抗菌薬を知って,正しく使いこなそう(細川直登)
インタビュー
2014.09.01
【interview】
抗菌薬を知って,正しく使いこなそう
細川 直登氏(亀田総合病院臨床検査科・感染症科部長/地域感染症疫学・予防センター長)に聞く
抗菌薬には多くの種類があり,その使い分けは難しい。共通のスペクトラムを持つ薬剤の場合にどちらを選択すればよいのか,なぜブロードスペクトラムな抗菌薬を処方していてはいけないのか。本紙では,『“実践的”抗菌薬の選び方・使い方』(医学書院)の編者である細川直登氏に,根拠を持って抗菌薬を使用していくために押さえておきたいポイントを聞いた。
なぜ,使い分けなければならないのか
――本書を出された背景には,抗菌薬の選び方や使い方に対してどのような問題意識があったのでしょうか。
細川 臨床現場において,各抗菌薬の違いを理解した上での使い分けができていないと感じていたことが大きいですね。抗菌薬は多くの種類がありますが,これまでは“菌を殺す薬”として全てひとくくりにとらえられることが多かったのです。
――なぜそのようなとらえ方がされてきたのですか。
細川 日本には臓器にかかわらず感染症を一手に引き受ける感染症科が少なく,各診療科でよく使用される抗菌薬も限られています。ですから私もそうでしたが,医師になって習慣的に使用されている抗菌薬の使い方だけを先輩から見よう見まねで学び,その薬を使う理由そのものはあまり考えられずにいたためではないでしょうか。
また,学生のころに各抗菌薬の違いや臨床的な使い分けを体系的に勉強する機会がないことも問題だと思います。
――使い分けがされていないことで起こる問題は何でしょうか。
細川 どの抗菌薬を処方すればよいかわからず,治療失敗を恐れてブロードスペクトラムな抗菌薬を安易に処方し続けていると,耐性菌の出現が避けられません。ブロードスペクトラムな薬を使ってもとりあえず患者さんは治ってしまうので,こうした負の側面は見えにくいかもしれませんが,抗菌薬治療においては,目の前の患者さんだけでなく,菌を相手にしているという意識を持ってもらいたい。耐性菌が増え続ければ,将来の患者さんを治療できる薬がなくなってしまうことになりかねません。そうならないよう,抗菌薬の使い方の基本を知って治療に臨んでほしいと思います。
リスクの回避を優先してきた日本の抗菌薬治療
――個々の薬の使い方にも問題はありますか。
細川 最近ではずいぶん改善されてきていますが,かつては海外と比較して日本の抗菌薬の保険適応量は少なく設定されており,規定の量を使用しても効かないという事態がしばしば起きていました。同じ薬であっても,日本では1日に認められている投与量や回数が海外より少なかったのです。
例えば,日本の添付文書ではセフェム系の薬は,1日4gまでと上限設定されているものが多いのですが,海外だと2gを3回,1日6gです。
――それでは2gぶんは保険を通らないことになりますね。
細川 その通りです。ですから実際には,添付文書を超える用量を使うか,添付文書に記載されていない用法を用いなくてはなりません。
日本で1日に使える4gを4回に分けて投与し,血中濃度をシミュレーションしてみたところ,海外で使われている2g×3回と同程度の効果が得られることがわかりました。ですから,どうしても4gで処方しなくてはいけない場合には,回数を増やして1gを4回投与するといった工夫があります。
――日本人の体質に合わせて,投与量が設定されているということでしょうか。
細川 いえ,われわれと体格が似ている他のアジアの国々では欧米と同等の量が使用されていますから,人種や体格は問題ではないと思います。
抗菌薬を選ぶときには感受性検査の結果を見るのですが,日本では主に米国のCLSI(Clinical and Laboratory Standards In...
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