医学界新聞

2013.11.25

Medical Library 書評・新刊案内


単純X線写真の読み方・使い方

黒崎 喜久 編

《評 者》木村 文子(埼玉医大国際医療センター教授・画像診断学)

単純X線写真の読み方をわかりやすく説明した一冊

 本書の特徴は,単純X線写真の所見を記し,その所見を得るために必要な解剖や疾患の知識が簡潔にまとめられていることである。最初にCR画像の基礎知識,次に領域別の各論(頭部・頭頸部,胸部,腹部,骨軟部組織)を掲載し,単純X線写真が最も威力を発する胸部と骨軟部組織領域に多くのページを割いている。各項目はコンパクトにまとまっているが,最新の疾患概念にも言及し,さらに,単純X線写真の横に答えとなるCTやMRI画像を掲載した理解しやすい本である。研修医必携の一冊であるとともに,放射線診断,内科,外科のスタッフも,楽しく知識を確認することができ,日常の臨床に役立つ良書である。大先輩の先生方により執筆された「ビューワー」(フィルムレス時代に合わせて「しゃーかすてん」から変更になったとの記述あり)と名付けられた10編のコラムは,画像診断のうんちくや読影力向上の極意が含まれ,読んで楽しく,大変ためになる。

 本書の編集者である黒崎喜久先生は,頭頸部領域や超音波診断の第一人者であり,多くの著書や論文を執筆されている。しかし,私は,黒崎先生はそのような分野にとどまらず,あらゆる領域の画像診断に造詣が深い,general radiologistの代表選手だと思っている。黒崎先生は,私に画像診断の楽しさと奥の深さを教えてくださり,画像診断の「いろは」をたたき込んでくださった恩師である。私が研修医であったころ,黒崎先生から読破するように薦められた本は,『Paul and Juhl’s Essentials of Radiologic Imaging』であった。本書『単純X線写真の読み方・使い方』を読み終えたとき,Paul and Juhlを思い出した。本書は,名著Paul and Juhlをコンパクトにし,さらに最新の疾患概念を付け加えた本であるといえるのではないだろうか。

 医学は急速に変化し,現在では,画像診断にCT・MRI診断の占める比重が大変大きくなった。特に多列検出器CTが出現して以降,画像診断を専門とする放射線科医が,CT・MRIの件数の増加のため,単純X線写真を読影できなくなった施設が多い。しかし,単純X線写真は,簡便,安価,低被曝であり,さらに,病変を一目で俯瞰でき,前回検査と簡単に比較できるという利点がある。患者さんが外来受診された際に,最初に行われる画像診断であることは周知の事実である。本書は,単純X線写真のみでなく,CTやMRI診断にも造詣の深い各領域のエキスパートにより分担執筆されている。1枚の単純X線写真からここまで診断してやるという執筆者の意気込みを感じることのできる一冊であり,本書精読後には,単純X線写真の良さを再確認し,日常臨床の姿勢が変わってくることは間違いないと思われる。

B5・頁408 定価7,140円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01568-4


SHDインターベンション ハンドブック

ストラクチャークラブ・ジャパン 監修
古田 晃,原 英彦,有田 武史,森野 禎浩 編

《評 者》山口 徹(虎の門病院顧問)

SHDに対するカテーテル治療の本邦初の解説書

 循環器領域に,最近“SHD”という聞き慣れない言葉が登場し,特にカテーテルインターベンションの領域で注目されている。SHDとは「Structural Heart Disease」の略で,もともと心臓の構造的異常に起因する疾患群,すなわち弁膜症や先天性心疾患などを意味するが,この領域でもインターベンション治療が可能になったことで,SHDという言葉が注目され始めたわけだ。本書は,そのSHDに対するカテーテル治療の本邦初の解説書である。

 SHDの治療は,その解剖学的異常を修復できる外科治療が唯一のものであったが,カテーテル治療デバイスの進歩により,弁膜症なども経皮的カテーテル治療の対象となるパラダイムシフトが起きつつある。虚血性心疾患において,冠動脈バイパス術に取って代わった,経皮的冠動脈インターベンションと同じ変革である。高齢化社会もこれを後押ししている。大動脈弁狭窄症のように高齢化に伴って増加する疾患群では,侵襲的外科手術がしばしば難しく,より低侵襲な治療法が求められるからである。SHDインターベンションの進歩はわが国の高齢患者にとって大きな福音であるが,実は世界に大きな遅れをとっている。

 弁膜症に対するインターベンション治療の歴史をひも解くと,わが国の井上寛治の先駆的業績が光る。1982年僧帽弁狭窄症に対して井上バルーンによる経皮的僧帽弁交連切開術(PTMC)を成功させ,今日でも世界の標準的カテーテル治療となっている。PTMCを積極的に行い,対象となる患者がわが国ではほとんどいなくなったことを経験した著者らには,これ以後のわが国のSHDインターベンションの停滞は歯がゆいものであった。SHDインターベンションの代表である大動脈弁狭窄症に対するステント大動脈弁置換術(TAVI)も,ようやく近々わが国で承認される予定であるが,2002年に始まった本法の恩恵に浴した患者は既に5万例を超え,その遅れは大きい。

