医学界新聞

寄稿

2014.08.11

【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
脳梗塞再発予防のための抗血栓薬使い分け

【今回の回答者】平野 照之(大分大学医学部 神経内科学講座 准教授)


 近年,出血性脳卒中は増加傾向にあり,その背景に抗凝固薬・抗血小板薬の処方増が指摘されています。新規薬剤が加わり選択肢の増えた抗血栓薬を正しく使い分け,出血を回避しつつ脳梗塞の再発を防ぐことが大切です。


■FAQ1

脳梗塞の再発予防に用いる抗血小板薬や抗凝固薬の,基本的な使い分けを教えてください。

◎臨床病型に基づいて使い分けます。

 非心原性脳梗塞(ラクナ梗塞,アテローム血栓性脳梗塞,その他の臨床病型)か,心原性脳塞栓症かによって使い分けます。前者に抗血小板薬,後者に抗凝固薬を選択するのが基本です。

 脳動脈を閉塞する血栓は,大きく2つに区別されます。動脈では,血流が速く血圧が高いため摩擦力(ずり応力)が大きくなり,血栓形成に血小板が大きな役割を果たします。特に主幹動脈が狭窄していれば狭窄の前後で強いずり応力が生じ,血小板が著しく活性化します。この「血小板血栓」の予防には抗血小板薬が適しています。一方,血流が遅く血圧の低い静脈や,心房細動で血流が滞留している心房内のずり応力は小さく,ここではフィブリノーゲンをはじめとする凝固因子の活性化が血栓形成の主因です。この「フィブリン血栓」の予防には,凝固因子の働きを抑える抗凝固薬が必要になります。

 問題となるのは,心房細動を合併した頸動脈高度狭窄症例など,脳梗塞の原因を複数有する症例です。抗凝固薬と抗血小板薬の両者が必要となるように考えがちですが,頭蓋内出血を増やすため両者の併用は危険です。抗血小板薬に心房細動に伴う脳梗塞の予防効果はないこと(JAST試験,ACTIVE-W試験),抗凝固薬の非心原性脳梗塞の再発予防効果は,抗血小板薬のそれと同等であること(WARSS試験,WASID試験)を考え,このような場合,原則として抗凝固薬を用います。もちろん動脈硬化リスクの徹底的な管理が必要であることは言うまでもありません。

Answer…抗血小板薬と抗凝固薬の作用機序を理解して,脳梗塞の病態に合ったものを使用します。脳梗塞の再発予防では,原則として抗血栓薬は併用しません。

■FAQ2

抗血小板薬にはたくさんの種類があります。具体的にどう使い分ければよいのでしょうか? また,抗血小板薬の服用中にもかかわらず脳梗塞を再発した場合,その後の薬剤選択はどうすればよいでしょうか?

◎各抗血小板薬の特徴を理解し,患者背景に合ったものを選択します。

 現在,日本で使える抗血小板薬には,アスピリン(バイアスピリン®,バファリン81®),クロピドグレル(プラビックス®),シロスタゾール(プレタール®)があります。

 アスピリン(75-150 mg/日,分1)は血管イベントリスクを32%低下させます。価格も安く,多くの臨床研究で効果が証明され,まず適応を考える標準治療薬と言えます。ただし,他剤より出血合併症(頭蓋内出血,消化管出血)が懸念され,胃腸障害を来す例も少なくありません。

 クロピドグレル(75 mg/日,分1)の効果は,約2万例のアテローム血栓症(虚血性脳卒中,急性冠症候群,末梢動脈疾患)を対象としたCAPRIE試験で検討され,アスピリンを上回る効果(相対リスク低下 8.7%)が示されています。特にハイリスク例(脂質異常症合併,糖尿病合併,冠動脈バイパス術の既往など)で効果が高いとされます。アスピリンとの使い分けには,Essen Stroke Risk Score(表11)が参考になります。3点以上でクロピドグレルが推奨されます。

表1 Essen Stroke Risk Score

 なお,クロピドグレルと同じチエノピリジン系薬剤としてチクロピジン(パナルジン®)があります。しかしクロピドグレルと効果は同等ながら安全性に問題(肝障害,顆粒球減少,血小板減少性紫斑病)があり,新規に使用することはほとんどなくなりました。

 シロスタゾール(200 mg/日,分2)は,CSPS...

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