医学界新聞

2013.11.04

Medical Library 書評・新刊案内


今日の神経疾患治療指針 第2版

水澤 英洋,鈴木 則宏,梶 龍兒,吉良 潤一,神田 隆,齊藤 延人 編

《評 者》柳澤 信夫(東京工科大医療保健学部長/信州大名誉教授)

神経疾患診療の進歩を現した治療指針の辞典

 このたび『今日の神経疾患治療指針第2版』が上梓された。これは1994年に出版された第1版の続編の形をとっているが,その内容は全く一新され,過去十数年にわたる神経疾患診療の進歩をそのまま表した内容となっている。第1版では,現在の神経内科の診療領域に限らず,精神科,脳神経外科,リハビリテーション科など関連領域のテーマについても,幅広く,おのおのの専門家によって執筆された。

 このたび全面改訂された第2版では,過去十数年に大きく発展した頻度の多い疾患から希少疾患までの最新の治療が,基本的なガイドラインに沿って丁寧に,かつわかりやすく記述されている。本書の編集者は日本神経学会代表理事の東京医科歯科大学大学院水澤英洋教授を筆頭に,異なる専門分野の神経内科教授5人,脳神経外科教授1人からなり,(1)頻度の多い症候の病態と鑑別,(2)各種治療法の特徴と副作用,(3)個別疾患の治療法に分けて,おのおのの疾患,病態の専門家によって記述されている。

 第1章「症候と鑑別診断」では,意識障害,認知症,てんかん,頭痛,めまい,失神など,頻度の多い神経症候について,定義,病態,診断,鑑別などが要領よくまとめられ,神経診断学のコンサイスとして大変優れている。そして第2章「治療総論」では,目的別に各種薬剤の作用機序,適応と副作用を丁寧に述べている。例を挙げると,近年新しく開発された脳血管障害に対する各種薬物は,基本的な抗血小板薬,抗凝固療法,血栓溶解薬に加えて,脳保護薬,脳循環代謝改善薬,脳浮腫治療薬などについても,個々の薬物ごとに,急性期の使用法を分刻みに評価し,年齢や基礎疾患への留意事項,全身管理の要点などが具体的に記述されている。そして疾患としての脳血管障害の治療方針は,各論において96ページを費やして,疾患ごとに病態,リハビリテーションに至るまで国際分類も含めて詳述されている。その結果どのような患者に遭遇しても,その治療について十分な情報がこの1冊で得られる構成となっている。これは編者,筆者ともに豊富な臨床経験の上に,個々の診療に必要な情報がどのようなものかを熟知して,文章の構成と内容が定められた成果と理解される。さらにすべての疾患において,家族への説明・指導が独立した項目として述べられており,診療内容のユニークさを高めるものとなっている。

 各種神経疾患の治療の進歩は,医学雑誌の特集として年々発刊されるが,それらは治療の進歩の動向を知る上で有益であるものの,臨床医にとって受け持った個別の患者に適した治療を選ぶエビデンスに基づく十分な知識はなかなか得られ難い。

 本書は文字通り個々の神経疾患患者の治療指針を得るための辞典として,さらに神経疾患の治療を通じて神経学をあらためて学び,医療の中で患者をどのように位置付けるべきかを考えさせる内容を含んだ,臨床医の座右に置き安心して参照できる書物となっている。

A5・頁1136 定価15,750円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01621-6


脳卒中機能評価・予後予測マニュアル

道免 和久 編

《評 者》大田 仁史(茨城県立健康プラザ・管理者)

機能評価と予後予測の海原を上手に舵取りするために

 いまや国民病と言われる脳卒中はリハビリテーションにかかわるすべての人に避けて通れない疾患である。しかも,脳卒中の現す病態はリハビリテーションに携わる者にとって勉強に事欠くことはない手ごわい対象でもある。現在,リハビリテーション医療の治療はエビデンスに基づいたものが強く要求されるようになり,中でもきちんとした機能評価と予後予測なしでプログラムを組むことは,めざすべき港のない漂流船が海図なしで暗闇の海原を航海するような無謀極まりないものと言われるようにさえなった。すなわち機能評価・予後予測は必須中の必須になっている。しかしその全貌を理解するためのわかりやすい書はこれまで見当たらなかった。

 本書には,評者が敬愛する道免和久教授の「患者のQOLをどう支えるか」というリハビリテーションの思想が基軸にあり,教授のリハビリテーションに対する熱い思いがこのマニュアル書を貫いていることがよくわかる。特に第I部の第1章から第4章は,あたかも道免教授から直接実践統計学の講義を受けているような気さえする。洗練された文章は読みやすく,しかも無駄がない。後期高齢者の筆者は,臨床にいるときに出合えばよかったという思いに包まれ,現在の臨床家は幸せだとさえ思った。

 本書には実際的な評価法が十二分に紹介されている一方で,時間や手間のかかり過ぎるのは一般には使われないとして評価法が精選されている。しかもエビデンスの高いものばかりである。その意味では脳卒中リハビリテーション医療の教科書的価値があると思う。

 本書は計IV部構成で,第I部は「予後予測のための脳卒中機能評価」で11章からなる。第II部は「脳卒中機能予後予測」で6章からなり,第III部の「予後予測の実践事例」では7つの症例が紹介されている。第IV部は「評価マニュアル」で,加えて2つの付録からなる。

 読者は,まず本書の全貌をつかむために,目次から第IV部の評価マニュアルまでページをめくってほしい。ついで第I部の1-4章の道免教授担当の章を読む。教授の思想を身につけるためである。理解は7割くらいでいいので1日のうちにここまで通読する。そして10章,11章に目を通す。これらの章は10章の一部を除いて道免教授が担当されたものである。

 本書の「序」で道免教授は「本書の最終的な目的は『よく当たる予測法』をマスターすることではない」とし,「多くの因子が関わる予後予測を適用しながら,これらのことを考える習慣が身についたとき,読者の臨床力はきわめて高いものになっていることであろう。さらには,(中略)予後予測に含まれない多様な臨床因子が頭の中に浮かび,患者のリハビリテーション後の帰結が確率分布のようにイメージできるようになるはずである」と読者にエールを送っている。

 脳卒中のリハビリテーションにかかわる全国のリハ医,PT,OT,STの座右の書にしてほしい。

B5・頁288 定価4,725円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01759-6


行って見て聞いた精神科病院の保護室

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