MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2014.06.02
Medical Library 書評・新刊案内
マリー・ダナヒー,マギー・ニコル,ケイト・デヴィッドソン 編
菊池 安希子 監訳
網本 和,大嶋 伸雄 訳者代表
《評 者》松原 貴子(日本福祉大教授・リハビリテーション学科)
“知って得する”治療理論・技法
認知行動療法は認知療法に行動療法を融合させ,系統的に構造化された心理学的治療の一つである。20世紀終盤より認知行動療法は学習理論や条件付けに基づく行動療法を取り入れながら,うつ病や不安障害など主に精神心理的問題に対し精神科領域にて発展を遂げてきた。現代医療において,治療概念が生物医学的モデルから生物心理社会的モデルへとパラダイムシフトし,認知行動療法は精神科領域にとどまらず,身体科領域へ広く開放されるようになった。
現在では,慢性疼痛,糖尿病,心血管疾患など幅広い難治性患者に臨床応用されるようになってきている。その理由の一つとして,身体科疾患患者であっても精神心理社会的問題を包含していることで治療に抵抗性を示す場合が多いからであろう。認知行動療法では,患者を局所的なパーツの集合体として取り扱うことはせず,“whole body”(一人の個全体)として包括的に相対する。つまり認知行動療法は,疾患を治療するのではなく,患者(人)とともに考え引導する道筋を探し出すアプローチといえよう。したがって,認知行動療法は治療に難渋する患者を救済する道標になるとともに,治療者にとってもコーピングスキルの幅を広げる貴重なデバイスとなり得る,“知って得する”治療理論・技法である。
身体科領域において局所的な対症療法に追われてきたPT・OTにとって,今こそがパラダイムを変革すべき時であり,まさにそのタイミングで本書が出版された。本書では,認知行動療法理論について心理学的および神経科学的に丁寧に解説した上で,うつ病や不安障害などの慢性精神疾患の病態生理と具体的アプローチを紹介し,世界的国民病であって認知行動療法の奏効例が多数報告されている慢性疼痛や慢性疲労症候群についても解説がなされている。
評者である私自身のような,臨床で認知行動療法をフル活用し,その恩恵をすでに受けている者であっても,本入門書は新たなエビデンスの発見と理論の体系化に役立った。本書は認知行動療法に興味を持っているものの手を出せないでいる初学者からすでに認知行動療法を実践している者まで,全ての臨床家にとって十分に納得させてくれる一冊であり,有益な著書としてぜひとも推薦したい。
B5・頁208 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01782-4


上田 敏 著
《評 者》黒川 幸雄(国際医療福祉大大学院教授・応用理学療法学)
これからの臨床が進む方向を照らし出す
本書著者の上田敏先生(以下,先生)は,わが国はもとより世界のリハビリテーション医学医療に精通し,その発展に尽力されてきました。世界的にご高名で,多くの歴史的人物と交流されています。また,優れた文章力と語学力(会話力,英語,ロシア語,フランス語,他)を発揮され,多くの著作物や関連の知的生産物を世に送り出されています。本書は,半世紀以上にわたる先生の膨大な資料を基にまとめられたものです。
第一にお伝えしたいのは,本書から得られるものが,過去の埋没しかかった歴史的事実に光を当てたにとどまらず,顕在した知識などとの整合性や関連性などを結び付け,リハビリテーションに携わる者がリハビリテーションの流れを源流から大河へ発展する流れを認識する上で,座右の銘にたる思想が随所にちりばめられているということです。
以下,本書の構成に沿って紹介しますが,どの章も深く読み込むほどに燻し銀のごとく,質量の厚みと輝きを感じます。読み進むうちにリハビリテーションの歩んできた過去と現在までの軌跡が照らし出され,未来への明るい方向を感知することになるでしょう。
さて,本書は,「日本リハビリテーション医学会が生まれた決定的瞬間――1963年4月阪大講堂で何が起こったか」と,やや推理小説的なエピソードの紹介から始まります。スタンレー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』をほうふつとさせる,リハビリテーションの過去へと旅立つ先生の遊び心や人生への想いが感じられます。全体は6つの章で構成されています。300頁余りの分量ですが,本書の「おわりに」にもあるように,背景には膨大な資料が存在しています。そこから厳選された情報が,周到な構成で配置されています。わが国のリハビリテーションの歴史に関する資料的な価値が高いことはもちろんですが,退屈になりがちな資料集とは一線を画している点が本書の魅力で,面白く引き込まれます。
第1章では,「日本リハビリテーション医学会」「清瀬のリハビリテーション学院」「東京大学病院リハビリテーション部」,これらの3つの創立の経緯が詳しく述べられています。先生をはじめ,当時の若きエースたちの情熱的な姿が生き生きと描かれています。第2章では「リハビリテーションの萌芽をたずねて――100~50年前の日本」として,100年前までさかのぼって歴史的な発展をたどっています。第3章は「100~50年前の世界」への旅です。第4章「再び50年前の日本へ――私は1963年をどう迎えたか」は自叙伝で,先生の生い立ちから,青春時代,ニューヨークへの留学,そこでのラスク教授との邂逅が述べられています,この部分は非常に興味を持たれるのではないでしょうか(たまたま評者も留学中に大学病院の玄関前でバッタリお見かけし,すれ違い……)。
第5章は「この50年の歩み――日本と世界のリハビリテーション医学」が俯瞰され,第6章の「リハビリテーションのこれから――『総合リハビリテーション』をめざして」ではリハビリテーションを「全人間的な復権」のための方法論として展開され,WHOのICFが一つの到達点として示されています。基本思想との関連からICFが到達した思想と現実の関係を指し示し,これからの臨床が進む方向を照らし出しています。ICFのわが国への展開者であり,けん引者であり,一貫したリーダーである先生は,時代の中にいました。先生の人生がリハビリテーションの時代的発展と重なって見えます。
本書がリハビリテーション医学医療にとどまらず,広くリハビリテーション一般に及ぶことを信じて,多くの読者の目に触れられ,手に取られ,そして多くの関係者の自らの現在とその存在の原点にまでアウフへーベン(止揚)されることを期待してやみません。
A5・頁344 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01834-0


門川 俊明 著
《評 者》柳田 素子(京大大学院教授・腎臓内科学)
かゆいところに手が届く非常に優れた入門書
わが国の血液透析患者さんは31万人を越えました。併存する疾患の治療,検査や手術のためにさまざまな診療科に入院しておられるため,どの診療科の医師であっても,血液透析と無縁であることはできません。その一方で,血液透析患者さんでは体液管理や血液管理,薬剤の使い方などさまざまな点が異なり,分野外の先生方にとっては敷居が高い分野となっています。
本書は,若手医師や分野外の先生方が血液透析の基本を初めて理解する上で非常に優れた入門書となっています。本書は通読することが前提となっていますが,一人の筆者が一冊を通じて著述しておられるために各章間で重複がなく,あっという間に通読できます。まず第1章で基礎知識を身につけ,第2章では血液透析導入,第3章では維持透析の管理,第
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