 本書は,この遅れに歯ぎしりする若手インターベンション専門医が立ち上げた勉強会「ストラクチャークラブ・ジャパン」が,この領域での進歩をまとめ上げた成果である。弁膜症と心房中隔欠損症などの先天性シャント疾患を中心に,病態生理と臨床マネジメント,それを踏まえての治療デバイスの仕組み,成績,施術上の問題点などが,最新データを含めてまとめられている。勉強会メンバーの熱い思いが随所に読み取れ,SHDインターベンションの何たるかを知る格好の好著である。SHDインターベンションでは,冠動脈インターベンション以上に,インターベンション専門医と循環器外科医,画像診断医,麻酔医などとの「ハートチーム」の存在が不可欠である。その意味でも,SHDインターベンションへの取り組みは,わが国のインターベンション界に新しい息吹を吹き込むことになろう。「ストラクチャークラブ・ジャパン」メンバーの活躍が,わが国と世界との格差を一気に縮め,わが国での新しいインターベンション治療の開発につながることを期待したい。

B5・頁240 定価6,825円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01708-4


基礎から学ぶ楽しい学会発表・論文執筆

中村 好一 著

《評 者》若林 チヒロ(埼玉県立大学准教授・生活科学)

著者が長年蓄積してきたノウハウを惜しげもなく伝授

 疫学研究の方法を解説した,「楽しい研究」シリーズ第一弾『基礎から学ぶ楽しい疫学』は,「黄色い本」として辞書代わりに活用している人も多い。第二弾として今回出版された「青い本」では,研究の発表方法を一から学べるようになっており,やはり長く使い続けることになるであろう。疫学や公衆衛生学をリードしてきた研究者であり,医学生や保健医療者の研究指導をしてきた教育者でもある著者が,長年蓄積してきた学会発表や論文執筆の方法を惜しげもなく伝授してくれている。さらに,学術誌の編集委員長を務めてきた経験から,査読者の視点や意識まで解説してくれている。2年間に及ぶ連載をまとめただけあって,ノウハウが詰まった濃い一冊である。

 この本はコメディカルや大学院生など研究の初学者向けに執筆した,と著者は書いている。発表する学会の選び方や抄録の書き方,口演での話し方からポスター用紙の種類まで,至れり尽くせりで効果的な学会発表のノウハウが示されており,確かに初学者が「基礎から」学べるようになっている。しかしこの本は,キャリアのある臨床家や研究者が,よりインパクトのある発表をしたり,より採択されやすい論文を執筆したりするためにも,十分に適している。「基礎から,かなり高度なレベルまで」学べるようになっているのである。

 特に必読なのは,論文執筆の項。「論文の緒言で書くべきこと,書くべきではないことは何か?」「緒言と考察の内容はどのように書き分けるか?」「読者をひきつける結果の書き方は?」など,事例を示しながら解説してくれている。さらに,著者はJournal of Epidemiology(日本疫学会刊行)の編集委員長を務めた経験から,印象のよいカバーレターや査読者への返信の文案を事例で示し,採択されやすい論文について懇切丁寧に教えてくれている。掲載不能,いわゆるボツ原稿を受け取っても,「めげずに元気を出して,別の雑誌に投稿する」ための,気持ちの立て直し方まで書かれている。

 職人技ともいえるノウハウをここまでオープンにしてくれるのは,著者がこの本を書いたモチベーションによるのだろう。医師やコメディカルは経験知を共有することで,より良い技術を開発したり新たなパラダイムを展開したりできるが,特に保健領域では,論文が公表されにくいため経験知が蓄積されておらず,各地で同じ問題に直面している場合が多いという。「対象が異なれば公表する意味がある」。臆せずにそれぞれのフィールドでの経験知を論文化してほしいという著者の熱意が,この本での細やかな配慮につながっている。

 黄色い本にはコラムファンが多いとのこと。青い本書でも,満載のコラムが面白い。本文と合わせて読み進めると,一歩踏み込んで理解が深まるようにできている。仲間や指導者と雑談をして研究をブラッシュアップしているような,そんなうまみのあるコラムである。

A5・頁240 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01797-8


産婦人科外来処方マニュアル
第4版

青野 敏博,苛原 稔 編

《評 者》水沼 英樹(弘前大教授・産科婦人科学)

最も適切な薬剤が選択できる研修医必携の書

 『産婦人科外来処方マニュアル 第4版』が発刊された。産婦人科の泰斗である青野敏博徳島大学名誉教授と,その青野先生の薫陶を受け,また評者の友人として親しくお付き合いいただいている徳島大学医学部産科婦人科の苛原稔教授が編者となって,徳島大学産科婦人科の現教室員やOBが総力を挙げて編集している処方マニュアルの改訂版である。

 本書は,産婦人科の外来診療の中で日常的に遭遇する疾患に焦点を当て,その診断がついた段階で,どのように薬剤の選択を行うかを極めて明快かつ簡潔にまとめた一冊である。目前の患者に対し,最も適切な薬剤が容易に選択できるよう,そのための工夫が随所に施された内容となっている。

