医学界新聞

連載

2014.07.21

ユマニチュード通信

[その1]街のこぼれ話,冷蔵庫経由フランス行き

認知症ケアの新しい技法として注目を集める「ユマニチュード」。フランス発の同メソッドを日本に導入した経緯や想い,普及に向けての時々刻々をつづります。

本田 美和子(国立病院機構東京医療センター総合内科)


 こんにちは。私は急性期病院に勤務する総合内科医です。

 外来を訪れたり,入院される方々の年齢は徐々に高くなっていき,例えばこの原稿を書いている日に当院総合内科に入院している患者さんの8割は65歳以上,90歳以上の患者さんは全体の1割にも上ります。高齢者診療がごく普通の日常となるにつれ,私たちはさまざまな問題に向き合うようになりました。とりわけ,基礎疾患として認知機能の低下のある方が急性疾患で入院した際の治療や看護の実施に当たって生じる困難な状況は,医療現場の大きな問題となっています。認知症の進行の最大のリスクファクターは加齢です。高齢の患者さんの割合が増えることは,認知症を持つ患者さんの割合が増えることと一致しています。

 そもそも,患者さんは「病気を治したい」と思って来院し,そのための検査や治療には協力してもらえるという前提で,私たち医療者は仕事をしています。しかし,認知機能の低下してきた高齢の患者さんは「自分がどこにいるのかわからない」「何のためにケアや検査・治療を受けているのかわからない」状況になっていることも珍しくありません。そのような状況にある方々に,“病気の成り立ち,診断のための検査,治療のための侵襲的な手技”などの理屈を整然と説明する従来のアプローチでは,相手の理解を得ることができず,ケアや検査・治療が拒絶されてしまうことも増えてきました。そんなときに私たちが選択できる手段が(例えば)薬物による抑制や身体的な抑制となってしまうことも,「患者さんのために仕方ないこと」とされてしまいがちです。しかし,このような手段は脆弱な高齢者の身体機能をさらに悪化させ,入院の原因となった疾患は治っても,これまでの生活に戻ることができなくなってしまっています。

 2008年の夏のことです。「高齢者医療の在り方そのものを考え直す必要がある」と現場の経験から痛感していたときに,航空会社が発行する一般向けの雑誌で面白い記事を読みました。

 その雑誌は読者が旅行に行きたくなるような街を取り上げて,例えばニューヨークのレストランやロンドンの...

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