医学界新聞

寄稿

2013.10.14

【寄稿】

若手臨床研究者のための査読の心得

伊藤 康太(ニューイングランド大学医学部 内科・老年医学)


 昨今の研究不正の発覚を契機に,査読制度の不備がまたしても露呈しました。学術出版においては,投稿された論文を同じ分野で仕事をしている研究者仲間(Peers)に評価させ採否を決定する制度が定着しており,これを査読(Peer Review)と呼んでいます()。

 学術出版における査読プロセスの一例
米国内科学会誌の場合,投稿された原著論文の6割は編集部の裁定によって不受理となり,残る4割が複数の査読者へと割り振られる。最終的に受理される原著論文は全投稿論文のうち1割に満たない。

 年間数十万件に及ぶであろう学術論文の査読は,世界中の研究者の無償奉仕によって成り立っています。一方で,査読の有効性を実証した研究は乏しく,査読者の間で意見が割れることは日常的ですし,研究不正の見落としも今に始まったことではありません。ただ一つ言えるのは,かくも非科学的な制度が三世紀の長きにわたって学術社会を支えてきた過去と,おそらくこの先も支えていくであろう未来です。

 若手臨床研究者が論文の書き方を学ぶ上で,査読ほどの生きた教材はありません。しかしながら論文の執筆に比べ,査読について具体的な指導を受ける機会は限られているかもしれません。そこで若手臨床研究者を対象に,一査読者としての私見を述べたいと思います。)

未完成の論文を教育的かつ建設的に吟味する

 査読者には,果たすべき2つの役割があります。
*編集部にとってのレフェリー
*著者にとってのアドバイザー

 査読者はレフェリーとして,論文の採録の是非について編集部が適切な裁定を下せるよう助言します。このとき査読者は,自分の興味に合致するとか,自分の研究に役立つとかいった私的な事情を一切挟まず,学術誌の方向性と過去に採録された論文のレベルとを鑑みて,受理/条件付き受理/不受理のいずれかを選択しなければなりません。もちろん,どのような選択に至ろうと,査読の過程で論文内容が少しでも改善されるよう,全力を尽くして著者にアドバイスすることに変わりはありません。学術誌は星の数ほどあり,不受理となった論文もいずれはどこかの学術誌に採録される可能性が高いからです。

 査読とは本来,未完成の論文を教育的かつ建設的に吟味するクリエイティブな作業です。既に出版されている論文を批判的に吟味するレトロスペクティブな作業とは,当然ながら,その意味合いも異なります。私自身が特に注目するのは,以下の2点です。
*Is the question worth asking?(研究コンセプト)
*Is the answer worth getting?(研究デザイン)

 原著論文を読む能力と書く能力とは似て非なるものですが,査読者にはその両方がバランスよく備わっていなければなりません。論文の問題点を指摘すること(ネガティブ・フィードバック)が半ば目的化してしまった,チェックシートを埋めたような査読を目にすることもありますが,それだけでは不十分です。もし自分が著者の立場にあったなら,それらをどのように解決するか,そこまで踏み込んで提言することが査読者には求められます。

 さらに言えば,それらの問題点は承知の上で,その論文から読者にとって大切なメッセージをいかに導き出せるかを議論すること(ポジティブ・フィードバック)のほうがはるかに有意義でしょう。若手臨床研究者にとって,最新の知見をめぐって同分野の第一...

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