医学界新聞

連載

2014.11.24



The Genecialist Manifesto
ジェネシャリスト宣言

「ジェネラリストか,スペシャリストか」。二元論を乗り越え,“ジェネシャリスト”という新概念を提唱する。

【第17回】
ジェネシャリストと人的効率

岩田 健太郎(神戸大学大学院教授・感染症治療学/神戸大学医学部附属病院感染症内科)


前回からつづく

 プライマリ・ケアに長けたジェネラリストがいたほうが,人的効率は良くなる――。  それは,かつて言われたように「ゲートキーパー」として機能するからではない。ゲートキーパーという概念は,専門医にかかる前の「露払い」的な役割をプライマリ・ケア医に持たせようというものである。これによって専門医を受診する患者が減り,医療費は減るだろう,といった目算を言う。

 しかし,プライマリ・ケア医/ゲートキーパー論はうまくいかなかった。コンサルテーション文化が強く,医療訴訟恐怖が強いアメリカでは,プライマリ・ケア医は容易に専門医にコンサルトしてしまうのである(詳しくは,拙著『悪魔の味方――米国医療の現場から』(克誠堂出版)を参照されたい)。プライマリ・ケア医は「ゲートキーパー」として機能しなかったし,紹介業務などの書類仕事が増え,むしろプライマリ・ケア医の業務を圧迫する結果にすらなった。アメリカではプライマリ・ケアの人気は落ちているが,その原因の一つに「ペーパーワークの増加」があるという1)

 確かに,日本でも特定機能病院を受診する場合はかかりつけ医の紹介状を必要とするなど,「ゲートキーパー」としての役割を,プライマリ・ケア医に求めるやり方がやんわりと採られている。ただ,実際には,初診料を払えば(例えば)神戸大病院を受診できるし,ぼくの外来にもそのように紹介状なしでやってくる患者も少なくない。このへん,アメリカほどルールはガチガチではないのだ。

 まあ,ゲートキーパーといっても程度問題である。いくらプライマリ・ケア医が「なんでも診る」からといって,虫歯になったときも歯医者に行かずに,「まずはかかりつけ医にかかってから」はナンセンスであろう。もちろん,「虫歯だと思っていたら,実は心筋梗塞だった」という事例もあるだろうけど,これは“極論的例外”というもので,例外事項のために物事を過度に一般化するのは愚かなことだ。

 では,転んで骨折したときはどうか。この場合もまずはかかりつけ医に,というよりは,すぐに救急病院か整形外科医にかかったほうが効率的だと思う。もちろん,プライマリ・ケア医のなかには骨折を整復し,ギブスを巻くことができる人もいる。ぼくも北京の国際診療所に勤務していたときはギブスを巻いていた。外国とか,へき地の診療所のような特殊なセッティングであればそういうことは必要だと思うが,ある程度大きな都市であれば,「まずはかかりつけ医」は非効率だ。眼科疾患,皮膚科疾患,耳鼻科疾患,産婦人科疾患などについても同様であろう。

 昔,うちの親戚は「やっぱり医療は大学病院じゃなきゃ」と風邪をひいても近所の大学病院に通院していた。これはさすがにやりすぎで,大学病院は患者で溢れかえってしまう。第一,大学病院の医者はたいてい風邪とかの診療は苦手だし。しかし,かかりつけ医をガチンガチンのゲートキーパーに仕立て上げると,これはこれで問題であり,かかりつけ医には「紹介状を書くだけ」の患者が増えてしまう。

 プライマリ・ケア医の人的効率は,ゲートキーパーとしてのそれではなく,複数の問題を抱える患者に対して「まとめて面倒を見る」ことができるからだとぼくは思う。

 例えば,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎,ぜん息の患者を,皮膚科

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