように教育したい。しかし...

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