MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2014.03.10
Medical Library 書評・新刊案内
相川 直樹 監修
堀 進悟,藤島 清太郎 編
《評 者》行岡 哲男(日本救急医学会代表理事/東医大主任教授・救急医学)
症候からのアプローチを重視し,読者への配慮も行き届いたマニュアル
本書は読む前にまず手に取り,その感触を確かめてほしい。サイズ,重さのことである。白衣に入るが,少し重くこれが存在感を感じさせる。この重さが不思議なことに安心感につながる。そしてポケットからこれを取り出してみてほしい。入れる動作より,取り出すのが容易である。臨床現場で持ち歩くべき本書は,取り出すこと(欲しい情報にたどり着く過程)がスムーズでなければならず,その点で心地良い本である。
ページを閉じたまま前小口(背表紙の反対側)を見ると,各章の分量が青い色分けの厚さでわかる。最も分厚いのは第4章「症候からみたER診療」である。救急診療は症候論的アプローチが重要であり,本書の執筆姿勢をこんなところからうかがうことができる。
さて,本のページを開いたら468ページから始まる「資料」を確認してほしい。救急診療やその後のカンファレンスで「え~っ,あれは……」と確認したい資料が並んでいる。その前の「救急医療関連事項」も,現場で確認を要することが並べられている。版を重ねる本には特徴があると思う。読み手(本書の場合はエンドユーザー)への配慮である。特に実用書では,これが極めて重要であり本書が版を重ねてきた理由もここにある。既に述べたように第4章が最も分量が多く,その中でも,38ページから60ページまでの「ショック」は編者らのライフワークでもあり内容が充実している。
本書には全編を通じ「POINT」と表記された記述が約140項目ある。本書を使い込んだ人は,これを通し読みすることで本書の内容を総覧し再確認することができる。情報の粒度は必ずしも統一されてはいないが,これは気にならない。「POINT」はまとめではなく,それぞれの執筆担当者がどこに力点を置いたのか,その執筆者の思いが凝縮したものである。したがって,初読者がこれを読んで本書の内容を理解しようとするのは間違いである。
本書の使い始めの段階では,自分が経験した事例を,直後に当該事例の記載ページで確かめることになるだろう。または,診療には必ず間があくときがある,その間に当該事例にかかわる記載内容を確認にして,これを手掛かりに次の診療の展開に備えることができる。しかし,それにはあらかじめの通読が必要になるが,その価値はある本だと思う。
「第5版の序」にも書かれているが,本書は線を引いたり,書き込みをして使うべきものがある。しかし,コンパクト性を追求した結果か,書き込みのスペースは限られている。各節の終わりのスペースを活用する必要もあろう。この場合の書き込みには,関連ページの記載が必要であるが,この自分の書き込みを自由に使えるようになれば,それが本書を卒業するときとなろう。レジデントが本書を使い込み,これを窓口として救急診療のより深部へと進むことを願っている。
B6変・頁536 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01874-6


森皆 ねじ子 著
《評 者》山中 克郎(藤田保衛大教授・救急総合内科)
診察が醸し出す「匠の技」を探求したくなる一冊
名探偵シャーロック・ホームズの推理と医師による診断の類似性からこの本の前書きは始まる。古くから,患者が語る病歴と身体診察だけで90%の診断ができると言われる。医師に必要なことは,(1)幅広く奥深い医学知識,(2)診察時の鋭い観察力,(3)病名を推理する力なのだ。
発熱のために来院した中高年の女性を診察したとき,「先生は聴診器を使うのですね。わたくし5年間,高血圧のために近くの病院に通院していますが,初めて聴診してもらいました」と言われビックリしたことがある。きっと忙しい病院なのだろう。それとも「萌え聴診器」……医者はここにいますという案内板として聴診器はもてはやされるだけになってしまったのか。疾患の見逃しで訴えられては困るからという防衛反応からか,最近は検査が大流行である。それがいけないと言っているのではない。しかし,患者の訴えに耳を傾け静かに聴診器を当てて,心雑音の性状から「大動脈弁狭窄症ですね」とつぶやくほうが,医師の技量を示す豊かな物語に満ちている。
一般的な診察法はオスキー(客観的臨床能力試験)で習うが,これはお作法である。忙しい外来で頭のてっぺんから足先までゆっくりと診察する時間はない。身体診察の教科書はたくさんあるが,重要点がわかりにくい。医学生や初期研修医は,本書を見て大切なポイントをまず学んで欲しい。ねじ子先生による診察での細かな注意点が,かわいいイラスト付きで書かれているので楽しみながら学習ができる。
もう一度基本的な身体所見を勉強しようと考えているベテラン医師にもお薦めである。何となくやってきたルーチンの診察に対する改善のアイデアが随所にある。打診では指をしっかりと胸壁...
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