医学界新聞

寄稿

2014.01.27

【視点】

看護・介護・福祉の省察的実践家を育てる

鶴岡 浩樹(日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科教授/つるかめ診療所所長)


 在宅介護の現場ではさまざまな局面に遭遇する。学校で学んだことが通用しない。専門家に相談してもわからない。実践家なら誰でも思い当たる事例があるだろう。病気やADLだけならともかく,生活環境,人間関係,社会資源,経済状況など,考慮することが多すぎる。モヤモヤしたまま見過ごしてはいないだろうか。現場は複雑な事柄が絡み合い,Schönの言う省察しながら柔軟に対応する「省察的実践(reflective practice)」が必要だ。

◆日本で唯一の試みとなる,介護福祉の省察的実践家養成

 私は総合医として20年地域医療に従事し,多職種協働を要する在宅医療に身を投じてきた。現場で感じることは,状況を見極め,考えて行動できる介護福祉の専門職が少ないことだ。東日本大震災の際,指示を待っていては間に合わない場面に遭遇し,この印象は確信に変わった。2025年問題を思うと危機感が募り,人材育成にかかわりたいと思った。

 省察的実践家の育成には,自らの経験を学習材料とすることが望ましい。現場の経験は強烈な「学び」の動機付けとなり,これを克服することで実践力がつく。しかし,これを叶える専門職のための学びの場は少ない。どのように学べば,専門職として成長でき,患者や利用者に還元できるのだろう。

 当学当科は日本で唯一の福祉系専門職大学院であり,介護福祉の省察的実践家の養成を目標とする。院生は社会福祉士や精神保健福祉士のほか,看護師,保健師,ケアマネジャー,介護福祉士,弁護士,作業療法士,介護施設や福祉施設の管理者,行政職員など幅広い。週末に,夜にと授業が組まれ,院生の87%が仕事を続けながら通学する。

 院生はまず自職場で経験したモヤモヤを言語化する作業に着手する。同時に,個々の事例を深く掘り下げる対話式の授業が進む。上手くいったときもいかないときも,「なぜ?」と振り返る。考えの道筋は妥当か,情報に不足はないか,主観が入りすぎていないか,根拠に基づいているか,批判的に省察していく。院生が置かれた「場」を軸足に,専門職としてできることに焦点を当てる。経験学習の中で,省察・批判的思考・対話を繰り返すことで,熟達化を促し,リーダーシップを育む。

 専門職大学院の醍醐味は何と言ってもゼミである。院生は各教員のゼミに所属し,1年ないし2年かけて自職場で実践研究を行う。私のゼミは看護師やケアマネジャーが在籍し,在宅ケアに関するテーマを扱う。院生のアクションによって現場が変わる様子を目の当たりにすると,従来のアカデミズムとは異なる新しい知識生産の在り方を感じる。

 多様な専門職,多様な立場の院生がつくりあげる空間と時間は,実に刺激的である。年代も立場も異なる院生たちは相互に影響を受け,第二の青春時代を迎えている。人は何歳からでも成長できる。学び舎を巣立った修了生が,現場で省察的実践を行い,その文化が地域に伝播することで,地域力は向上するに違いない。その地道な試みこそ,質の高い地域包括ケアにつながる。


鶴岡浩樹
1993年順大医学部卒。自治医大地域医療学教室,藤沢町民病院(現・藤沢市民病院)内科,ケース・ウェスタン・リザーブ大家庭医療学講座,自治医大病院総合診療部を経て,2007年につるかめ診療所設立。13年より日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科で教鞭を執る。日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医。

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