“国際基準”の医師に必要な言語技術を(後編) 世界の医療現場で求められる言語技術スキル(三森ゆりか)
寄稿
2013.12.02
【寄稿】
“国際基準”の医師に必要な言語技術を(後編)
世界の医療現場で求められる言語技術スキル
三森 ゆりか(つくば言語技術教育研究所 所長)
(前編はこちら)
前編では,世界医学教育連盟(World Federation for Medical Education)が「国際基準の医学教育」において,「コミュニケーション」と「分析および批判的思考」の重視を提言するとき,当然のこととして想定されている「言語技術」の概要を示した。
後編では,学校教育の中で言語技術を学習していない日本の医学生が,最低限身につけるべきスキルを具体的に紹介する。日本人が言葉を道具として使いながら,国内に限らず,世界の現場で医療行為をするためには,「分析的・批判的思考」「物語」「説明」を身につけておく必要があるだろう。
分析的・批判的思考を養う「絵の分析」
観察力と分析力・批判的思考力の訓練に有効なのが,「絵の分析」と「テクストの分析」である。紙面の都合上,本稿では「絵の分析」のみ紹介する。
「絵の分析」とは,対象とする絵画やイラストが「なぜそのように見えるのか」について,絵に描かれた事実(データ)からその根拠を分析し,提示する訓練である。詳細な観察力と描かれた個々の事柄の因果関係を深く考察する力を養うのに有効である。「絵の分析」では基本的には次の観点から考察する(なお,内容や意味が含まれる絵画やイラストのタイトルを参加者に知らせるのは分析終了後である)。
(1)設定……場所,季節,天気,時間,時代背景等
(2)人物……性別,年齢,所属,職業,階級,性格,感情,その他人物にかかわること等
(3)状況……絵の中の状況(登場人物が何を考え,どんな行動をしているか等)
(4)その他……象徴性のあるもの,音・香り・色の意味,作者の背景等
ヘンリー・ウォリス(Henry Wallis)の作品「チャタートンの死(The Death of Chatterton)」を用いて,どのようなことを分析し,提示することができるかを下記に例示した。この訓練では,絵画に示された事実を証拠に,参加者は自らの解釈を論証することが求められる。このような絵の分析は,患者の態度や表情,患部の観察・分析力の向上に直結する。また,対象を分析的に見る能力を一度獲得すると,事柄の因果関係や背景についての考察も可能となり,結果的に分析的・批判的思考能力の向上へとつながるのである。
医学教育の分野においては,イェール大医学部名誉教授ブレーヴァーマン(Irwin Braverman)博士が,医学部1年生の必修科目「Observational Skills」1)の中で,医学生の観察力の向上を目的に絵の分析を取り入れている。筆者の指導する「絵の分析」と,博士の「Observational Skills」における絵の観察の実施方法が非常に似通っていることから,10年ほど前から筆者と情報交換を行っている。
◆絵画を用いた「絵の分析」例
【設定(場所)】
|
「物語の構造」を踏まえた説明
思考した内容を提示するための方法をブラッシュアップすることも不可欠である。言語技術を指導する国々では,「物語」は,子供が楽しむものとしてあるだけでなく,人の心に寄り添って話す際に重要なスキルの養成にもつながると考えられており,実際に高校卒業まで“物語る”訓練が実施されている。
この物語る能力は,病状をめぐり,人の精神の在り方にも影響を与えかねない立場にある医師には特に不可欠と言えるだろう。例えば,重大な病気を抱え,その先行きに不安を抱えている患者に対し,問答形式で結論と理由だけを手...
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