MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2014.06.16
Medical Library 書評・新刊案内
福井 次矢 監修
小松 康宏,渡邉 裕司 編
《評 者》徳田 安春(地域医療機能推進機構研修センター長・総合診療教育リーダー)
エビデンスサマリーと専門家のアドバイスが配合された医薬品集
くすりの種類は年々膨大となっており,薬剤についての広範囲に及ぶ知識はもはや医師の記憶容量の限界を超えてしまっている。それでもポイント・オブ・ケアの臨床現場では,普段使い慣れていない薬剤についての情報が必要となる場面は多い。そんなとき,臨床医はどのようなリソースを用いて薬剤情報を入手しているのだろうか。ネット上や電子カルテ内にあるdrug information(DI)や添付文書,製薬会社作成のパンフレット,あるいは薬剤出版物などを使用することもあるであろう。DIや添付文書は,網羅的記載ではあるが単調な内容で,重要なポイントがしばしば不明瞭である。また,薬剤パンフレットやチラシはどうしても製薬会社バイアスがあり,信頼性に乏しい点がある。このようなことから,ネットが普及してベッドサイドでモバイル端末が導入され,検索スピードはアップしたものの,こと薬剤情報については欲しい情報を得るには意外と苦労する。
最前線で患者ケアに従事する臨床医にとって重要な情報は,薬剤情報の中でもエビデンスサマリーと信頼できる臨床医の生のアドバイスだ。それもあまり長い文章ではいけない。臨床現場では時間管理が常に優先されるからだ。エビデンスサマリーと専門家のアドバイスがバランスよく記述されている『Pocket Drugs』は臨床医にとってとても役に立つリソースとなることは間違いない。
これまで類書は多種類出版されてきた。しかし,これほどバランスよく,きちんとエビデンスサマリーと信頼できる臨床アドバイスが配合されたものはなかった。これまで長年,べストセラーの上位に君臨してきた『今日の治療薬』に対して,最強のライバルが登場したと言っても過言ではないだろう。Less is Moreを提唱する評者にとって,薬価情報も記載されていることはうれしい限りである。わが国の多数の医師が薬価も考慮しながら,エビデンスと専門家アドバイスに基づいた処方を行うことになれば,国民にもたらされる利益は莫大なものとなる。このような情報リソースはアップデートが重要なので,毎年の改訂が望まれる。その意味で,150人以上もの執筆者そして編集者,監修者には大変な持続的労力を覚悟の上で出版されたことを感服する次第である。
A6・頁1312 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01751-0
矢谷 令子 シリーズ監修
福田 恵美子 編
加藤 寿宏 編集協力
《評 者》三澤 一登(愛媛十全医療学院作業療法学科長)
対象疾患イメージが持てる「わかりやすい」教科書
一般的に発達領域は特別な領域で,いわば聖域のように思われています。養成教育の現場においての課題は,発達領域にかかわる臨床実習の施設と専門の教員の確保で,人材の育成には時間もかかり早急な対応は困難です。評者は,人の発達過程を学ぶことはリハビリテーションにかかわる専門職として,また作業療法士にとっても重要な領域であると認識しています。
医療の領域において,本来リハビリテーションは誰のためのものかという問いには,障害別のリハビリテーションや時期別のリハビリテーションの導入などといった制度上でのくくりではなく,必ず人が主語になるはずです。評者は,人の理解は人の発達過程を学ぶことから始まると思っています。本書では「発達障害」ではなく「発達過程」という言葉を使用しているところに,教育と臨床にかかわる評者としても大いに共感しています。さらに,第3章において地域支援について取り上げているところにも共感を持っています。2025年を目標に,地域包括ケアシステムの構築は国の施策においても早急に体制整備が求められています。地域における作業療法士の役割を示すことは重要であり,早期からの介入は対象児たちとその養育者にとっても安心できる存在になると思います。
