医学界新聞

2014.10.13



Medical Library 書評・新刊案内


《神経心理学コレクション》
ジャクソンの神経心理学

山鳥 重 著
山鳥 重,河村 満,池田 学 シリーズ編集

《評 者》松田 実(東北大大学院准教授・高次機能障害学)

偉大な神経学者の「合作」――ジャクソンの解説を通じた著者の語り

 私が神経心理学を志したのは,ほぼ同じ時期に出版された山鳥重先生の著作『神経心理学入門』と『脳からみた心』を読んだからである。そのころ,私は大学院で試験管を振って脳卒中患者の脂質代謝異常の研究をしていた。神経心理学や失語症といった領域には以前から興味があり惹き付けられてはいたのだが,その難解さゆえに自分などはとうてい手が付けられない分野だと考えていた。しかし,山鳥先生の2冊の本によって,私の中にくすぶり続けていた神経心理学への思いや興味が,一挙に噴き出した気がする。「こんなに面白い分野があるのか」「難解なことをこんなにわかりやすい言葉で説明できるものなのか」と感激し,何度も読み返したのを記憶している。

 そのころの私の教室には神経心理学に興味を持つ人はおらず,学問領域としても認められていない雰囲気であった。私は神経心理学的徴候を持つ患者さんを診察できる機会の多い病院に赴任させていただき,学会にもできるだけ何とか演題発表を工面して参加し,学会での山鳥先生の言葉を聞き逃さないようにと必死であった。山鳥先生のおられる病院に押し掛けてカンファレンスに参加させていただき直接の教えを受けることもあった。山鳥先生の発する言葉はいつも適切で簡明でわかりやすく,聞いているものを納得させ感心させる内容であった。

 山鳥先生に「どのようにして,この分野に取り組んだらよいのでしょうか」と質問したことがある。先生は「これまでの理論にこだわらず自分で自由に考えて新しい発見をしてください。しかし,多くの人の考えを学ぶことは大切なので文献はよく読む必要があります」と言われた。そして,先生がいつも薦めておられた著者の一人がJacksonであった。

 そのときから,私は時々Jacksonの著作に挑戦してははね返されてきた。山鳥先生は難解ではないと言われるが,私にとってはすこぶる難解であった。同じような言葉や内容が何度も出てくるし,「こんなに読みづらい文献はない」と一つの論文の途中で諦めてしまうことも多かった。しかし,何とか読み進めた場合には,Jacksonの臨床観察の鋭さにも感嘆させられた。

 そして今回,山鳥先生が『ジャクソンの神経心理学』を書き上げられた。待望の書である。難解なJacksonが見事にまとめあげられている。これまでもJacksonについての著作はあったが,これほどまでに踏み込んだ解説書はなかった。Jacksonが論じたテーマを主要な10章に分け,それぞれの章でJacksonの基本的な考えを紹介するだけでなく,それがいかに後世の思想家や臨床家に影響を与えたかも解説している。各章の最後にある「後世への影響」の項を読むと,山鳥先生の幅広い学識に再び驚かされると同時に,現在に通じる「Jackson」と「山鳥」の深い思考に触れることができるのである。この本を読んでから,Jacksonの原著のうち今までに読んだことのある言語症状の項を再読してみたが,自分の理解が数段上がっていると感じた。

 私のようなものが論評するのははばかられるが,Jacksonの理論や思考の特徴は物語性であると思う。そして,それは山鳥先生の論文にも同じことが言えるのではないだろうか。山鳥先生の科学論文をまるで物語を読むように引き込まれて読んだ経験のある人は多いはずである。そして,『ジャクソンの神経心理学』はJacksonの解説という形式をとった山鳥先生の語りでもある。二人の偉大な神経学者の合作が誕生したと言ってもよいかもしれない。「英国神経学の父」と呼ばれるJacksonの言葉を借りて,私にとっては(いや,おそらく多くの人にとっても)「神経心理学の父」と呼ぶべき山鳥先生が語っているのである。

 ぜひ,一読をとは言わず,熟読をお薦めする次第である。

A5・頁224 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01977-4


整形外科レジデントマニュアル

田中 栄,中村 耕三 編
河野 博隆,中川 匠,三浦 俊樹 編集協力

《評 者》松田 秀一(京大大学院教授・整形外科学)

かゆいところに手が届く工夫に満ちたレジデント必携書

 非常に完成度の高いマニュアルである。整形外科医としては常に最低限の知識を持ち合わせておく必要があるが,レジデントはもちろんまだ知識が十分ではない。したがってすぐに手元で調べる必要性が生じたときには,白衣のポケットに入る程度のコンパクトな本が役に立つ。本書はできるだけかさばらないようにページの途中からも新たな単元が始まっているが,見やすい見出しが立てられてあり,とてもわかりやすい構成になっている。また,図,写真が多く,経験の少ない医師にとっても,理解がしやすいように工夫されている。編集を担当された田中栄先生,中村耕三先生および東大整形外科学教室の先生方には大変なご苦労

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