医学界新聞

寄稿

2014.02.03

【投稿】

今見直すべき,終末期腎不全医療の在り方

石川 英昭(東海中央病院腎臓内科医長)


その患者にとって透析治療は必要か

 病状が進行した慢性腎不全患者は,ある時期から腎代替療法が必要となることが広く知られています。そんな患者に対するわれわれ腎臓内科医の重要な職務は,治療方針として,血液透析,腹膜透析,腎移植についての説明を十分に行い,患者がふさわしい治療を選ぶお手伝いをすることです。しかし,昨今,非常に高齢であったり,進行癌で余命いくばくもないであろう慢性腎不全患者を診察する機会が増えており,事情が変わってきています。

 腎代替療法は,おもに中年から壮年期の慢性腎不全患者の社会復帰を支援する治療法として広く用いられてきました。最近では高齢の慢性腎不全患者にも適用されていますが,なかには社会復帰できるほどの回復が得られず,結果的に延命治療と解釈せざるを得ないケースも増えてきました。こうした状況は,治療を受ける患者や治療を提供する腎臓内科医等の透析スタッフに,これまであまり意識されてこなかった難しい問題を提起しつつあります。すなわち,その患者さんにとって「透析治療は必要か」「近い将来,死が不可避と予想される場合,身体的負担となる透析治療の継続は必要か」という問題です。「終末期腎不全医療」では,こうした問題と向き合い,腎代替療法を必要とする患者への適切な治療提供と,現在透析を受けている患者の看取りについて,考えていかなければなりません。

慢性腎不全患者の透析離脱例に学ぶ

 当院でも,透析離脱を余儀なくされたケースを経験しました。患者は,拡張不全による慢性心不全と認知症を併発した85歳の男性。高血圧などによる末期腎不全で,透析適応の病態となっていました。安静保持の理解困難のため,ご家族主導の腹膜透析を開始したものの,鼠経ヘルニアが原因で陰嚢水腫を合併。腹膜透析の中断,緊急の血液透析を実施するも,不穏のため安全な実施が困難となりました。

 当初は,透析導入による病状改善への期待があり,介護負担の少ない腹膜透析を導入したものの,合併症による中断や血液透析の実施困難という現実に,ご家族は透析継続以外の選択肢を想起せざるを得ない状況でした。そこで,医療者のほうからご家族に,抑制して血液透析を継続するという方法と,透析離脱と緩和医療の併用という二つの選択肢を提案。検討の末にご家族が希望されたのは,透析離脱と緩和医療でした。

 残腎機能が多少は維持されていたこともあり,この患者は透析離脱後約5か月間,通院での経過観察が可能でした。最終的には呼吸困難で再入院しましたが,緩和ケア専門医の助言に基づいてモルヒネを投与し,ご家族に囲まれて穏やかな最期を迎えられました。患者家族には苦渋の決断を迫ることにはなりましたが,今回の治療経過,意思決定の過程に十分納得されたご様子でした。この経験から,透析の開始と継続に関して,“治療への意思決定プロセス”こそが,終末期医療ではもっとも大切であると痛感した次第です。

患者の主体的な決定を尊重できる医療環境の整備を

 透析医療の導入に際しては,従来の腎代替療法に関する説明に加え,透析非導入という選択肢についても言及し,その後の経過につい...

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