医学界新聞

2013.09.09

[秋田大学医学部における取り組み]

1年次から,臨床現場を見据えた教育を

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総合的な診療能力を全医学生に(長谷川仁志)


 ブース内に置かれたビデオカメラは,緊張した面持ちの学生を映し出していた。「始めてください」という開始のアナウンスがかかると,学生はブースの外で待つ患者を呼び入れ,ぎこちなく模擬患者に声をかける。「Hello, my name is ……. I'm a medical student.」「What seems to be the problem today ?」――。

 これは秋田大医学部の授業で行われた,外国人模擬患者による英語の医療面接OSCEの一場面。「胸痛を訴える外国人患者を診察する」という設定で,主訴,症状のある部位,範囲,性状や持続時間といった情報を5分以内に聞き出し,可能ならば鑑別診断まで明示するというものだ。疾患に関する基本的な知識や臨床推論能力に加え,英語によるコミュニケーションスキルも試される。驚くべき点は,この医療面接OSCEに挑むのが,医学部に入学して4か月にも満たない1年生であることだ。

1年次からの医療面接OSCE

 同大では,1年次必修の「初年度ゼミ」において,臨床医が遭遇する機会の多い症状・疾患を中心に,臨床推論のために必要な鑑別ポイントや陥りやすいピットフォール,医療面接のコツを個人・グループで学習する。模擬患者による医療面接OSCEは,それらの学習の効果を評価する目的で行われている。

 この1年次からの医療面接OSCEは2011年度から導入し,通年で計4回(7月・12月に各2回/4ステーション)実施している。12年度からは英語による医療面接の学習開始に伴い,外国人模擬患者の養成を行う芦田ルリ氏(東医大)・倉本クリスティーン氏(浜松医大)の協力を得て,年4回のうち1回を外国人模擬患者の医療面接OSCEに切り替えた。本年度からは通年で2回,外国人模擬患者による医療面接OSCEを実施することとし,本紙取材日がその1回目の実施日。次回は12月に行う予定だという(写真1)。

写真1 外国人模擬患者たちは,「マナーや態度は,適切でしたか」「わかりやすい言葉づかいでしたか」「話をよく聴いてもらったと思いますか」等の5項目について3段階評価した上で,総合評価を6段階で行った。医療面接OSCEを終えた後に行われた模擬患者の反省会では,学生の診療態度や英語力に課題は残るとしながらも,堂々とした姿に「まだ1年生とは思えない」といった感想も聞かれた。

体験が課題発見と,意欲向上につながる

 冒頭の学生も,自身の英語が伝わることで安心したのか,徐々に緊張が和らいできた。事前に唯一知らされていた「胸痛」の情報を頼りに,「Have you had this kind of back pain before ?」「How about your parents ?」などと問いを重ね,患者の回答に驚きの表情を浮かべたり,質問や返答の声に抑揚をつけたりと,"共感的態度"を示す努力も見られる。3か月の間に学んできたことを十分に発揮することができたようだ。

 もちろん,すべての学生が上手く進められるわけではない。言葉が続かずに沈黙してしまう,聞き出した情報のメモに集中してしまいカルテから顔を上げずに診療を続けてしまう,5分の持ち時間内にクロージングできずに中途半端なかたちで面接を終えてしまう,といった学生の姿も見られた。しかし,長谷川氏は,「失敗を含めた体験そのものが学び。この体験を通して課題を発見し,学習意欲の向上につなげてほしい」と強調する。医療面接OSCEを受けた学生たちは,後日,ビデオカメラに収めた自らの診療のようすをグループで振り返り,自己評価やグループ内のピア評価を通して改善点を洗い出し,次回に向けて学習を進めていくという。

 学生からは,「狭心症の典型例であるとはすぐにわかった。でも,英語になると問診のフレーズがすぐに思い浮かばないのが反省点。次回に活かしたい」という声が聞かれた。早くも課題を見つけ,次の機会に向けて意欲を燃やしているようだ。

シミュレーターを利用し,基礎医学と臨床医学をつなぐ学習も

 同大が行う1年次からの実践的な教育は,これだけにはとどまらない。OSCEを終えた学生たちが向かった先は,同大シミュレーション教育センター内にある「臨床基本手技ラボ」。ここでは医学部3年生が講師役となって,腹部超音波検査シミュレーターを使いながら,1年生に対して各臓器の位置や画像のとらえ方を指導していた(写真2)。

写真2 講師を務めるのは,ボランティアの3年生。解剖学が未習の1年生に対し,「皆が知っている臓器から探してみよう」と,指導にも工夫が見られた。当日,講師を務めた学生は「経験豊富な先生方より,経験の浅い自分たちのほうが初学者のころの感覚が残っているので,教えやすい面もあるはず。また,教えることを通して,自分自身の勉強にもなっている」と語った。

 実際の臨床現場でも用いられる検査器具を使いながら,可能な限り生身の身体に近いかたちで人体の構造に関する知識を学ぶ機会をつくる。この取り組みについて長谷川氏は,「2年次に学ぶ解剖学への関心と理解を深めることが狙い」と明かす。和やかな雰囲気のなか,3年生の説明に熱心に耳を傾ける1年生の姿を目にして,長谷川氏が構想する基礎医学と臨床医学を統合した教育が,確実に広がりつつあると感じた。

(了)

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