医学界新聞

2014.08.04



Medical Library 書評・新刊案内


心電図セルフアセスメント
229題で学ぶ判読へのアプローチ

Zainul Abedin,Robert Conner 原著
新 博次 監訳
村松 光 訳

《評 者》村川 裕二(帝京大溝口病院教授・循環器病学)

疾患ベースで心電図を教える後期研修医向けの問題集

 心電図を学ぶ人はどのくらいの数にのぼるのか。

 医学生は毎年9000人。

 看護や臨床検査の教育を受ける人が5万1000+4000で5万5000人。

 製薬会社の臨床開発でQT間隔がどうのこうのと論じる必要がある100人。あるいは,ふと魔が差して必要がないのに心電図の勉強を始める人が200人。

 合計して,心電図関係の書物の購買者が1年に6万4300人ずつ出現することになる。この20年分が医学書に接するとしても,専門や職場の業務で心電図とは縁遠くなるほうが多いはず。なので,今日本で心電図を学ぼうとする人は30万人くらいだろうか。

 この数はインパクトがある。

 12誘導心電図はもう「進歩しつくした検査」。「完成されている」からいじる余地はない。10年前の本でも使えないでもない。とはいいながら,疾患としてブルガダ症候群やQT“短縮”症候群など,新顔が入ってくるので,テキストも少しずつ変化する。30年前に医師になった父親が医学生の娘に「心電図の本をあげる」と言っても,遠慮されるのも道理。

 ここで取り上げる『心電図セルフアセスメント』は「心電図のテキスト+問題集」である。導入部の「波形と間隔」から「正常心電図」までの3つの項は,初めて心電図を学ぶ人には難しい。基礎的なことは他のテキストで学んだことのある人を対象としている。

 「心室内伝導障害」が一つの項として4番目に出てくる。「急性心膜炎」も独立している。波形ベースでなく,疾患ベースで心電図を教えている。意表を突いた構成。こういう話の進め方もあったのか。評者自身,「目がくらむほど売れ行きの良い心電図のテキスト」を書きたいと思っているので,ヒントになった。

 不整脈の解析にラダーグラムが使われている。ラダーグラムは「わかっていない人には敷居が高い」が,ここをクリアしないと不整脈はわからない。かなり詳しく説明されている。学生には向かない。研修医や現場で心電図に接する機会の多いスタッフに薦められるレベル。循環器内科で後期研修を始めるころに手にすると勉強しやすいタイミングか。問題に対して選択解答肢が提示されているものもあるが,基本は「これは何ですか?」という形のクエスチョンになっている。学ぶという意味では現場感覚に沿うが,選ぶよりも頭を絞るという点で要求度は高い。

 本書の装丁はかなり魅力がある。2色刷りなどと,物欲しげなところが無い。黒1色。表紙の色と文字のバランスも良い。日本語も重たくなく,洗練されている。

 端正なテキストである。

B5・頁240 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01917-0


診断戦略
診断力向上のためのアートとサイエンス

志水 太郎 著

《評 者》稲葉 崇(筑波大病院・総合診療グループ)

診断学を超えた,臨床のバイブルとも言える一冊

 本書は診断の道筋や戦略を言語化した,今までの診断学書とは一線を画す一冊である。普段ベテラン医師が無意識に頭の中で行っている臨床推論,つまり「戦略」を明快に言語化・理論化し,私のような経験の浅いレジデントでもその思考過程を容易にたどれるように書かれている。そして,ベテラン医師の戦略に豊富なバリエーションがあるように,本書にも実際の診療で使える多彩な戦略バリエーションが記載されている。これらの戦略を明日からの実臨床で実践していくことで,診断のエラーを防ぎ,より早く確実な診断へと至ることができるはずだ。

 今までの診断学書と大きく異なる点がもう一つ。臨床推論の具体的なトレーニング方法が詳細に述べられている点である。経験豊富なベテラン医師が患者を目の前にしてどのように考え,診察し,診断していくのか。その思考過程を身につけるためのトレーニングをどのように行えばよいのか。その具体的な方法論にも言及している。

 ここまで戦略戦略などと書いてきたが,残念ながら具体的なイメージが湧きにくいかと思う。それもそのはず,今まで言語化されてきた書籍がほとんどないからだろう。この書評ではその戦略の具体的な中身を紹介できないが,ぜひ手元に取って一読していただきたい。その完成度の高さに感動し,日々の診療における必携の一冊となるはずだ。

 また,本書はコンパクトなサイズでありながら,その内容は診断学書と呼べる範疇を超えている。記憶に定着しやすいフレームワーク(語呂合わせ)の作り方や,教育効果の高いカンファレンスのやり方といった教育における戦略についても触れられており,教育の場面でも大変有用である。また,病歴聴取における技法,患者への接し方や自分のコントロールの仕方といったプロフェッショナリズムについてまで言及されており,臨床のバイブルと言っても過言ではない。

 私は残念ながら著者との面識はないが,目の前にいる著者から直接レクチャーを受けているかのような感覚になった。おそらく,今まで学生や研修医の教育に情熱を注いできた著者の教育に対する熱い思いがそのまま書籍になったからであろう。学生・研修医はもちろん,中堅・ベテランの医師であっても自分に持ち合わせない戦略を得るきっかけになるのではないだろうか。

A5・頁288 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01897-5


服部リハビリテーション技術全書 第3版

蜂須賀 研二 編
大丸 幸,大峯 三郎,佐伯 覚,橋元 隆,松嶋 康之 編集協力

《評 者》水間 正澄(昭和大教授・リハビリテーション医学)

専門職種間の橋渡しのツールとなる本

 このたび,故・服部一郎先生の名著『リハビリテーション技術全書』が1984年の第2版から30年ぶりに『服部リハビリテーション技術全書』として改訂出版されました。新たな書は,その重厚さは変わりな...

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