発達過程作業療法学 第2版

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作業療法士を目指す学生のための「標準」教科書シリーズの1冊。乳幼児から青年まで発達障害に対する作業療法を、基礎事項から実際の対象児への作業療法過程、各疾患の実践事例に至るまでわかりやすく解説。今版では地域支援の章を新設。各現場での具体的事例も交えながら発達遅滞症状の子どもに対する作業療法士の関わりかたを紹介。また実践事例の章では、高次脳機能障害と内部障害を追加。より現場に即した構成となっている。
*「標準作業療法学」は株式会社医学書院の登録商標です。
シリーズ 標準作業療法学 専門分野
シリーズ監修 矢谷 令子
編集 福田 恵美子
編集協力 加藤 寿宏
発行 2014年01月判型:B5頁:356
ISBN 978-4-260-01758-9
定価 4,620円 (本体4,200円+税)
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第2版 序

 本シリーズの立ちあげにあたり,教科書を何冊か手がけている知人から教えられたことに励まされて編集を引き受けた.「同じテーマの教科書というのは何冊か出版されることにより,基本となる軸の共通性が明らかになる.そしてお互いに不足分を補い合うことにより,広い知識と深い思考を兼ね備えた学生が巣立っていける」という教えである.今回の改訂版では京都大学の加藤氏に編集作業に参加いただき,時流も組み入れ再編集を試みた.
 発達過程作業療法は臨床医学の範疇に属し,保健・福祉の分野にもかかわりながら,世の中の流れを把握しつつ,基礎となる概念をふまえて治療を施すべき領域であると思う.作業療法の理論的基盤は,医学系,心理学系(臨床心理学系),社会学系,工学系(福祉工学系)などの知識を十分に活用しながら,作業療法の適用とは何かを探ることにある.知識の押し売りでなく,知識がいかに臨床において有用であるかを伝え,さらにそれをもとに応用へとつなげられることに視点をおいた.
 少子高齢社会の今,国の施策は高齢者に視点が向いているが,この時期にこそ世の流れとライフステージを見通したうえで,子どもの将来のあり方を考えてみたい.障害児を対象にしている作業療法士であるが,対象児たちの発達は決して停滞しているわけではなく,もって生まれた自然な発達と同時に,障害をともにした発達過程をたどっていることに気づく.対象児たちは,社会適応しにくいような不自由な部分があっても,周囲の援助を自ら求めながら,何かをなしえた達成感や成就感を表現し,次の興味に向かって挑戦している.この姿は「発達障害」というものではなく「発達過程」であると表現したい.本書のタイトルも子どもたちがこの発達過程において社会適応しにくいような不自由な現象が生じたとき,作業療法士として支援していく姿勢を示すことを意図して「発達過程作業療法」としている.
 発達過程とは生まれてから死を迎えるまで発達し続けていく過程であるが,本書では乳児期から青年期までを対象とした.作業療法専門分野の「作業療法学概論」「基礎作業学」「作業療法評価学」で学んだ小児系の関連事項と,専門基礎分野である「人間発達学」を基盤にして学習できるように構成してある.
 第1章は,発達過程作業療法を実践するにあたり,必要となる人間発達学の内容の概略を述べ,図(写真)と表でわかりやすく提示した.一般的にいわれる健常な状態の子どもの発達過程を理解することにより,発達過程で支障をきたしてしまう症状や行動・活動について理解を深めることが可能となる.この章は,人間発達学の復習と,作業療法を深めるための学びと考えて目を通していただくとよい.
 第2章は,発達過程作業療法の実践過程について,各過程における小児期の特徴を,現在の臨床状況もふまえながら述べた.わが国の施策で法律が改定されることにより,作業療法も臨機応変に対応することになるが,根本的な実践過程には影響を及ぼさない.実践過程を論理的に考えた臨床を行うことで,対象児にとって効率的で効果的な治療が可能になる.経験豊富な臨床家たちは,この実践過程を頭の中で瞬時に描いて臨床を行っている.学生たちも無意識にこの過程をふんだ実践が行えるようになってほしい.
 第3章は,改訂にあたり新たに設けた.わが国の施策から小児系の地域支援の組織を大枠でとらえられるようにした.地域支援組織の一員として作業療法士がどのような役割を求められているのかを学び,作業療法実践を効率的に行うための指標とした.
 第4章は,専門基礎分野で学習したことと第3章をふまえて,対象の分類を意図的に疾患別作業療法とした.発達遅滞児は類似した症状や活動状態を示してくるが,疾病の特性を理解しなくては対応できないからである.
 本書の執筆者は,長年臨床に携わり教育者としても活躍している方々である.発達過程作業療法の基本となる考えを貫き,時代の流れを先読みして,本流を与して執筆してくださった.教育環境づくりの一翼を担っているこの教科書を,貴重な一冊として活用していただけることを願っている.

