医学界新聞

2013.08.19

多様化するうつ病像をとらえる

第10回日本うつ病学会開催


 第10回日本うつ病学会が,7月19-20日,北九州国際会議場(北九州市),他にて中村純会長(産業医大)のもと開催された。10回目の節目となった今回は「多様化するうつ病の今とこれから」をテーマに,病態の多様化,患者数の急増,そして自殺や職場のメンタルヘルスといった社会問題とのかかわりなど,うつ病の幅広いトピックを包含したプログラムが組まれた。本紙では,いわゆる「新型うつ病」について同学会の暫定的見解が示されたシンポジウムと,高齢者のうつ病と認知症との関連を考察したシンポジウムを報告する。


いわゆる「新型うつ病」には生活習慣や環境の改善が重要

中村純会長
 いわゆる「新型うつ病」とは「自分の好きな仕事や活動時だけ元気になる」「休職にあまり抵抗がない」「身体的疲労感・不調感を伴う」「自責感に乏しく他罰的」といった病像を特徴とし,若年層で就学・就業を契機とした発症が増えているとされる。ただ,名称や定義の学術的な検討がなされておらず,臨床現場ではその対応に少なからず混乱がみられる。シンポジウム「いわゆる『新型うつ病』に対する学会見解を目指して」(司会=九大大学院・神庭重信氏,産業医大・中村氏)は,こうした「新型うつ病」について,学会としての統一見解を見いだすべく開催された。

 黒木俊秀氏(九大大学院)は,伝統的なうつ病像とは異なる「非定型うつ」の概念は以前から存在したが,2005年に「ディスチミア親和型うつ病」(樽味伸氏)として明確に定義され,その定義がいつしか「新型うつ病」と呼び変わり独り歩きし始めたと省みた。ただ「新型うつ病」の特徴は現代の若年者にある程度共通してみられる特性で,一括りにカテゴリー化する意義に乏しいと指摘。効果が限定的な薬物療法よりも疾患教育や生活習慣の是正など心理的な支援を中心に行い,診断書も,患者の状態や対応の仕方を具体的に記載するといった工夫をすべきと提案した。

 続いて斎藤環氏(筑波大)が,社会と若者心性の変化から「新型うつ」を読み解いた。氏は90年代以降,社会の心理主義化のなかで精神疾患も文化的に装飾され,“野生”のうつはもはや存在しないと指摘。葛藤や孤立はスティグマ化し,特に若い世代で「空気が読めること」,つまりコミュニケーション能力が評価の基準となる風潮が高まっていると解説した。社会が豊かになり「生存」への不安は減少した一方,「実存」の不

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