リハビリテーションの歩み
その源流とこれから

もっと見る

わが国にリハビリテーション医学が誕生する前後の事情と、100年前にまでさかのぼる世界的視野を含めた歴史的背景、そして、その後の今日に到る半世紀の歩みを概観。これからのリハビリテーションの行く末を論じた、第一人者による貴重なテクスト。リハビリテーションを担うすべての人々が、これからを考えるために知っておきたい源流と軌跡。
上田 敏
発行 2013年06月判型:A5頁:344
ISBN 978-4-260-01834-0
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評
  • 正誤表

開く

序にかえて
日本リハビリテーション医学会が生まれた決定的瞬間
  1963年4月 阪大講堂で何が起こったか

 本書の発行から50年前の1963(昭和38)年4月2日、大阪での第16回日本医学会総会のさなかのこと。当時大阪市中之島にあった大阪大学(阪大)医学部講堂で、日本整形外科学会(日整会)の主導による「リハビリテーション学会」の設立発起人会が、水町四郎氏(関東労災病院院長、前横浜市大教授)の司会で開かれていた。日整会の「リハビリテーション委員会」の委員長であり、この学会設立計画を推進してきた水野祥太郎氏(阪大教授)は、医学会総会の委員として多忙で、欠席されていた。
 私は当時31歳。東京大学(東大)冲中内科に籍を置きつつ、数年前から高齢者のリハビリテーションに取り組んでいた。その日は傍聴者として、階段教室の上のほうで、服部一郎先生(九州労災病院内科部長兼リハビリテーション・センター部長)とともに、手に汗を握って成り行きを見守っていた。リハビリテーションとは総合的なものであるべきで、整形外科はもちろんだが、それだけではなく、内科、神経内科、小児科、耳鼻科(言語障害)、精神科(臨床心理を含む)など、広い範囲の総力を集めた、まさに総合的なリハビリテーションの学会を作りたいと念願し、そのためのささやかな努力を進めてきていたところだったからである。
 短い議論のあとに、満場一致でほぼ整形外科単独の「リハビリテーション学会」の設立が決議され、水町座長が「これをもってリハビリテーション学会の設立が決定されました」と宣言した。
 その瞬間、私はシンシンと地の底に引き入れられていくような、奇妙に身体化した絶望感にとらわれたのを鮮明に記憶している。「とうとう来るべきものが来てしまった」(怖れていた最悪の事態が現実化してしまった)という思い、「これまで自分がしてきたことは全部無駄だったのか」という思いが一気に押し寄せてきたのである。
 ところが意外なことに次の瞬間、一つの質問をきっかけに、その決定がくつがえされ、急転直下、整形外科と内科その他の科が手を組んで、共同で「日本リハビリテーション医学会」の結成に向かうことになったのである……。

 本書では、このエピソードに象徴されるような、わが国に「リハビリテーション医学」という新しい医学が50年前に誕生する前後の入り組んだ事情、100年前にまでさかのぼっての、世界的な視野を含めたその歴史的背景、そしてその後の今日に至る50年間の歩みを概観してみたい。これからのリハビリテーション医学を担う人々に歴史を知っていただき、今後のさらなる発展に向けて役立てていただく、「温故知新」(古きをたずねて新しきを知る)を願ってのことである。
 公的な歴史の中に適宜「自分史」や、時には「秘話」も披露しつつ書いた。

 なおここで、本書の読み方について一言したい。それは、「リハビリテーションとは何か」という、本来はいちばん大事なことを、構成の関係で最後の6章で論じるようにしたことである。本書を読まれるような方にとっては「リハビリテーションとは何か」ということは考えるまでもない自明のことかもしれない。しかし現実には、「リハビリテーション」の理念と実際についてはさまざまな理解の仕方があるのであり、本書の大きな目的の一つは、歴史を振り返ることを通じてその理解を深めていただくことにある。
 それは例えば、「『リハビリテーション』とは『総合リハビリテーション』であり、『リハビリテーション医学』はその一部をなす」ということであり、「リハビリテーションの目的はクライエント(患者・障害者・利用者)の、可能なかぎり最も高い『参加』(ICF概念)を実現することである」ということでもある。
 このように本書にとって6章は重要なので、まず6章を先に読んでから、それを念頭に置きつつ1章以下の「リハビリテーションの歩み」をたどるという読み方もよいと思われる。

 いずれにせよ、日本と世界の、リハビリテーションの「源流」をたどりつつ、その「これから」を考える旅にようこそ!ご一緒に50年前、100年前からの「歩み」をたどりつつ、常に「これから」を念頭において考えるという旅に出ましょう。

開く

序にかえて

第1章 現代的リハビリテーション医学が生まれた年 50年前の日本
  日本リハビリテーション医学会創立まで-二つの流れが融合して
  清瀬のリハビリテーション学院と理学療法士・作業療法士資格制度
  東京大学病院リハビリテーション部