 まず,産婦人科外来で遭遇する疾患の診断名と使用頻度の高い薬物療法の計70項目を選出し,これらを1.周産期,2.内分泌,3.不妊,4.感染症,5.腫瘍,6.その他,の6群に分類し,1から70の通し番号をつけている。このため,本書の利用者は,疾患群から目的とする病名に容易に到達でき,さらに,その通し番号を指標とすることによって,いとも簡単に目的とする疾患の治療薬に到達できる。この通し番号の存在によって,従来の書籍にしばしばありがちであった,ページをめくり返すという煩わしさから完全に解放されることになった。

 また,本書は,ミニマムリクワイアメントに徹しており,その疾患の概略,疾患の治療目的,方針は極めて的確かつ簡潔にまとめられ,すぐに具体的な処方例が提示される。しかも,各処方例の冒頭には,「〇〇の場合」と,その処方を選択する場合の要件が付けられているので,本書の利用者は,迷うことなく目前の患者に対して最も適切な薬物の選択が可能となる。続いて,なぜその処方を行うかの医学的根拠と薬剤の副作用を含めた必要最低限の説明が「処方の解説」「薬剤の解説」として付けられているので,その薬剤の選択に関してのインフォームドコンセント取得にも十分役立つような配慮がなされている。さらに,付録としてステロイドホルモン,抗生物質の一覧表や主な剤形番号一覧表,そして産婦人科外来で使用する主な薬剤の警告集が掲載されているのも便利である。

 産科婦人科学は周産期医学,生殖医学,腫瘍学,女性医学の4つの専門分野を領するが,本書はどの分野をも網羅しているので,専門領域に関係なく外来診療に携わるすべての産婦人科医にとって利便性が高くかつ教育的なマニュアルとなっている。さらに,ポケットに納まるサイズであるため,忙しく院内を駆け回る研修医にとっては必携の書として推薦できる一冊である。

B6変・頁232 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01749-7


《眼科臨床エキスパート》
All About開放隅角緑内障

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
山本 哲也,谷原 秀信 編

《評 者》新家 眞(関東中央病院病院長/東大名誉教授)

臨床と基礎の現在が体系的に理解できる1冊

 《眼科臨床エキスパート》という新シリーズが医学書院から新たに刊行されることとなり,『All About開放隅角緑内障』がそのシリーズ嚆矢として出版された。このようなシリーズ本は,かつて『眼科プラクティス』(文光堂)などいくつかが刊行されたが,本シリーズの竜骨はその道のエキスパートの経験とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」をわかりやすく〈解説する〉ことにあるとされている。従来このようなシリーズ本では,例えば眼科プラクティス「緑内障診療の○△……」というようなタイトルで,緑内障全体が一冊にまとめられるのが常であったし,また医学書院より2004年に刊行された北澤克明岐阜大名誉教授監修の教科書『緑内障』でも開放隅角緑内障についてはその約十分の一が費やされていたにすぎない。しかるに本書『All About開放隅角緑内障』は開放隅角緑内障に的を絞って約400ページの大部である。眼科の中の一疾患群のさらにその中の一疾患に対して「All About」と題するために400ページ一冊を要するということは,近年の開放隅角緑内障に対する新知識・新知見の集積の速さを実感させられる。しかも,編者が序で述べているように,本書は開放隅角緑内障に関する,最先端も含めた知識のすべてを詰め込んだ百科事典的レビューをめざしたものではなく,精読すべき教科書として上梓されたとある。ページを開いてみると,いわゆる「明日からの臨床にすぐに役立つ」○△シリーズ本とは,少し趣きを異にしている。まず最初に全体の45%の頁数が,開放隅角緑内障という眼疾の本態の理解のために費やされている。この前半を読了しない者は,次の診断,治療の項を読む資格がない。すなわち開放隅角緑内障患者を外来診療する資格がないとまでは言わぬとも,常に病態の本質をわれわれが現時点でどこまでかわかっており,どこからがわかっていないかを理解した上で,患眼を診察・治療すべきという編者の緑内障研究者としての矜持が伝わってくるようである。このような順序で読み進めていけば,診断のために近年開発されたいくつかの新しい方法論の必要性と限界,およびそれらにより得られた所見も理解しやすく,種々薬物や術式の選択の必然性もおのずと読者が理論的に納得できるのではないだろうか?

 診断,治療の項を読みつつ,常に前半を参照すれば,開放隅角緑内障の実際臨床と基礎の現在進行形が,より体系的に理解できるようになると思われる。本書により,40歳以上で約4%の有病率と考えられている開放隅角緑内障患者のわが国における診断と治療のレベルが一段とステージアップすることはもちろんとしても,「もっと原発開放隅角緑内障がわかりたい」と思う若い眼科医も増えるのではないかという期待もできそうである。

 よい教科書というのは,その内容をよく読者に理解させてくれるだけでなく,内容に対して読者の興味と好奇心をも刺激するものでなくてはいけない。2人の編集者の方の労が大賀さるべく,本書が広く活用されることを望みたい。

B5・頁420 定価17,850円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01766-4

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