発達領域にかかわる機会が少ないと感じるのは,限られた場所でしかサービスが提供されていなかったことと,リハビリテーションの対象が限られていたからです。発達障害者支援法の施行やICFの障害概念の導入に伴い,従来の肢体不自由児を中心とした機能訓練重視の時代から対象となる疾患も障害も広がり柔軟な対応が求められる時代になっています。医療制度や障害保健福祉領域の制度も改変され,住み慣れた地域での一貫した支援と継続性が求められるようになっています。今後は,リハビリテーションにかかわる専門職において特に作業療法士の役割は重要で,誰しもがかかわる領域であるとの認識からスタートするのが自然です。
養成教育において,学生自身も早期より発達領域にかかわることが望ましいのですが,実際は短期間での見学程度です。経験の少ない学生にとって困難なのは対象となる疾患のイメージを持つことで,身につけた専門知識を現象とどのように関連付ければよいのか,具体的な支援の方法を選択する際にどのような視点でとらえるかという点です。本書は,専門基礎分野で学習したことを踏まえ,あえて疾患別作業療法としたところに特徴があります。また,具体的な事例に基づき各疾患に応じた実際について経験のある作業療法士の視点でまとめられています。学生にとっては,未経験の領域でもイメージを持つことによって,これからかかわる対象児・者における課題の整理や思考のプロセスを学ぶことができると思います。学生にとっての「わかりやすい」は,本書を活用する教員にとっても同様の成果を得ると確信します。
B5・頁356 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01758-9
ジェネラリストを目指す人のための
画像診断パワフルガイド
山下 康行 著
《評 者》金澤 右(岡山大大学院教授・放射線医学)
近年まれにみる画像診断の名著
本書の著者である山下康行教授は言うまでもなく,わが国を代表する画像診断学の大家である。私とは,20年以上前に共に米国MD Andersonがんセンターで学んだ仲であり,本書を拝読しながら当時Charnsangavej教授の下で腹部画像診断学の研究を熱心にされていた若き日の山下教授を思い出した。
本書は,熊本大放射線診断学分野のスタッフが学生や研修医用に準備したティーチングファイルをベースにして作成されており,最近10年間の熊本大ならびにその関連病院で経験した最新の生きた画像で成り立っている。私から見ると素晴らしいという一言に尽きるデータベースであり,画像診断学に熱意を燃やす熊本大放射線診断学講座の伝統ある系譜を感じさせる。
山下教授は,「画像診断のジェネラリストを目指す人のための」とあえて銘打っておられるが,これこそが少子高齢化社会のわが国の現在の医療が求める画像診断医だと私も共感する。そのような趣旨から,全臓器を最新の画像診断学で網羅した本書は,まさしく時代の要請に応えるガイドブックである。
掲載されている画像は,私たちが画像診断をする上で知らなくてはならない重要疾患のCT,MRIを中心とした画像であり,それぞれの特徴が非常に明瞭で美しく表現されている。記載は,病態・病理と画像所見に大別され,いずれも項目形式で整然と簡潔に記載され,要点がわかりやすい。それは,あたかも,画像を見ながら,その所見をメモし,さらに深く検討していく過程を思わせる。そこには,病理,解剖という放射線科医の極めて深い興味の対象が上手にちりばめられているし,著者が,読者に対してこれだけはぜひ知っておいてほしいという溢れる思いが伝わってくる。所々にPowerUpとmemoというコラムがあり,読者はさらに知識を深めることができるし,ページ下に時々記されている「注」は大変親切である。全体として非常に優れた構成である。
また,多臓器疾患という概念を画像診断のガイドブックに入れたのは秀逸なアイデアである。私たちの現在の日常臨床においては,多臓器疾患を理解していることは極めて重要であり,さまざまな臓器の画像所見からある特定の多臓器疾患にたどり着くのは画像診断のいわば「知の醍醐味」とも言える。
結論として,本書は近年まれにみる画像診断の名著である。これだけよく整理されていると,英訳版や,さらに今度は所見から迫るGAMUTのような体裁の本の出版も山下教授に期待したくなる。
B5・頁732 定価:本体9,500円+税 MEDSi
http://www.medsi.co.jp
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