第2章 リハビリテーションの萌芽をたずねて 100~50年前の日本
  「小児の時代」-肢体不自由児の療育を中心に
  「青年・成人の時代」-第二次世界大戦中から戦後まで
  「高齢者の時代」-温泉病院から「都市型リハビリテーション」へ

第3章 リハビリテーションの源流から「リハビリテーション医学」の誕生まで
 100~50年前の世界
  第一次世界大戦のインパクト
  戦間期のアメリカ
  第二次世界大戦の衝撃

第4章 再び50年前の日本へ 私は1963年をどう迎えたか
  幼少期
  医師となるまで
  リハビリテーションの道に入る
  そしてニューヨークへ

第5章 この50年の歩み 日本と世界のリハビリテーション医学
  日本リハビリテーション医学会の歩み
  大学におけるリハビリテーション医学の臨床・教育・研究体制の整備
  関連専門職の歩み
  リハビリテーション関係諸制度の歩み
  対象疾患・障害の変遷とリハビリテーション医学の課題の変化

第6章 リハビリテーションのこれから 「総合リハビリテーション」をめざして
  「リハビリテーション」と「総合リハビリテーション」
  リハビリテーションの基本理念の深化
  「障害」に関する基本思想の変化-ICFを中心に

おわりに

開く

これからの臨床が進む方向を照らし出す
書評者: 黒川 幸雄 (国際医療福祉大大学院教授・応用理学療法学)
 本書著者の上田敏先生(以下先生)は,わが国はもとより世界のリハビリテーション医学医療に精通し,その発展に尽力されてきました。世界的にご高名で,多くの歴史的人物と交流されています。また,優れた文章力と語学力(会話力,英語,ロシア語,フランス語,他)を発揮され,多くの著作物や関連の知的生産物を世に送り出されています。本書は,半世紀以上にわたる先生の膨大な資料を基にまとめられたものです。

 第一にお伝えしたいのは,本書から得られるものが,過去の埋没しかかった歴史的事実に光を当てたに留まらず,顕在した知識などとの整合性や関連性などを結び付け,リハビリテーションに携わる者がリハビリテーションの流れを源流から大河へ発展する流れを認識する上で,座右の銘にたる思想が随所にちりばめられているということです。

 以下,本書の構成に沿って紹介しますが,どの章も深く読み込むほどに燻し銀のごとく,質量の厚みと輝きを感じます。読み進むうちにリハビリテーションの歩んできた過去と現在までの軌跡が照らし出され,未来への明るい方向を感知することになるでしょう。

 さて,本書は,「日本リハビリテーション医学会が生まれた決定的瞬間-1963年4月阪大講堂で何が起こったか」と,やや推理小説的なエピソードの紹介から始まります。スタンレー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』を彷彿とさせる,リハビリテーションの過去へと旅立つ先生の遊び心や人生への想いが感じられます。全体は6つの章で構成されています。300頁余りの分量ですが,本書の「おわりに」にもあるように,背景には膨大な資料が存在しています。そこから厳選された情報が,周到な構成で配置されています。わが国のリハビリテーションの歴史に関する資料的な価値が高いことはもちろんですが,退屈になりがちな資料集とは一線を画している点が本書の魅力で,面白く引き込まれます。

 第1章では,「日本リハビリテーション医学会」「清瀬のリハビリテーション学院」「東京大学病院リハビリテーション部」,これらの3つの創立の経緯が詳しく述べられています。先生をはじめ,当時の若きエース達の情熱的な姿が生き生きと描かれています。第2章では「リハビリテーションの萌芽をたずねて—100~50年前の日本」として,100年前までさかのぼって歴史的な発展をたどっています。第3章は「100~50年前の世界」への旅です。第4章「再び50年前の日本へ—私は1963年をどう迎えたか」は自叙伝で,先生の生い立ちから,青春時代,ニューヨークへの留学,そこでのラスク教授との邂逅が述べられています,この部分は非常に興味を持たれるのではないでしょうか(たまたま評者も留学中に大学病院の玄関前でバッタリお見かけし,すれ違い……)。

 第5章は「この50年の歩み—日本と世界のリハビリテーション医学」が俯瞰され,第6章の「リハビリテーションのこれから—『総合リハビリテーション』をめざして」ではリハビリテーションを「全人間的な復権」のための方法論として展開され,WHOのICFが一つの到達点として示されています。基本思想との関連からICFが到達した思想と現実の関係を指し示し,これからの臨床が進む方向を照らし出しています。ICFのわが国への展開者であり,けん引者であり,一貫したリーダーである先生は,時代の中にいました。先生の人生がリハビリテーションの時代的発展と重なって見えます。

 本書がリハビリテーション医学医療にとどまらず,広くリハビリテーション一般に及ぶことを信じて,多くの読者の目に触れられ,手に取られ,そして多くの関係者の自らの現在とその存在の原点にまでアウフへーベン(止揚)されることを期待してやみません。

開く

本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

正誤表はこちら

タグキーワード

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。