医学界新聞

寄稿

2013.09.23

【寄稿】

せん妄を正しく判断し“患者目線”のケアを提供する

山内 典子(東京女子医科大学病院看護部・精神看護専門看護師)


 せん妄は,一般診療科に入院中の患者に最も日常的にみられる疾患のひとつであり,その発症により基礎身体疾患への悪影響,合併症の併発,死亡率の増加,入院の長期化,医療費の増大など,さまざまな問題を引き起こすことが指摘されています。

 さらに,患者は後々までせん妄を苦痛な記憶として有していることが知られ,米国精神医学会の治療ガイドラインにおいては,「患者への理解と支持を提供しながら患者の失見当識の再構成を行うこと」が推奨されています。特に最近では,ICU在室中のせん妄の発症がその後の認知機能障害の原因となる可能性,また,ICU在室中の幻覚や妄想の記憶がPTSDの罹患に関連することを示唆した報告があります12)

 こうした背景から,患者のせん妄を予防する,重症化,遷延化を防ぐ意義は極めて大きく,看護師には,せん妄の兆候に対する早期発見,せん妄であることの的確な判断,さらに原因や誘因を整理して対応する能力が求められています。また,患者にとっての安寧を知って働きかけることも看護師に求められる重要なケアです。

せん妄を判断し,対応することの難しさ

 しかしさまざまな報告によって,看護師によりせん妄が見逃されていることがわかっています3, 4)。看護師がせん妄について,見当識や記憶の障害を確認しないまま意識状態や認知機能を問題がないと判断したり,心理的な落ち込みであると思い込んだりすることが理由であるといわれています。実際,日々のコンサルテーションにおいても,医療スタッフが注意障害を軽視していたり,見当識までは確認していなかったということがしばしばあります。

 せん妄の判断を難しくさせるのが,もともとある認知症の存在です。せん妄と認知症の大きな違いは,前者は数時間から数日という短い期間で発症するのに対して,後者は数か月から年単位でゆっくりと発症することにあります。また,認知症が基礎にあるとせん妄を発症しやすく,両者は併存しやすい関係にあります。

 さらに,低活動型せん妄は一見,無気力で意欲が低下しているように見え,うつ状態と間違われやすいことが知られています。

 最近われわれが行った調査においても,看護師は,低活動型せん妄,認知症に伴う低活動型せん妄,うつ病に併発したせん妄に対して正しく判断できない傾向があること,また,その時点で優先して行うべき適切な対応方法の知識も不十分であることがわかりました。こうした鑑別の難しい精神障害に関する知識を元に正しい判断を行い,適切な対応方法を実践できる能力が,看護師には不可欠です。

知識を修得することで早期発見は可能に

 当施設では,2009年にT-MAD(Tokyo Women’s Medical University Multidisciplinary Action on Delirium:東京女子医大・多職種によるせん妄ケア活動)チームを結成しました。このチームは,精神科医,麻酔科医,専門看護師(精神看護,急性・重症患者看護,老年看護,がん看護),看護教員により構成され,臨床のせん妄ケアの実践力向上に必要なことを考え,研究や教育に重きを置いた活動を行っています。看護師のせん妄ケアの知識について実態調査を行い,また,講義と事例検討から成るせん妄ケアの教育プログラムを実施してその効果を検証しました。プログラムは内容の修正を重ねながら現在も継続されており,看護師がせん妄に対して早期に気付き,そのアセスメントを含めて医師に報告することが増え,せん妄のハイリスクの患者を選定してスクリーニングを行う病棟も出てきています。

 一方,当施...

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