 2013年12月
 福田恵美子

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序章 発達過程作業療法学を学ぶ皆さんへ
第1章 発達過程作業療法学の基礎
 I 発達過程作業療法の理念と目的
 II 発達過程作業療法の形成(歴史)と変遷
 III 人間の発達過程
 IV 発達過程作業療法の対象疾患と発達遅滞症状
 V 発達過程作業療法に関連する法規・制度
 VI 発達過程の子どもたちに携わる作業療法士の役割と資質
第2章 発達過程作業療法の実践現場と実践過程および記録
 I 発達過程作業療法の実践現場
 II 発達過程作業療法の現場における基本的実践過程
 III 発達過程作業療法における記録
第3章 発達過程作業療法の地域支援
 I 病院・施設から地域へ
 II 地域支援のシステム
 III 作業療法士のかかわり
第4章 発達過程作業療法の実践事例
 I 新生児疾患(NICU対象児)
 II 脳性麻痺
 III 知的発達障害
 IV 進行性筋ジストロフィー
 V 重症心身障害
 VI 骨関節疾患
 VII 二分脊椎症
 VIII 自閉症スペクトラム
 IX 学習障害
 X 注意欠如・多動性障害
 XI 頭部外傷等に伴う高次脳機能障害
 XII 小児癌
 XIII 内部障害(心疾患・腎疾患)
発達過程作業療法学の発展に向けて

さらに深く学ぶために
索引

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対象疾患イメージが持てる「わかりやすい」教科書
書評者: 三澤 一登 (愛媛十全医療学院作業療法学科長)
 一般的に発達領域は特別な領域で,いわば聖域のように思われています。養成教育の現場においての課題は,発達領域に関わる臨床実習の施設と専門の教員の確保で,人材の育成には時間もかかり早急な対応は困難です。評者は,人の発達過程を学ぶことはリハビリテーションに関わる専門職として,また作業療法士にとっても重要な領域であると認識しています。

 医療の領域において,本来リハビリテーションは誰のためのものかという問いには,障害別のリハビリテーションや時期別のリハビリテーションの導入などといった制度上でのくくりではなく,必ず人が主語になるはずです。評者は,人の理解は人の発達過程を学ぶことから始まると思っています。本書では「発達障害」ではなく「発達過程」という言葉を使用しているところに,教育と臨床に関わる評者としても大いに共感しています。さらに,第3章において地域支援について取り上げているところにも共感を持っています。2025年を目標に,地域包括ケアシステムの構築は国の施策においても早急に体制整備が求められています。地域における作業療法士の役割を示すことは重要であり,早期からの介入は対象児たちとその養育者にとっても安心できる存在になると思います。

 発達領域に関わる機会が少ないと感じるのは,限られた場所でしかサービスが提供されていなかったことと,リハビリテーションの対象が限られていたからです。発達障害者支援法の施行やICFの障害概念の導入に伴い,従来の肢体不自由児を中心とした機能訓練重視の時代から対象となる疾患も障害も広がり柔軟な対応が求められる時代になっています。医療制度や障害保健福祉領域の制度も改変され,住み慣れた地域での一貫した支援と継続性が求められるようになっています。今後は,リハビリテーションに関わる専門職において特に作業療法士の役割は重要で,誰しもが関わる領域であるとの認識からスタートするのが自然です。

 養成教育において,学生自身も早期より発達領域に関わることが望ましいのですが,実際は短期間での見学程度です。経験の少ない学生にとって困難なのは対象となる疾患のイメージを持つことで,身に付けた専門知識を現象とどのように関連付ければよいのか,具体的な支援の方法を選択する際にどのような視点で捉えるかという点です。本書は,専門基礎分野で学習したことを踏まえ,あえて疾患別作業療法としたところに特徴があります。また,具体的な事例に基づき各疾患に応じた実際について経験のある作業療法士の視点でまとめられています。学生にとっては,未経験の領域でもイメージを持つことによって,これから関わる対象児・者における課題の整理や思考のプロセスを学ぶことができると思います。学生にとっての「わかりやすい」は,本書を活用する教員にとっても同様の成果を得ると確信します。

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